「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」トム・ムーア監督インタビュー 前編 民話を身近な存在として現代に甦らせたい | アニメ!アニメ!

「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」トム・ムーア監督インタビュー 前編 民話を身近な存在として現代に甦らせたい

インタビュー

「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」トム・ムーア監督インタビュー 前編 民話を身近な存在として現代に甦らせたい
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アカデミー賞 長編アニメ映画賞にノミネートされるなど世界で高い評価を受けた『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が8月20日(土)に全国公開となる。本作はアザラシの妖精 セルキーの母と人間の父の間に生まれた兄妹による絆と魔法の冒険を幻想的な映像美で織り成したアニメーションだ。
日本公開に先駆け、トム・ムーア監督はこの作品をどのように生み出し、どんな想いを込めたのかを存分に聞いてみた。
[取材・構成:川俣綾加]

『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』
2016年8月20日(土)全国公開
http://songofthesea.jp/

■結果的に、制作スタイルが映画のテーマにも合致した

──いよいよ日本でも公開です。『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は国も年齢も関係なしに訴えかける力のある作品だと感じました。

トム・ムーア監督(以下、ムーア監督)
映画の構想を練る際、まずはスタートとしてアイルランドの自然の風景やずっと昔から語り継がれてきた民話が人々の暮らしと懸け離れた存在になってしまった。それがとても残念だと思う気持ちがありました。特に息子の世代からすると、はるか昔から伝えられてきた民話や神話といった物語は観光客が消費するものとみなされていると感じます。それをそうじゃない存在に、より身近な存在として現代に甦らせたいと思ったんです。それが世界の皆さんに受け入れられた。とても嬉しいです。

──作品を見て特に印象に残ったのは、画面の美しさ。水彩画がそのまま動き出すような幻想的なアニメーションはどのように実現したのでしょうか。

ムーア監督
『となりの山田くん』『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』と同じ手法です。まずは紙の上に線画を描き、並行して様々な水彩画のレイヤーを重ねていきます。THE BIG FARMというベルギーのスタジオが独自開発したソフトによって背景の水彩部分を取り出してキャラクターに当てはめたり、色の濃淡を調整したりと、表現の幅が広がった大きな力となりました。

──手描きとコンピュータでの仕事がうまく融合している。

ムーア監督
水彩の部分と背景画はすべて手描き。描いたものを動かすのはコンピュータ。織り交ぜていますね。でも重要なのは、仕上がりのルックがコンピュータっぽくないようにすること。見る人には手描きの印象を残すことでした。

──画面を見ながら、一体どうやって作ったのだろうと頭をフル回転させていました(笑)

ムーア監督
それは私たちの成功ってことですね(笑)


──アニメの制作工程は日本のものとそう変わらないのでしょうか。

ムーア監督
比較的流れは近いと思いますが、絵コンテを描いている時ではまだシナリオは調整中。その段階で音楽など他の部門によるアイデアを埋め込むための余地を多く残しています。また、5カ国のスタジオによるコプロダクションなので、共有情報がたくさんあるんです。だからいくつかの工程で普段とは異なる方法で進めました。

──具体的にはいつもとどのようなところでしょう?

ムーア監督
例えば絵コンテのあとのレイアウトで、私たちがクリーン・レイアウトと呼んでいる工程。背景とキャラクターを丁寧に描き込んだ、画面の完成版に近いものを200シーンぶん作りました。作画にとって必要な情報が全てそこにあるのです。それをみんなで共有することで全スタジオでぶれのない見取り図が手に入り、共有がスムーズになるメリットがあります。

──この作品はアイルランド、ルクセンブルク、ベルギー、フランス、デンマークの5カ国によるコプロダクションですね。海外にいるチームをまとめるのに苦労などはありましたか?

ムーア監督
ヨーロッパではコプロダクションのモデルがたくさんあり、色々なところから資本を得て1本の映画を作る上で重要な方法。独立性を守る手段なんです。1カ所から資金を得ると独占されてしまう。そうでないことが大切です。5カ国の参加者は、過去に私たちのスタジオであるカートゥーン・サルーンで共同作業をしていた友人たちなので、この新作でも助けてくれました。私たちのスタジオが主体となってキーデザインとキャラクターデザインを担当しています。

──もとより一緒に制作経験のある仲間だったんですね。

ムーア監督
そうなんです。各自でスーパーバイジングできるように、各国のスタジオで働いている中心メンバーをアイルランドのスタジオに招いて何ヶ月が過ごしてもらいました。オリンピックの聖火を灯して持ち帰り、各国のスタッフに火をつないでもらえるように。これによって参加者全員がひとつのチームの一員なのだという想いを持ってもらえたと思います。国はまたがっていましたが、とても結束力のあるチームでしたよ。


──制作を振り返って、一番大変だったことは何ですか?

ムーア監督
一番の懸念は物語づくり。85分をどのように見せるかですね。一方で取り入れたいアイデアが多すぎて。最初の脚本は120ページの膨大なもので、絵コンテにしてみると90分以上になることがわかりました。それをダイエットさせていく作業が大変でしたね。

──作画のほうはどうでした?

ムーア監督
海の描き方です。海の動きは『崖の上のポニョ』のように全てを手描きで表現する余裕はありませんでした。だからといってCGで作ってしまうと安っぽく人工的。一時は解決策が無いと頭を抱えていましたが、実は答えはシンプルなものでした。16種類の波のパターンと水彩で描いた模様、いくつかの飛沫を用意して、それらをコピーしていくことでこの作品の全ての海を描くことができました。

──悩み抜いた末、シンプルな方法が解決策となったわけですね。

ムーア監督
この映画のスタイルにも合致した解決策ですよね。飛び出し絵本みたいに思えませんか? この方法にすることで視覚的にそれまでとは違った印象を与えることができたと思います。

(後編に続く)
《川俣綾加》
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