マンガはなぜ赦されたのか-フランスにおける日本のマンガ-第6回「郊外」から成功したマンガ出版社:Ki-oon-後編- | アニメ!アニメ!

マンガはなぜ赦されたのか-フランスにおける日本のマンガ-第6回「郊外」から成功したマンガ出版社:Ki-oon-後編-

短期集中連載(毎日曜・水曜更新)、全9回予定。■豊永真美 [昭和女子大現代ビジネス研究所研究員] [第5章「郊外」で起業するということ-後編―] 新興マンガシ出版社Ki-oonの誕生とビジネスにフォーカス。

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[第5章「郊外」で起業するということ-後編-]

■ 豊永真美
[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]

■ 移民出身の成功者としてのアメッド・アニュ

ここまで、Ki-oon社の歩みを紹介してきたが、アニュはマンガ出版社の社長としてでなく、アフリカ系移民の成功者としての顔も持っている。このことは非常に重要だ。
Tonkamのような日本のマンガ出版社は、日本のマンガに興味のある人からしか興味を持たれない。これに対し、GlenatやKANAはマンガに興味がない人や企業でも親会社の経営状態に興味を持つ人や企業はいる。このように「関心をもたれている」ということはフランス社会においては非常に重要だ。

フランスでは日本のポップカルチャーが人気といわれているが、大半の人は全く日本のポップカルチャーに興味がない。クラブ・ドロテの時代は、日本のアニメに嫌悪をいだく人でもその存在を知っていたが、今は地上波で日本アニメが放送されることはほとんどない。このためもあり、今は日本のポップカルチャーに嫌悪を感じる人は少なくなっているが、存在を知らないという人は多いのだ。
これに対し、フランスの郊外問題というのは、広くフランス人が共有する問題だ。そして、郊外で起業したKi-oonというのはそれだけで社会的関心を持たれる。特に、社会党を支持する人は郊外や移民の問題に関心が高く、アニュが発信する情報は左派フランス人に届きやすいのだ(そしてフランス人の半分は左派である)。

それでは、アニュはどのような発言をしているのだろうか。日本人としては、日本について好意的な発言をして欲しいと考える。
アニュは日本語ができることにより、日本の作家や出版社とのコミュニケーションが容易となるとしている。しかし、出版社との関係でいうと、出版社を立ち上げた際、日本の出版社は、経験のない出版社には版権を渡せないと言われたが、どこか版権を渡してくれないと経験がつめないと、日本の出版社の融通の利かなさについてもフランスでは語っている。
このため、日本のまだ海外展開していない作家を見つけてエージェントとなったことが成功の秘訣だったといっている。
マンガ以外の日本のことはどうだろうか。アニュは、JETプログラムの経験として、日本人の公共の場所での礼儀の正しさを称賛しながらも、意見を述べることが不得手であることを指摘している(*25)。日本人の欠点も述べているわけだ。

また、アニュは自分がきちんとビジネスで成功できた背景として、中学の段階で地元の中学ではなく、中産階級も通う中学に越境入学できたことが大きいと語っている。「優先カルチエ」の中学は、教師の数も多い反面、生徒の質が低く、勉学のモチベーションを保つことが難しい。越境入学できた自分は勉強をする習慣をつけることができたという。日本のアニメを見たおかげで、日本に関心が持て、勉学のモチベーションが保たれたとは語ってほしいところだが、そのようにはなっていない。
さらに、ラジオ番組で、アニュは、政治的なポジションとしては、社会党支持で、日本のアニメに批判的なことで知られるセゴレーヌ・ロワイヤルが大統領候補になったときでさえ、ロワイヤルに票を投じたという。
原子力発電を担う東電が民間企業であることに対しても、アニュは批判的だ。民間企業はどうしても近視眼的で、利益を追求するので、原子力発電のようなものは公的機関が担うべきだと考えている。

このようにアニュは日本に対して、すべてを肯定しているわけではなく、むしろ、日本のビジネスや文化には付き合うには難しい点があることをフランスに伝えている。
そのような姿勢が、フランスでは非常に評価されている。日本とビジネスをしながらも「日本かぶれ」ではない点がアニュの魅力であり、逆に日本かぶれでないことが、アニュの魅力が日本に伝わらない理由でもあろう。

[/アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz より転載記事]
《アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz》
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