手塚治虫未完の原作 「ルードウィヒ・B 」舞台では完結 | アニメ!アニメ!

手塚治虫未完の原作 「ルードウィヒ・B 」舞台では完結

音楽をこよなく愛した手塚治虫、とりわけベートーヴェンにはシンパシーを感じていた。そんな手塚治虫未完の名作『ルートヴィヒ・B』が音楽劇になる。

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音楽劇『ルートヴィヒ・B』
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手塚治虫未完の名作『ルードウィヒ・B』が音楽劇になる。夏の『ファウスト』に続き、エイベックス・ライヴ・クリエイティヴが制作する。手塚作品は、そのドラマ性やストーリー性で、かなり前から様々な作品が舞台化されている。

今年はネルケプランニング制作の『虹のプレリュード』もあったが、こちらはショパンが登場する。『ルードウィヒ・B』は、12月に日本で数多く演奏される、あの交響曲第九番のベートーヴェンの物語である。『虹~』もそうだが、実在の人物と虚構の人物とが物語の中で違和感なく存在し、あたかもそれが事実なのか?と錯覚する程である。

『ルードウィヒ・B』は虚構の人物であるフランツ・フォン・クロイツシュタインという貴族がベートーヴェンとことあるごとに対峙し、迫害し続ける。狂気を感じさせる憎しみ。未完に終わっているが、長編にするための”装置”ではないかと思われる程のキャラの立った人物である。それに真っ向から挑むベートーヴェン。少し変人ではあるが、素直な心と不屈の精神、音楽への情熱、そして音楽と民衆の力を信じる人物像は読者の共感を得る。
しかし、フランツもまた、根っからの悪人ではない。本当の悪人は出てこないのが手塚作品の特長のひとつでもある。彼が悩み傷つき、内なる自己の矛盾を抱えて生きる姿は哀れですらある。

手塚治虫は音楽をこよなく愛したが、特にベートーヴェンにはシンパシーがあったようだ。単行本をひも解くと、巻末の後書きの前にいわゆるマンガエッセー的なページがある。ベートーヴェンが住んでいた家まで行ったときのことが詳細に綴られており、手塚がいかにベートーヴェンが好きだったかがよくわかる。

また物語ではベートーヴェン以前の作曲家も描かれており、モーツァルトは天才故に自由過ぎるキャラクターになっているし、ハイドンは真面目な堅物だが、ベートーヴェンの才能を認める下りでは、その実直さは”ナルホド”と思わせる。
それは手塚自身がクラシック音楽に精通してなければ、フィクションといえども、ここまでの人物像を構築は出来ない。舞台では物語は完結するようだが、コミックは本当に未完で、続きが知りたくても叶わない。もし、最後まで描ききっていたら、フランツはこの後、ベートーヴェンと和解したのか、しないのか。第九に至るまで、どういう過程になるのか、興味は尽きない。
舞台版は歓喜の歌のエピソードを加えているが、どんなエンディングが予定されているのか、ここは”お楽しみ”といったところだろう。

注目のキャストはタイトルロールにA.B.C-Zの橋本良亮、モーツァルト役は同じくA.B.C-Zの河合郁人。ベートーヴェンが憧れるエレオノーレ・ブロイニングに知念里奈、フランツに姜暢雄、父親のヨハンに里見浩太朗、母親マリアに浅野温子。
音楽監督は日本アカデミー賞音楽賞を3度受賞した千住明、劇中音楽の全てを担当する。また『のだめカンタービレ』等、映画やドラマで演奏指導をしている川田健太郎がピアニストとして参加、他に弦楽器+木管楽器の生演奏をすることになっている。演出は『ファウスト』で高い評価を受けたモトイキシゲキ、脚本は『銀河英雄伝説』で実力をつけたヨリコ・ジュン。なかなか手堅い面々である。

なお、里見浩太朗と浅野温子からコメントが届いた。コミック原作、そして手塚作品の舞台に出演は初めて、というお二人である。
オファーの感想について里見は「ミュージカルと言う言葉にはある意味、ひとつの憧れがあった。それと手塚作品には、ある大きなスケールがある。クラシックの事はあまり分かりませんが、そんな意味で今までの自分と違った自分を作って見たい、そんな想いでお引き受けしました」と語る。
また浅野は「私はこれまで、音楽に関するお仕事は何もしてこなかったので、こうして音楽劇に参加できる日が来るなんて思ってもいませんでした。クラシックに親しんできたわけでもないので、驚くことばかりで、貴重な機会をいただいたなと感じています」とコメント。
演じる役柄については里見は「我が子、ルードウィヒに深い愛情と夢を持ちながら、それがルードウィヒに伝わるのかどうか、そんな処が父、ヨハンの難しい処でしょうか?」と語る。
浅野は「私が演じるマリアは、夫・ヨハンと違って音楽の専門家ではありません。だから、ヨハンのようにルードウィヒの才能をはっきりと理解していたわけではないけれど、息子の音楽を聴いて素直に素晴らしいと感じていたのだと思います。音楽家は貴族に仕えるのが当たり前だった時代に、そうでない道を息子に示すことのできる、世の中を公正に見る目を持った人物だったと思います」
そして手塚作品については里見は「どこまでも奥深く、ファンタジックで壮大で心が躍る」と評する。浅野は「愛は勝つ、ということのような気がします」とコメント。そのスケールの大きさと深淵さ、愛に溢れた作品を多く描き残した手塚治虫。毎年、必ずどこかで上演される所以であろう。今回の『ルードウィヒ・B』も期待したい。

《高 浩美》
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