映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」 ハリウッド大作の原作者となった桜坂洋さんが語る

インタビュー

日本では7月4日に全国公開をスタートしたトム・クルーズ主演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。日本のみならず世界的なヒットとなった物語の源流は、実は日本にある。
作家・桜坂洋さんのSF小説『All You Need Is Kill』が、本作の原作となっている。日本の小説が日本での映像化を得ることなく、ハリウッド大作となるのは極めて珍しい。そんな偉業を成し遂げた桜坂洋さんは、映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』をどう見たのだろうか?桜坂洋さんに映画への想いを語っていただいた。

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
/http://www.allyouneediskill.jp
全国公開中

■ 映画化の翻案は想像以上

―『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の映画化企画が報道されてから4年を経て、ついに映画が日本でも公開されたわけですが、この4年間はどのような気持ちでしたか?

桜坂洋氏(以下桜坂) 
今が一番リアリティがないというのが正直な気持ちです。こういった映画化の企画はよく潰れるじゃないですか、だからこの企画もダメになるんじゃないかと考えていたんですよ。じゃあ、最初の内に喜んでおこうと思って、めちゃくちゃ喜んでいたんです。でも、どんどん決まってきて、あれ、これはもしかして実現するんじゃないかって思い始めてから、だんだん現実味がなくなってきたんです。今が一番現実感がないですね。
ロンドンに行って、華やかな会場で写真を撮られましたが、「ダグの映画、面白かったな」「この桜坂って奴、ラッキーだね!」って、そういう感じなんですよ。

―完成された映画を見られた感想はどうでしょうか。

桜坂
映画は面白かったですね。単純に面白かった。なんと言うか、全く同じものだと気恥ずかしさもありますが、小説と映画は違うので、客観的に観ることが出来ました。客観的に観たところで、面白い作品でしたね。

―原作となった『All You Need Is Kill』のテーマはどういったものでしょうか。それは映画ではどのように活かされていると思いますか。

桜坂
話としては、小説を書き終わったところで完結しています。だから、映画化に当たってどう翻案するか、どんな映像美を見せてくれるのかってことになると思いますが、想像以上のものでした。
また、欧米人とボクらとの感覚の違いを改めて感じました。その感覚の違いが、うまく働いているところが沢山あります。例えば、リタがケイジを撃ってリセットする場面のスピード感。このシーンは、映像という媒体を上手く使った表現になっています。ダグ・ライマン監督は本当に凄いと実感しました。

僕は少しひねくれたところがあって、「スラムオンライン EX」(ハヤカワ文庫)という小説で、ゲームの話を書いています。この小説では、「この表現は絶対に活字でしか出来ない」ことにチャレンジしたつもりです。
つまり、映像化されることはとても嬉しいのですが、小説は小説として、小説でしか表現できないことがあるというこだわりを持っています。
だからこそ、今回のように映画化されたときに、「これは映画にしか出来ない表現」として見せられると、「凄いです」って感じになります。

―ハリウッド大作だけにかなりのスケール感ですが、映画のスケールについてはどう感じられましたか。

桜坂
スケールが大きい作品ですよね。戦場のシーンが遠くまで霞んで見えるんですけれど、凄いなと感じたのは、実景とCGの継ぎ目が全然分からないことです。僕、意外と継ぎ目が分かるんですけど、今回は本当に分からなかった。

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■ トム・クルーズは本当にスターというしかない

―主演には世界的なスターのトム・クルーズさんが起用されています。トム・クルーズさんの演じ方はどうでしたか?

桜坂
トム・クルーズはスターでしたね(笑)。率直に言って、あの人はスター以外の何者でもない存在です。どこを見ても嫌みがないし、どこをとっても周りを明るくするし、本当にスターというしかないですね。
英国の撮影を2日間見学に行ったときのエピソードを紹介すると、最初の日にトラブルがあり、トムが現場で初めて怒ったらしいんです。詳しく尋ねてみると、撮影が長すぎてスタッフが疲れてしまうから、撮影を短縮しろってことだったようです。スタッフへの気配りを見ても、やはりスターだと思います。

―ヒロインであるリタ役のエミリー・ブラントさんはどうですか?

桜坂
実はエミリー・ブラントの大ファンです。良い女優さんです。
日本では『プラダを着た悪魔』への出演で紹介されていますが、『サンシャイン・クリーニング』(2009)が一番良いと思っています。やさぐれた妹を演じてました。あの、やさぐれた妹の演技を知っていて、リタ役をオファーしたのではないかというぐらい、はまっていると思います。
実際にお会いしたのですが、とても気さくな女性といった印象でした。凄い女優だけど、明るくて、気さくでしたね。
実は僕がストーリーを考えるときには、具体的なキャラクター・イメージを持たないんです。エミリーが演じたリタの姿を見て、「あ、映画だとこうなるんだ」って感じでしたね。

―ダグ・ライマン監督についても、お話いただけますか。

桜坂
撮影所に行って一番驚愕してしまったのは、撮影しているときのテンションと、撮影が終わって一人で歩いているダグがドーナツを頬ばっていた時のギャップ感です(笑)。現場では次のシーンのために助監督が説明をしていて、ダグには次の撮影を考えてもらうためにドーナツ食べてリラックスしてもらおうという空気感がある。
僕が自宅で小説を書く時に、自分のために、妻にも手伝ってもらって狭い空間の中で、思考が邪魔されない状態を作って書き始めるんです。その状態を、撮影所全体で作り上げていることが凄いと感じました。そこで、自由に才能を発揮しているのがダグ・ライマン監督です!

―本作で最も驚いたシーンはどこになりますか?

桜坂
リタによるケイジのリセットですね。何度も繰り返される映画的な「リセット」には驚きました。

■ 日本の小説がハリウッド大作の秘密

―日本の小説が日本での映像化を経ることなく、直接ハリウッドで映画化されることは大変珍しいですが、これについてどう感じられていますか。

桜坂
よい脚本家との出会いを含めて、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の映画化プロジェクトは運が良いんです。原作から映画化までの道筋がついていた。
でも、実際によほどのラッキーマンでない限り、同じ道はないのではないかと思います。今回も、実際はタイトロープな道筋をたどって、映画化が実現したんです。同じことを狙って実現できるかというと、どうでしょうね…。
もちろん、書き手の方が映画化を狙うのはありだと思いますが、製作の実現まで進めるために、アメリカのワーナー・ブラザース映画まで企画を持ち込むこと自体がタイトロープなこと。まずここを太いパイプでつなぐチームが必要です。日本発の原作をスタジオに持ち込むためのバックアップの体制は、まだまだ出来ていないと思います。

―日本のSFは今後も海外に出て行くと思われますか。

桜坂
なかなか難しいとは思いますが、神林長平先生はいけるのではないかと思います。もちろん、神林先生の作品が僕の作品に似ているのではなく、僕の作品が神林先生に似ているのです。そういう意味で、僕に似た世界感を持った神林先生の作品にオファーがあるのは自然なことではないかと思います。
後は、トム・クルーズ級の俳優さんとめぐりあうことが出来るのか。これは全くの運ですよね。どちらかというと、その先は作品と言うより、運で先に進むかどうかなのではないかと思います。
《animeanime》

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