文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞 幸村誠さんの魅力 | アニメ!アニメ!

文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞 幸村誠さんの魅力

2月11日に東京国立新美術館で開催された文化庁メディア芸術祭マンガ部門受賞者シンポジウムは、そんななかで始まった。登壇者は本年のマンガ部門大賞作品『ヴィンランド・サガ』の作者幸村誠とマンガ部門主査でマンガ家のしりあがり寿、マンガ部門審査委員の細萱敦であ

イベント・レポート
注目記事
 マンガ家幸村誠を最初に観た時は少し驚いた。『ヴィンランド・サガ』、その前作『プラネテス』のイメージと直ぐに結びつかなかったからだ。いずれもシリアスなテーマを持ち、緻密に練られた作品で、目の前にいる冗談を交えながら明るく話す、無邪気にも見える人物像とやや異なって感じたためだ。
 2月11日に東京国立新美術館で開催された文化庁メディア芸術祭マンガ部門受賞者シンポジウムは、そんななかで始まった。登壇者は本年のマンガ部門大賞作品『ヴィンランド・サガ』の作者幸村誠とマンガ部門主査でマンガ家のしりあがり寿、マンガ部門審査委員の細萱敦である。

 シンポジウムは審査員ふたりが質問を投げかけて、それに幸村誠が答えるかたちだ。質問者ふたりにゲストが一人、そして幸村誠が慎重に言葉を選ぶこともあり、話の核心に十分入り込めないややスローなスタートとなった。そこで、最初の感想が浮かんで来たわけだ。
 しかし、シンポジウムが進むに連れて、幸村誠の言葉が少ないのは、非常に照れ屋であると同時に、自分が話す際に正しい気持ちを伝えようという誠実な姿勢によるものであることが判って来る。同時に、何気なく語られる言葉のひとつひとつが、実は確かな知性によって裏付けられていることに気づかされる。作品に表れる暴力や死を語る時、それは単なる物語の演出でなく、幸村の人生観が反映されていることが理解出来る。そこで初めて、『ヴィンランド・サガ』、『プラネテス』と幸村誠が結びつく、むしろこれらの作品はこの人にしか描けないとの確信にいたる。

        YUKIMURASENSEI.JPG

 幸村誠によれば『ヴィンランド・サガ』を描く際に、ヴァイキングをテーマに選んだのは、必ずしもヴァイキングが好きだったからではない。まず、暴力を作品のテーマにしたかった、そして日常的に暴力のある舞台を探した結果だという。そこで、日本の歴史を選ばなかったのは、既に多くの作品が日本の歴史を取り上げて来たからだと説明する。
 勿論、暴力ばかりの集団が新大陸を発見したという不思議さや死生観など、ヴァイキング特有の魅力も挙げられる。しかし、『ヴィンランド・サガ』を選ぶうえで、面白い作品になる素材かどうかが事前に十分に吟味されたことが判る。しかも、これは出版社や担当編集者に相談する前に勝手にやっていたというから驚きだ。

 読者が作品を読んで楽しいかどうかは、幸村誠にとってとても重要なことだ。彼はかつて編集者に言われた「人が自分のマンガを読んでくれると思うな」との言葉を引き合いにだし、読者にはどうか読んでくださいという気持ちを持つことが大切と語る。絵やコマ割はストレスがないように考えて描いており、時には外国語に翻訳した時にどう見えるかさえ考えて絵を描く。まず読者ありき、作品と読者への真摯な姿勢だ。
 受け手の反応を考えながら、同時にオリジナルの個性がある作品を創作出来る、それも幸村の才能のひとつだ。そして、作品を支えるヴァイキングに関する知識の豊富さとその調査力に驚かされる。シンポジウムの1時間半は、最終的には幸村誠の才能と魅力を十分に引き出した意義の大きなものだった。

 文化庁メディア芸術祭のシンポジウムの目的は実はよく判らないところもある。受賞作品を語るのは簡単だが、作品を語ることで何を伝えるのか、それはメディア芸術祭に限らずしばしば曖昧になりがちなことだ。
 しかし、今回はそれが当初の意図にあったかは判らないが、「優れたマンガ作品がいかにして生まれてくるのか?」、そんな単純な疑問にストレート答えるシンポジウムとなった。ただ、それは人があまり真似出来るものではない。それは知性と無邪気さ、画力、そうした才能を全て持ち、かつその微妙なバランスの中で作品制作を続ける幸村誠の特異な才能に依存している。

文化庁メディア芸術祭 /http://plaza.bunka.go.jp/

2月11日(木・祝)13時〜14時半
出演:
幸村 誠 (大賞『ヴィンランド・サガ』)
しりあがり寿(マンガ部門主査 / マンガ家)
細萱 敦(マンガ部門審査委員/ 東京工芸大学准教授)
《animeanime》
【注目の記事】[PR]

特集