高瀬司(Merca)のアニメ時評宣言 第4回 コンポジットの快楽―「響け!ユーフォニアム」と「バケモノの子」 | アニメ!アニメ!

高瀬司(Merca)のアニメ時評宣言 第4回 コンポジットの快楽―「響け!ユーフォニアム」と「バケモノの子」

連載・コラム

■ 高瀬司(たかせ・つかさ)
サブカルチャー批評ZINE『Merca』主宰。ほか『ユリイカ』(青土社)や各種アニメ・マンガ媒体への寄稿、「SUGOI JAPAN」(読売新聞社)アニメ部門セレクター、「Drawing with Wacom」(Wacom)などイラストレーター、デジタルアーティストによるLive Painting企画でのインタビュー・メイキング動画ディレクションなど。
Merca公式ブログ:http://animerca.blog117.fc2.com/

批評家の石岡良治は著書『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社、2014年)の主要テーマの一つとして「ノスタルジアの消費」を論じている。

たとえば近年の日本のコンテンツで言えば、「昭和ノスタルジア」などと括られる映画『三丁目の夕日』シリーズ(2005・2007・2012年)がその代表となるだろうが、ここから、作中で描かれる1958-1964年当時まだ生まれてすらいない世代(というか、もはや親すら生まれていなかった世代が多いだろう)でもノスタルジー(懐かしさ)を感じるという受容構造から、ノスタルジアとは「過去に体験したかどうかはあまり関係」なく、「人工的にその場で生まれているもの」との見立てを示した。

そしてそうした「人工性」への着目とともに、石岡は「「夕日」のような風景の向こう側への憧憬」だけではなく、ノスタルジアにおける「ガジェット」(装置)の問題を重視する【注1】。

同様のことがアニメの映像をめぐっても考えられるだろう。たとえば京都アニメーション制作の『響け!ユーフォニアム』(2015年4月-6月)において大胆に展開された撮影効果。
監督の石原立也は以前よりレンズを意識させる映像へのこだわりを繰り返し口にしてきたが、ここでは被写界深度やピン送り、手ブレといったカメラを介したような表現にとどまらず、色収差、周辺減光、オーブ、二線ボケといった、アナログカメラ時代の、それも(トイカメラのような)光学性能の低いレンズが生むノイズを、デジタル上で擬似的に再現することで、「温かみ」のある映像を作り出していた。
このとき、いまやこの種のルックを映像の原体験として持つ若者は少ないにもかかわらず、それを「温かみ」や「味」のある表現と受容することを成立させているのが、アナログカメラ/オールドレンズというガジェットを介して生まれるノスタルジーだろう【注2】。

いま、そのこと自体の意味を問うつもりはない。ここで注目しておきたいのは、それのアニメにおける実現が、近年のコンポジット(撮影)セクションの躍進に支えられているという点だ。
かつて一般にアニメのマニアックな愛好、舞台裏への関心というと、真っ先に作画への注目が思い描かれがちであった。80年代に大きく花開き、90年代に後景化したとはいえ、インターネット環境の一般化を背景に、個人サイトや作画wiki・作画MAD(イリーガル性はここでは問わない)などの情報アーカイブの整備によってゼロ年代半ば以降一時的な盛り返しを見せながらも、規模としては再び退潮していると整理されるだろう「作画オタク」と入れ替わるように、制作現場のデジタル化を背景に注目を高めつづけてきたのがコンポジットと言える。

それがより一層表面化しつつあることは――当時評で唐突に半年前に放映された『響け!ユーフォニアム』のタイトルを持ち出したこととも直接関わることだが――制作現場の裏側へと強く迫るアニメ誌『アニメスタイル007』(メディア・パル、2015年11月)が、『響け!ユーフォニアム』のコンポジットについてのわかりやすい解説を分量もたっぷりに巻頭で取り上げたことや、あるいは10月31日・11月1日に京都市勧業会館(みやこめっせ)にて開催された京アニ&Doファン感謝イベント「私たちは、いま!!」で、キャストや監督といった定番のステージイベントと並び「2D/3D撮影スタッフトーク」が組まれていたことからもうかがうことができる【注3】。

アニメにおいては長らく、コンポジットが画面に強く介入することは忌諱されてきた。理由としては、被写界深度を浅くし背景をボカしてしまうことは、美術スタッフからすれば自らの仕事を蔑ろにされたことになる、といった例がわかりやすいだろう。
このとき、コンポジットによりレンズ感や情報量を加える画面作りを、京都アニメーションがここまで大々的に採用できたことは示唆的に映る。
いまさらな説明にはなるが、京都アニメーションは制作スタッフを社員として抱え、同じスタジオ内で各スタッフが机を並べ、同僚として密なコミュニケーションを取りやすい状態で制作を進める独特なアニメ制作会社だ。これは、フリーランスの演出家・アニメーターが中心となり、背景美術にせよ、コンポジットにせよ、2D/3DCGにせよ、それ専門のスタジオへと外注に出されることの多い東京の一般的なスタジオ事情とは大きく異る(スタジオジブリと類するような)制作環境と言える。
つまり、京都アニメーション作品のクオリティの高さを支える極めて重要な要因と言っていいだろう、スタッフ間・セクション間での連携の取りやすさ・信頼関係が、『響け!ユーフォニアム』のようなコンポジットの全面展開を許容し、うまく機能させた条件の一つとして想定できるわけだ。

ここで『響け!ユーフォニアム』と対になるスタイルの作品として思い浮かぶのが、その完結直後の2015年7月に劇場公開された細田守監督作『バケモノの子』である。
とはいえもちろん、制作のスタジオ地図が作品ごとに最適なかたちへと、人的規模から作業場まで組織化/解体を繰り返すスタジオである点は瑣末な対比だろう。
いま比較の俎上に載せたいのは、コンポジットと背景美術のとらえ方から見えてくる映像美学の差異である。
《高瀬司》
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