ミュージカル「リボンの騎士」、21世紀にふさわしい翻案で華麗によみがえる | アニメ!アニメ!

ミュージカル「リボンの騎士」、21世紀にふさわしい翻案で華麗によみがえる

高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義連載第151回■ サファイアのヒントは往年のタカラジェンヌ・淡島千景、アニメの声も元タカラジェンヌの太田淑子

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(C)ミュージカル「リボンの騎士」製作委員会2015
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高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義
連載第151回

■ サファイアのヒントは往年のタカラジェンヌ・淡島千景、アニメの声も元タカラジェンヌの太田淑子

『リボンの騎士』、手塚治虫の不朽の名作、しかも20代の時に発表された”戦うヒロイン”ものの先駆け作品である。天使・チンクのいたずらで男の心と女の心を持ってしまったサファイア王女(王子)、当時の少女マンガでは斬新な設定。サファイアは基本的にお姫様、それが”男装の麗人”となって戦うのである。
サファイアのモデルは当時宝塚歌劇団で人気の娘役・淡島千景と言われている。手塚は淡島の大ファンで、淡島がたまたま男役を演じた時に観劇し、それをヒントに考えたそう。テレビアニメ放映は1967年、ちなみにテレビアニメでサファイアの声を担当した太田淑子は元タカラジェンヌ。

注目のサファイア役は昨年『虹のプレリュード』で華麗なピアノ演奏を披露した生田絵梨花。フランツ王子にはミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンで立海の幸村精市役で注目され、先の公演『女海賊ビアンカ』で上品な貴公子・ロレンツォを演じた神永圭佑、海賊ブラッドにミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン、跡部圭吾で人気を博し、舞台『武士白虎~もののふの白き虎~』でワイルドな斉藤一を演じた青木玄徳、その他、はいだしょうこ、根本正勝等、実力派が揃った。今年の『SAMURAI7』の斬新なステージで記憶に新しい上島雪夫が演出する。

■ ふたつの心をめぐって大混乱、現代的なオチで納得

出だしは天国のシーンから。原作ではいたずら天使・チンク(神田愛莉)がまだ性別が決まっていない子に男の子の心を与え、神様がそうとは知らずに女の子の心を入れてしまうのだが、舞台版では女の子の心を既に入れられた子に「ふたつの心を持ったらどうなるのかな?」と言って男の子の心を勝手に入れてしまうのである。
ふたつの心を持ったサファイア、”男”と”女”のふたつの狭間で揺れ動く。そんな折、隣国の王子・フランツと出会い、恋してしまう。また、フランツもサファイアが変装した”亜麻色の髪の乙女”に恋してしまうのである。

原作の『リボンの騎士』は実は最初の『少女クラブ』、その後の『なかよし』、テレビアニメと設定やキャラクターの立ち位置や性格が少しずつ異なっている。今回の”舞台版”は、そのどれかに寄り添っている訳ではない。ヘケート(桜井玲香)の母、ヘル夫人(はいだしょうこ)は娘思い、元気で女の子らしくないヘケートを心配し、サファイアの女の子の心を無理をしてでも手に入れようとする。そんな母を重荷に感じる娘。母は娘の言う事に耳を貸さず、しかも”時代錯誤”で”女の子らしい”幸せを押し付ける。さしずめ”毒親”状態で、娘は「私は人形じゃない」と歌う。子供の自我を尊重出来ない困った母親だ。
海賊ブラッドは男気があり、翳りがあるが性根は優しく、凛々しいサファイアに好意を抱く。フランツは真っすぐな純情青年で芯は強く、王子らしい品の良さと正義感にあふれている。息子可愛さのあまり、ナイロン卿(根本正勝)にいいようにされるジェラルミン大公(八十田勇一)に、頼りない我がまま息子のプラスチック(赤澤 燈)。皆、どこかにいてもおかしくない人物ばかり。腹黒いナイロン卿、実はその腹黒さには訳があった。

まさに”王道ミュージカル”、皆、歌唱力が安定しており、とりわけ、はいだしょうこは宝塚歌劇団でエトワールを務めただけあって難易度の高い歌を圧倒的なパワーで歌い上げる。サファイア役の生田絵梨花始め、若手の熱演、ベテランがきっちり脇を固める。サファイアのふたつの心をめぐって、様々な”事件”が起こる。間違ってサファイアの男の子の心がプラスチックに入ってしまい、いきなり”キャラが変わる”ところは抱腹絶倒、このコメディリリーフ的ポジションを赤澤 燈が健闘。また、女の子の心をとられたサファイア、こちらもいきなり”キャラ変更”、生田の切り替わりも上手かったが、周りのリアクションが可笑しく、これも大笑い。
神永圭佑もはや、”王子”にしか見えない。対する青木玄徳の海賊ブラッドはワイルドで俺様風な佇まい、彼の最期は、もう涙腺崩壊の名場面だ。実は、フランツとブラッドの関係は……で、ここは『なかよし』版に準じている。チンクの神田愛莉は芸達者で大人俳優顔負け。映像も使い、舞台転換もスムーズ。さてサファイアのふたつの心はどうなったのか?
原作はサファイアには女の子の心だけが残り、フランツ王子とめでたしめでたし、で終わる。舞台版も基本的にハッピーエンドなのだが、その”オチ”は現代風だ。

振り付けも奇をてらわず、楽曲も変化が合って楽しい。ヘケートはアイドル風ロック調の楽曲で元気キャラをアピールし、フランツとサファイアの恋に落ちる楽曲は、いかにも甘いメロディで、一瞬で恋に落ちた二人の気持ちを率直に表現する。アンサンブルのレベルも高く、出だしの天上のシーンは抽象的でアーティスティックな振り付けが美しい。
ふたつの心を持つサファイアは、揺れ動きながらも成長。フランツも、可憐な”亜麻色の髪の乙女”に恋するが、その正体がサファイアと知り、混乱するも、次第に”それもまたサファイアなのだ”と納得、”ありのまま”のサファイアを愛するようになる。ブラッドもまた、愛を知り、行動を起こす。チンクも、ヘケートもヘル夫人も心の中で何かが変わる。なにより、サファイア自身が2つの心を持つ自分も”いいんじゃない”と思うようになる。
意外な結末であるが、よくよく考えると必然、作品発表から半世紀以上、21世紀にふさわしい”翻案”であった。

ゲネプロ前に囲み取材があった。登壇したのは生田絵梨花(乃木坂46)、神永圭佑、青木玄徳、桜井玲香(乃木坂46)、演出・振付の上島雪夫。
生田は「自分がお客さんとして観たいくらいの世界」と作品を評した。神永は「赤坂ACTシアターに立つのがひとつの目標だった」としみじみ。
青木は「人生初のカラーコンタクトが取れないかどうかが非常に不安です!」と笑わせた。桜井は初ミュージカルとあって「超難しくって!」と一言。上島は「普段から大きな舞台に立ってる人は普通の人とはどこか違う」とコメント。大舞台でも堂々とした演技の2人だった。
さらに生田は「おばあちゃんがアニメを観てたと喜んでくれた」と言い、桜井は「お母さんが『リボンの騎士』!!って(笑)。母が昔から観ていた作品なので嬉しい」。もはや”3世代”に渡ってファンがいる作品だ。上島も「原作は僕が小さい頃に観た。それを若い人が生き直すように演じているのが面白い」と語った。

見どころのひとつの殺陣、生田は「剣の持ち方や(鞘への)入れ方さえもわからなかった」とコメントしたが、ゲネプロでは華麗な剣さばきを披露、練習の成果が伺える。
神永は「僕もこういう殺陣は初めてなので、アンサンブルの方に見てもらいながら練習しました」と語った。上島は「振付家なので、リアルな立ち回りというよりはどちらかと言えば舞踊的に作るほう」とのことだが、流れるような殺陣は流石。また舞踏会でのダンスシーンもあり、見せ所も多い、今回の舞台。原作を大きく翻案し、現代にマッチさせ、それが功を奏した構成。
21世紀版『リボンの騎士』、原作がしっかりしてるから出来ること。作者がもしもご存命だったなら、客席で大きな拍手を送ることだろう。

ミュージカル『リボンの騎士』
2015年11月12日~11月17日
赤坂ACTシアター
2015年12月3日~12月6日
大阪・シアターBRAVA!
http://www.nelke.co.jp/stage/ribbon-no-kishi/
(C)ミュージカル「リボンの騎士」製作委員会2015
《高浩美》
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