マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第5回「「郊外」から成功したマンガ出版社:Ki-oon」-前編- | アニメ!アニメ!

マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第5回「「郊外」から成功したマンガ出版社:Ki-oon」-前編-

短期集中連載(毎日曜・水曜更新)、全9回予定。■ 豊永真美 [第5章「郊外」で起業するということ-前編―] 新興マンガシ出版社Ki-oonの誕生とビジネスにフォーカス。

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[第5章 「郊外」で起業するということ-前編―]

■ 豊永真美
[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]

■ シャルリ・エブド誌の襲撃が明らかにした移民問題

シャルリ・エブド誌編集部とユダヤ人向けスーパーを襲撃したのは、フランス生まれの移民二世の若者だった。シャルリ・エブド誌を襲撃したクアシ兄弟は、幼い頃施設に預けられたのち、ピザの配達人などを経て、イスラム過激派に取り込まれていった。教育も受けられず、正規の職業につけなかったことが過激派に走った要因とされている。
シャルリ・エブド誌襲撃とほぼ同時に起こったユダヤ人向け食料品店を襲撃したクリバリも移民二世で、パリの郊外の低所得者向け住宅が立ち並ぶ地域で育っている。クリバリが育った地域は、フランス語でいうところの典型的な「郊外」だ。

フランスは、人種差別をかえって増長させるとの観点から、アメリカのように人種ごとの就業統計などを出していない。移民の生活状態を公式な統計で知りうるのは地域別の統計が手がかりとなる。政府が認定している低所得者が多く住む地域は、ZUS、CUCSなど呼び名を変えながら、保護・支援策が重点的にとられてきた。
2014年12月30日にはこのような困難な地域の新しい呼び名を「優先カルチエ(quartier prioritaire= QP ちなみにカルチエはカルチエ・ラタンのカルチエと同じ)と名づけた。QPには約400万人が住む(*16) 。「郊外」と呼ばれる移民が多く住む地域はたいていこのQPと一致する。
QPでは人口の64%がHLMという低所得者向けの住宅に住み、31%が低所得者となっている。ちなみにフランス全体でHLMに住む人口比率は19%、低所得者が10%なので、相当「貧しい」地域であることがわかる。フランスの統計の性格上、この低所得者に占める移民の割合は不明だが、実際にこのような地域に行ってみると、イスラム系住民やアフリカ系住民が目に見えて多いことがわかる。

低所得者が集まって住んでいるため、この地域は教育も荒む。QPでは義務教育も重要課題とされており、公立校で生徒あたりの教師数を増やす措置もしているが、なかなか成果をあげることができない。さらに、フランスの大学入学に必要な、「バカロレア」という試験は論述が中心だ。代表的な試験科目である哲学では、「愛は真実に勝るのか」というような1行の問題に対し、4-5時間かけて回答する。当然、フランス語力および深く広い教養が要求され、両親がフランス語ネイティブでない移民2世には突破するのがつらいシステムだ。 

2005年、パリの「郊外」をはじめ、フランスの大都市近郊で起こった移民2世の暴動はフランスの移民問題の深刻さを世界に知らしめた。しかし、移民問題はそれ以前からフランスでは深刻になっている。それはフランスでヒットする映画をみてもわかる。
日刊SPA!では「なぜフランスでテロは起こるのか? 映画から読み解く黒歴史」(*17)というタイトルで、1995年の映画「憎しみ」を取り上げ、2005年の暴動の10年前からフランスでは移民の問題が深刻だったことを指摘している。

日本でも大ヒットした「最強のふたり」(2011年)はブルジョワの白人の身障者と黒人介護士の友情を描いたものだ。白人のブルジョワはシアンス・ポ(パリのブルジョワ階級の子弟が多く通うグラン・ゼコールの準備校)で亡くなった妻と出会っており、趣味はクラッシック音楽。一方、刑務所帰りの黒人介護士にとっては、クラッシック音楽は携帯電話でトラブルがあったときコールセンターの対応待ち受けの音楽に過ぎない。
カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した「パリ20区、僕たちのクラス」(2008年)は低所得地域の中学校の物語だ。移民の子弟たちはフランス語の上級文法を「ブルジョワが使うもの」としてはなから覚えようとしない。かなりステレオタイプな扱いだと思うが、それでもカンヌ映画祭のグランプリを受賞するのだから、ある程度、真実は反映しているのだろう。

移民階級の待遇の改善をどのようにするかは常に大きな政治課題である。実際の移民の数が多いのも確かではあるが、映画をよく見に行くフランス人の富裕階級が常に移民問題に気をかけているということは、フランス人がいかにこの問題を解決しようかと努力しているという証拠であろう。見て見ぬふりという状態ではない。
また、少しずつではあるが、移民の中でも成功する人が出てきている。サッカー選手やバスケットボール選手、音楽の分野でのラッパーはもっとも早く成功者がでたが、柔道など従来は白人のスポーツとされていた分野でも活躍する選手がでてきた。柔道の男子重量級で黒人のリネール選手はフランスのアイドルスターである。 
移民出身者が目立つのは政治の分野でもある。たとえば、2015年2月現在、フランスの司法大臣のクリスチアヌ・トビラは仏領ギアナ出身だ。
フランス社会は常に移民問題を考えており、成功者が出てくることを祈っている。しかし、スポーツと芸能と政治の分野以外での成功者、普通のビジネス界での成功者を見つけることはなかなか難しい。
《アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz》
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