りんたろう監督に聞く作品のみどころと最新作
『幻魔大戦』りんたろう監督インタビュー
文: 氷川竜介(アニメ評論家)
僕が長編に入ったきっかけは『銀河鉄道999』(79)でしたが、自分の中で「今後こういうスタイルで作っていけるかな」と長編に腰を落ち着ける方向性を見つけたのは、『幻魔大戦』なんです。原作は角川文庫から出ていた平井和正さんの小説ですし、角川映画初のアニメーション映画ですから、それが一般の映画ファンにも認められるかどうか、角川春樹さんともども勝負に出たい。そんな想いで作った作品です。
お話をいただいたとき、大友克洋という新しい才能をキャラクターデザインとしてぜひ入れたいと、すぐに思い浮かびました。彼の絵はリアルと言われてますが、独特の線でデフォルメされているんです。その独特の線のシャープさをアニメーターが引ければ、新しいスタイルが獲得できるはずだと、そこにすべての勝負がかかってました。
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クライマックスの富士山では、思いきって永井荷風をカリカチュアして出してみるという突拍子もないアイデアに加え、火焔竜というアニメならではの絵の面白さをメタモルフォーゼ表現で追求しててみたわけです。僕には(葛飾)北斎のイメージがあったんですね。それもとにスペシャルアニメーションでクレジットされている金田伊功くんと話をして、もっとデフォルメを加えて独特の炎にしていく。そのうちに、ご存知のような竜のかたちになっていったわけです。
実は『よなよなペンギン』にも竜が出てくるので、「僕は竜が好きなんだなあ」って思いました(笑)。それぐらいよく出てきますね。
音楽に関しては、鼓童の和太鼓は最初から使うつもりでしたが、全体は『銀河鉄道999』の青木望さんの音楽で行こうと思ってたんです。角川春樹さんは僕と同じで映画にどう音楽をつけるか、ものすごく興味のある人で、周りにはものすごくキレるブレーンもそろってましたから、そういう人たちとワイワイやってくうちに「キース・エマーソンはどうだ?」という話が突然出たんです。僕も大好きなミュージシャンですが、これまでにない発想に驚きましたね。
ただ、スケジュール的に全曲は無理だったのでポイントだけお願いして、あとは青木さんの曲を僕のほうでうまくコントロールして使うことにしました。彼はイギリスから六本木にあった日活スタジオセンターにマシンを何台か持ちこんで、そこに滞在して作曲してました。「とにかく監督は来てくれ」と言われたから、マンツーマンでつきっきりです。朝から裸になってワイン飲みながらラッシュを観て、シンセサイザーを弾きっぱなし。音を作るたびに「どうだ?」って訊かれるんですが、多重録音ですから後から重ねるわけです。最初のベース音だけ聞いても分かるわけがない(笑)。
その間、僕はスタジオに画素材を持ってきてもらって、そこでチェックしてましたね。彼もアニメーションは初めてで熱心でしたし、やはりプロとしてものすごい柔軟性をみせるんです。仕上がってきたときに「もう少しここをこうしたら」と言うと応えてくれるし、「終わった!」と言いつつ、すぐまたやり直したり。「この音が足りない!」って分かると、どこからか音源を仕入れてきてまたそれを重ねるとか。ほとんど24時間働きっぱなしでした。「これが好きなんだよ」って言ってましたし、あんなに働いたミュージシャンは初めてで、面白い仕事ができましたね。
ものすごくきれいな曲ですから、その原音がちゃんと出るのはいいですね。
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それまでのいろんなテレビアニメで、家は家みたいに記号化されていたのがずっと気になってたんです。『幻魔大戦』では「観客にリアリティを感じさせたいなら、それじゃダメだ」と、シナリオで「ある街」としか書いてないのに、「自分が住んでる吉祥寺にしよう」とか「新宿の高層ビルを墓標のように見せよう」と考えました。
大友くんとキャラクターを作っていくときにも、「りんさん、このキャラクターはどういう靴を履くのかな」とか「セーター着るときはニットを首にかけるのかな」とか「シャツはボタンダウンかなあ」とか会話しながら、全部詰めていったんです。そういうディテールでキャラクターにリアリティ、存在感を出す。そこも面白かったですね。
どこかで長年、何か自分の中に物足りなさを感じてたんですね。「このキャラクターなら、こんな家には住まないだろう」とか「このイスには座らないだろう」っていうことを、思いきってここで推し進めた。それがやがて、ひとつのスタンダードになったんだと思いますね。
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