ガンダムの受容を拡大させた「宇宙世紀年表」とダイジェストムービー『百年の孤独』:氷川竜介 | アニメ!アニメ!

ガンダムの受容を拡大させた「宇宙世紀年表」とダイジェストムービー『百年の孤独』:氷川竜介

レビュー

ガンダムの受容を拡大させた「宇宙世紀年表」
とダイジェストムービー『百年の孤独』
文:氷川竜介(アニメ評論家)


『episode EX 百年の孤独』は、「宇宙世紀ダイジェストムービー」である。『機動戦士ガンダムUC』episode 7 「虹の彼方に」の劇場では30分バージョンが直前に流れる。Blu-ray 7初回限定版の特典DISCには、「完全版」として45分バージョンも収録されている。
最終章上映を前提に『ガンダムUC』の小説を書いた福井晴敏自らが構成シナリオを書き下ろし、「宇宙世紀の百年」を生きた者の口から歴史を総括するという趣向だ。もともと『ガンダムUC』の物語が「ガンダムとは何だったのか」を問いかける側面をもつので、シンクロした内容ともなっている。映像は『ガンダムUC』の6話までと新作、そして『機動戦士ガンダム』から『逆襲のシャア』まで富野由悠季監督による各作品からも抜粋している。『機動戦士ガンダム』TV放送から35周年の今年、多層的にその本質へ迫ろうとするアプローチは実に興味深い。

では、その「宇宙世紀」とは何なのか。それはガンダムシリーズにおける「架空の暦」だ。壮大な年表も作成されている。
1979年に『機動戦士ガンダム』がTVシリーズで始まったとき、その大きなチャレンジのひとつが「架空の暦“宇宙世紀”を導入すること」だった。「新時代を記念して宇宙世紀という新暦がスタートした」として、現実の「西暦」という地続き感から世界を切り離し、相対的なポジションにおいたのだ。
架空年表自体はSFやファンタジーで既にあった手法である。だが、「宇宙移民」というテーマや物語ともつよい関連のある「宇宙世紀」を設定し、それまで背景にあった「世界観」を前景化することは、玩具セールスを主体としてきたロボットアニメとしては実に斬新であった。
劇中で新型兵器としてヒーロー性を発揮するモビルスーツ“ガンダム”。物語の時制は「宇宙世紀0079(ダブルオー・セブンティナイン)」である。「独立戦争により、総人口の半数(約50億人)を死に至らしめた」という大量殺戮を背景においた状況設定。“0079”の根拠ともなった1979年、全面核戦争の危機はまだ続いていたから、そのメタファーでもある。
このマクロなスケール感による未曾有の極限状態の中で、青春期の個々人がミクロな視点で描かれる。生き延びようとして戦い、悩む主人公アムロ・レイ。開戦直後にルウム戦役と呼ばれる決戦があり、黒い三連星というエースパイロットが活躍したなど、アムロと直接関連をもたない情報も散りばめられながら、物語は進む。こうしたマクロとミクロの対比の醸し出す情感が「宇宙世紀」という「史観」をたたえた単語で叙事詩的テイストに昇華する。「宇宙世紀」とは、ガンダムの魅力と切り離せないものなのだ。

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ガンダムの「史劇」に近い視点と語り口は、観客に大きな感銘を刻みこむ。そして受け手と距離の近かった当時のアニメ雑誌編集部は、放送後に作中情報から「宇宙世紀年表」を作成する。「年表」を生んだのは「作品」だが、こうして「年表」が書かれたことで、逆にそこからプロダクトが産み出される。この逆転が次のステージを呼ぶ。
一連のモビルスーツは、ストーリー進行にしたがって次々に新型が登場するが、それは「軍とメーカーによる開発ステップ」が深読みできる描き方になっていた。たとえばゲルググはガンダム以後のビーム兵器を搭載して進化したジオン軍の機体だが、量産化に時間を要したために大量配備が間に合わなかった。そんな戦記的描写が想像力を刺激する。
モビルスーツの機種と機種の中間には、試作タイプがあったはずだ。地域別に仕様を特化したカスタム機もあったに違いない……そんな二次創作が雑誌で展開され、プラモデルブームと合流して活性化する。これがMSV(モビルスーツ・バリエーション)だ。
そして1985年には続編TVシリーズの『機動戦士Zガンダム』がスタート。時代設定は「宇宙世紀0087」と前作の7年後になった。さらに『機動戦士ガンダムZZ』(86)『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88)と時代設定は未来方向へ伸びていき、年表も長大になっていく。この年表が「ガンダム」各作の関係を整理し、セールスの求心力となった。
一般のアニメビジネスは、キャラクター(メカ含む)こそが根幹にある。ところがガンダムビジネスでは、「世界観」を体現する「宇宙世紀年表」こそがマスターに近い。年表の解釈が新たな作品、新たなモビルスーツ、新たなキャラクターを生む……そんな母体となるまでに成長した。これは実に画期的なことである。

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『機動戦士ガンダムUC』
公式サイト /http://www.gundam-unicorn.net/
《animeanime》
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