マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第4回「カトリック出版とマンガ出版の関係」
短期集中連載(毎日曜・水曜更新)、全8回予定。■ 豊永真美 [昭和女子大現代ビジネス研究所研究員] 第3章 シャルリ・エブドから生まれた奇才 ジャック・グレナはなぜマンガ出版に乗り出したのか。
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メディア・パルティシパシオンとマンガ出版の関係]
■ 豊永真美
[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]
■ カトリック出版から日本のマンガに進出
フランスの政治においてライシテ(「政教分離」)は、絶対の命題だ。例えば、クリスマスの時期には、公の場所で、馬小屋でのキリスト誕生の人形を飾らないように呼びかけがなされる。もちろん、カトリック教会の中や個人の家では飾ってもよい。しかし、公立の学校や市役所などでは飾ってはいけない。こうした政府のよびかけもあり、大企業が出すクリスマス・カードも宗教性のない図柄が一般的だ。
だからといって、カトリックの影響力がフランスの政財界でなくなったわけではない。フランスの代表的な富豪である化粧品のロレアル創業者一族のリリアヌ・ベタンクールや生命保険のアクサ会長のクロード・ベベアールは親カトリックの代表者といわれている。
ちなみにリリアヌ・ベタンクールという名前がいかにフランス社会で大きなものであるかは、「21世紀の資本」で知られるトマ・ピケティのエッセイ集「トマ・ピケティの新資本論」(2014年 日本経済新聞社)で繰り返し彼女の名前が、「富を独占する悪者」として出てくることでもわかる。リリアヌ・ベタンクールはサルコジ前大統領に不透明な資金援助をしていたことでも有名で、よかれあしかれ、フランスの経済界で無視することはできない存在だ。
また、タイヤやガイドブックで知られるミシュランは創業者のミシュラン一族が熱烈なカトリック教徒だ。彼らは保守党の支持者でもあり、保守党とカトリックは深い関係があるというのは、フランス人社会の暗黙の了解だ。
しかし、これは暗黙の了解であって、建前の世界ではあくまで「政教分離」を貫かなくてはならない。リリアヌ・ベタンクールといえども、フランスでは大っぴらにカトリック教会を支持することは憚られる。フランスの富豪は、保守党政治家への不透明な献金より、カトリックへの不透明な献金のほうが許されない。
さらに、フランス人の一般人の宗教離れ、特にカトリック離れは著しい。一般のフランス人の間で、カトリック信者は減少している。政教分離が浸透したことにより、無宗教でも生きられるのだ。
ル・モンド紙(*13) によると、フランスにおけるカトリック信者の割合は1952年の81%から2010年には64%に減少した。ただし、カトリックと公言している人でも、教会とのかかわりは減少している。日曜のミサに定期的に行くカトリック信者の割合は1952年は27%だったが、2010年には4.5%にまで減少した。別の調査では、現在カトリックと公言しているフランス人のうち57%は全くミサにいかないという。
そして、教会にいかない人々は当然のことながらあまりお布施も払わない。一般人からのお布施がないことはカトリック教会の財政にとっては致命的だ。
カトリック教会は聖書のほか、カトリック関係の出版物を数多く出しているが、60年代にかけて、フランスのカトリック出版の売れ行きは縮小していった。
このカトリック出版の危機を救ったのが、フランスの保守党の政治家で富豪のレミー・モンターニュ(1917年ー1991年)である。妻がミシュラン一族の出身であった彼は、81年に政界を引退後、カトリックメディアの再建に尽力した。1981年には経営危機に陥っていたカトリック系の週刊誌「キリスト教家族(Famille Chretienne)」を引き取り、かつ他の経営危機にあった中小のカトリック系出版社をまとめてグループ・アンペールを創業した。
しかし、カトリック系の出版社を集めただけでは、経営基盤は弱いままである。出版社が自律的に稼げるようになるため、日本でも知られている「タンタン」をベルギーで出版していたロンバールを買収し、1986年にグループ・アンペールはメディア・パルティシパシオンとなる。メディア・パルティシパシオンは88年にはダルゴーを買収する。ダルゴーはフランスで「タンタン」を出版したことで知られ、また、フランスの国民的バンド・デシネである「アステリックス」の1巻から25巻までを出版していた。メディア・パルティシパシオンが買収したころは、フランスの代表的なバンド・デシネの出版社であった。
[/アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz より転載記事]