小林千晃が「葬送のフリーレン」から感じ取った“生きることのいろんなあり方” | アニメ!アニメ!

小林千晃が「葬送のフリーレン」から感じ取った“生きることのいろんなあり方”

TVアニメ『葬送のフリーレン』より、シュタルク役・小林千晃のインタビューをお届け。

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日本テレビ系「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」にて放送中のTVアニメ『葬送のフリーレン』。

勇者一行の10年に及ぶ冒険を経て、魔王が倒された“その後”の平和な世界が舞台となる本作。勇者一行の一員だった千年以上の時を生きる魔法使い・フリーレンと、彼女が新たに出会う人々の旅路が描かれていく。

主人公・フリーレンとフリーレンの弟子・フェルンに出会い、旅の仲間に加わる戦士・シュタルクを演じるのは、声優の小林千晃。臆病でありながら仲間のためには強さを発揮するシュタルクを演じる上で意識したこと。そして、フリーレンにとっての勇者一行との旅路のように、小林へ大きな影響を与えた出会いや出来事とは。

原作ファンである小林が本作から感じ取った“死生観”、学んだ“生き方”を軸に、「声優として作品を残していくことの意味」についても触れていく。

[取材・文:阿部裕華 撮影:吉野庫之介]



“死生観”に対して、より考えさせられる


――「仲間」「成長」「生と死」など本作は様々なテーマを内包していますが、小林さんはどんなテーマ性に惹かれましたか?

「死生観」ですかね。僕、「自分は人生の中で何ができるのだろう」「どれくらいで人生を終えるのだろう」とか考えてしまうんですよ。20代後半くらいからは特に。『葬送のフリーレン』は、エルフという長寿の生き物の視点から人間の寿命や生き方を見せられる作品なので、“死生観”に対してより考えさせられます。

考え方によっては、死んだら輪廻転生するとかいろいろありますけど、僕は“一度きりの人生”だと思うんですよね。『葬送のフリーレン』に登場する勇者一行の人たちも、生きている間に何を残すか、残された人たちに何を託すかを考えている。そしてフリーレン(CV:種崎敦美 ※崎は立つ崎が正式表記)は、そんな彼らが残したものを思い出しているわけじゃないですか。ヒンメル(CV:岡本信彦)が亡くなっても、ヒンメルの銅像があったり、どこかの村で勇者一行の話が伝え継がれていたり、誰かの記憶の中には生き続けているんですよね。生きることのいろんなあり方を『葬送のフリーレン』から感じ取っています。





――本作を通じて学んだこともお聞きしたかったのですが、まさに今お話された「生き方」ですかね。

そうですね、「生き方」を学びました。人間って大体80~100年生きますよね。僕はギリギリ20代なので、まだまだ体は元気だしやりたいこともいっぱいある。だから、「長い人生。いろいろできるから、これから何をしようかな」と思うんですけど、フリーレンからは「たったの80年だよ?」と言われてしまうんですよ。僕の歳からしてみたら「いやいや、長いよ!」とツッコミを入れたくなります。

でも、歳を重ねれば重ねるほど、そんなツッコミを入れている人は少ない気がしていて。生きる時間の重みって歳を重ねるごとに深くなっていくのかなとも思うんです。そういう意味では、僕ら人間にとっても80年ってあっという間なんだろうなと。『フリーレン』を読んでいると、「今のうちに何ができるか」「行ける場所はどれくらい限られているか」「親や大切な人とどれくらい会えるのか」をすごく考えてしまいますね。

――限られた時間の中で、声優として「どれだけ作品を残していくこと」も考えますか?

「自分の生きた証をどれだけ残していくか」を考えることはあります。声優って日本の人たちにはある程度知っていただけますけど、海外で日本のアニメを放送する時はその国の声優さんが吹き替えをする作品も多い。肉体を使う俳優さんとは違うんですよね。だから僕自身、声優を始めた当初は声のお芝居に集中できればいいかなと思っていて、そこまで表舞台に興味はありませんでした。それが今は、自分の映像やインタビューで自分が生きている姿を残すことも大事なんだなと考え方が変わってきました。



演じていて気持ちがいい、シュタルクの優しさ


――小林さん演じるシュタルク。小林さんはどのようなキャラクターだと捉えましたか?

とにかく優しい子だなと思いました。今後描かれるエピソードでシュタルクの過去や家族のことも明らかになるんですが、かつて「お前は何もできない」と言われ、そしてある瞬間に逃げてしまうんです。その後、拾われたアイゼンのところで頑張っていたけど、行き違いからアイゼンの下からも去ってしまう。じつは10代の少年にしてはあまりにも重たいストーリーを背負っているんです。

それでも、誰かを憎んだり恨んだりせず、「自分に才能がないからいけないんだ」と思えるのは、すごいこと。アイゼンと別れてから訪れた村では、村の人たちを守るために命を張るところもすごい。それを一言でまとめると“優しい”になるんですよね。臆病なところ、自己肯定感が低いところ……ネガティブな要素はたくさんありますけど、優しい子に育ってくれているので、演じていて気持ちがいいです。





――おっしゃるように、シュタルクはすぐに日和ったり落ち込んだりする繊細な面と仲間のためなら何度も立ち上がる強い面、かなり振り幅のあるキャラクターだと思います。演じる上で意識したことはありますか?

役(シュタルク)にとって何が大切なのかをすごく考えます。シュタルクの場合、人から期待されてこなかった。自分に興味を示す人もあまりいなかった。そんな中、村の人たちは仮とはいえ「英雄」と崇めて、頼ってくれた。フリーレンも初対面から「お前ならできる」と認めてくれた。そういう人と出会うのは初めてだったんですよね。

だから、「認めてくれた人のためなら頑張りたい」と思う気持ちは、誰しも感じることだと思います。例えば、自分の子どものために親が「頑張りたい」と思う気持ちと同じベクトルなのかなと。「自分なんて大したことない」と思っていた彼からしてみたら、「認めてくれた人たちへ報いたい」と思っていたはず。そういう彼の大切に思っていることを大事にお芝居をしたいなと意識しました。

――ご自身が意識したことだけではなく、監督の斎藤(圭一郎)さんや音響監督のはた(しょう二)さんから受けたディレクションで意識したことはありますか?

何か言われることはあまりなかったですね。思うままに演じさせてもらいました。ただ、フリーレンとフェルン(CV:市ノ瀬加耶)のお芝居を聞いてバランスを調整しました。

僕が演じる直前まで、フリーレンとフェルンは物理的な距離感より、精神的な距離感を大事にしている印象がありました。物理的には10mくらい距離が離れていたとしても、精神的には隣にいるくらいの距離感で喋っているようなお芝居をされていた。そもそも静かな2人だから、10mを意識すると大きい声での掛け合いになって、キャラクターの印象とブレてしまうので、精神的な距離感の方を大切にされていたと思うんですね。

とはいえ、シュタルクは精神的な距離感を無視しても構わない。物理的に10m離れているなら、10m離れた距離のお芝居でも成立するんですよ。僕もアフレコに行くまではどうお芝居をしようかと考えていて、Vチェックをしている間もどちらのアプローチもできると感じました。でも、3人で掛け合っている時におふたりに沿うようにしようかなと。おふたりのセリフを聞いて、シュタルクだけ物理的な距離感を意識すると、一人だけ声がデカいやつになってバランスが悪くなるから、同じくらいの距離感を大切にしようと。結果的にそれで何も言われなかったので、この作品に限ってはそれが正解だったのだと思います。





フリーレン、フェルン、シュタルクそのものなキャスト陣の関係性


――種崎さん、市ノ瀬さんとのアフレコで、「僕は僕でよく空回っています」というコメントを拝見しました。ぜひ、小林さんの空回りエピソードを教えてください。

3人でいる時、僕だけ声のボリュームが大きくて、喋っている頻度が多い気がするんですよね……。シュタルクが加わった回のアフレコの時、最初の「おはようございます」以外、おふたりとも一言も喋らなくて静かだったんです。なので、僕から「最近どうですか?」とか意欲的に声を掛けたり話題を振ったりしていたのですが、2人とも「ぼちぼち……」みたいな(笑)。

おふたりともすごく真面目ですし、アフレコ現場では台本に集中しているんですよね。それでも種さん(種崎の愛称)と市ノ瀬さんは割と通じ合っている気がする。僕はどちらかというと、現場の雰囲気を盛り上げたいと思うタイプなので、ちぐはぐさが目立ちました。とはいえ、「そういうのも加味してキャスティングされているのかな」とも思っていて。お芝居の面だけではなく、「この3人の中ではムードメーカーでいてね」と思われていたのではないかと勝手に解釈して、ほかの現場よりもたくさん喋るようにしています(笑)。

――アフレコ中以外は3人でお話することも?

3人でアフレコ終わりにご飯に行かせていただいて、そこでいろいろとお話ししました。その中で、種さんから「どんな精神状態でお芝居をしているの?」と質問していただいたのが面白かったです。僕にとって種さんは先輩ですし、お芝居の面でもリスペクトしていて、僕が聞くことはもちろんありますけど、種さんは後輩だろうが関係なく意見を聞いてくれる。あれだけの輝かしいキャリアなら、下の人にそこまで聞くことはないと思うんですよ。だから、種さんにとっては年齢や経歴は関係なく、尊敬の対象なんだろうなと。いろんな人から尊敬の対象とされる人が悩み続けていること、悩みの種に対する解決の糸口があるなら後輩に限らず聞いてくれる。それはすごいことだなと思いました。



アニメ映画に出会えなければ、今の自分はいなかった


――フリーレンにとっての勇者一行との旅のように、小林さんの人生に大きな影響を与えた出来事はありますか?

アニメ映画、アニメとの出会いですね。僕、もともと映画がすごく好きで、映画の俳優になりたいと思っていたんです。そこから俳優について学べる学校に行ったのですが、1年くらい通ってみてなかなか難しいことに気づいて。漠然と「好きだからやってみよう」と思っていたけど、かなり狭き門だし、本当に幅広い要素が必要だと知って、割と早い段階で挫折しました。

一方で、その時期にアニメ映画をちょこちょこ見ていたんですね。それまでは海外の映画を見ることの方が多かったのですが、邦画の中でもアニメ映画のスケール感やメッセージ性に改めて魅力を感じ、なんとなく声優に興味を持ち始めました。でも、将来に対していろんなことに興味があったから、大学では声優以外の勉強をしたり、声優とは別の進路先や就職先を考えていたりした時期もあって。それでも声優になりたいなと、オーディションを受けたり今所属している事務所に応募してみたりと行動を起こすように。それで事務所に運よく拾っていただけました。一つでも歯車が噛み合っていなかったら今の僕はいなかったと思うから、アニメに出会えたことはありがたいです。

――声優になったことで、好きだった海外の映画に吹き替えとして携わることもできますよね。

そこがまた難しくて……吹き替えで映画を見ることはもちろんありますし、吹き替えの声優さんで好きな方もたくさんいます。また、僕自身も吹き替えのお仕事をたくさんやらせていただいていますし、吹き替えは吹き替えの面白さはもちろんある。

だけど、吹き替えって俳優さんありきなんですよ。例えば、俳優さんのセリフの尺に合っていないセリフを言うのは基本的にNGになるなど、表現の幅が制限されてしまう。“声優としてのオリジナリティ”という意味では、アニメの方が出しやすいんですよね。そういう意味でも僕はアニメに声を当てる方が好きだなと思っています。



人生の旅の目的「お芝居で高みを目指したい」


――人生を旅と例えるとすると、小林さんの現段階での旅の目的は何ですか?

なんでしょうね。今の僕の人生の9割を占めているのが仕事なので仕事の目的を考えたいのですが……。僕自身は声優のお仕事って受け身のお仕事だと思っています。オーディションの機会をいただいて、受かったらクライアントの方からお仕事をいただく。自分から「この役をやりたいからやらせてください!」と能動的に動ける仕事ではないんですよ。だから、なかなか「これが目標だからこういうことをやりたいです!」となりづらい部分があって難しい……。

でも、「今ある仕事を全力でやりたい」とは常に思っているし、「お芝居をする表現者として高みを目指したい」という気持ちは根底にあると思います。今は声優のお仕事も多岐に渡っていますけど、その中でも主軸となるのはお芝居であることは大切にしたい。だから、お芝居で高みを目指せるように頑張っていきたいです。

――お芝居の高みという目的を山に例えるとするならば、今は何合目だと感じますか?

いや、もう一合目って言うしかない(笑)。今は基本的に、僕に合う役しかやっていないですし、その中でもいろんな課題がたくさんありますから。

でも、僕たち役者の中で「素敵だ」と思う人は、みんなが「素敵だね」と言うので、同業者の方たちが口を揃えて「あの人いいよね」と言ってもらえる人になることは一つの目標かもしれません。

――高みにたどり着いた時、どんな表現をされるのか今から楽しみです。最後に、『葬送のフリーレン』の登場人物の中で一緒に旅をするとしたら誰と旅をしたいですか?

難しいけど、ヒンメルと一緒に旅がしたいですね。すごくポジティブだし。常にどんな状況においても楽しむことが大前提にある。どんなトラブルに見舞われても「災難だったね」と落ち込むのではなく、「こんなことがあってラッキーだったね!」と言ってもらえる方が絶対に楽しい旅になると思います。一緒にいると自分まで「強くなった気がする!」と思えるので良さそう(笑)。



TVアニメ「葬送のフリーレン」

■放送情報
2023年10月6日(金)より日本テレビ系毎週金曜日23:00~「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」にて放送

■スタッフ
原作:山田鐘人・アベツカサ「葬送のフリーレン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:斎藤圭一郎
シリーズ構成:鈴木智尋
キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子
音楽:Evan Call
アニメーション制作:MADHOUSE

■キャスト
フリーレン:種崎敦美
フェルン:市ノ瀬加那
シュタルク:小林千晃
ヒンメル:岡本信彦
ハイター:東地宏樹
アイゼン:上田燿司

(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
《阿部裕華》
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