スタジオ経営からアニメ業界の未来まで ぴえろ創設者・布川郁司が語る、お薦めの一冊 | アニメ!アニメ!

スタジオ経営からアニメ業界の未来まで ぴえろ創設者・布川郁司が語る、お薦めの一冊

レビュー 書評

国内にアニメ会社は数多く存在するが、ぴえろ ほど謎の多い会社ないと長らく思っていた。1977年に設立されたぴえろは、『ニルスの不思議な旅』にはじまり、1980年代の『魔法の天使クリィミーマミ』、『おそ松くん』など、数々のヒット作を生み出した。2000年代には『NARUTO -ナルト-』、『Bleach』というスーパータイトルで、文字どおり世界を席巻した。また、現在の深夜アニメにつながるOVA(オリジナルビデオアニメ)を世界で初めて世に送りだしたスタジオでもある。30年以上の歴史を持つ老舗であると同時に、日本で最も重要なアニメ会社のひとつと言っていいだろう。
しかし、ぴえろが、対外的に自社の経営やアニメ業界に対するビジョンを語るのをほとんど聞いたことがなかった。ぴえろが、会社の業績を公開しなければいけない上場企業でないこともある。また、世に届けるのは作品であって会社でないという考えが、ぴえろにあったのではないかと想像している。

だから、2013年12月に布川郁司氏が日経BP社から上梓した『クリィミーマミはなぜステッキで変身するのか?』を読んだ時は驚いた。アニメ業界での仕事の始まりから現在まで、ざっくばらんな言葉のなかから、長年、ぴえろ について疑問に思っていたことが次々に氷塊したからだ。
「なぜ、ぴえろは上場企業を選ばなかったのか?」、「なぜぴえろは早くからライツビジネスに強かったのか」、「かつてぴえろが開発しようとした動画中割の自動化ソフトは一体何だったのか?」などだ。

著者の布川郁司氏は、ぴえろの創業者である。アニメーターとしていくつかのスタジオで働いた後、演出に移り、竜の子プロダクションで多くの作品を手掛けた。1977年にぴえろをゼロからスタートし、その後はプロデューサー、経営者として会社を育てあげた。2013年に経営の第一線から退き、現在はアニメ製作者の業界団体である日本動画協会の理事長を務める。こうした立場の変化も、この本のきっかけかもしれない。
一方で、日本の商業アニメの立ち上がりの初期から業界を見てくるなかで、自身の立場から新しい世代に伝えておくことがあると考えたようにも思える。現在、アニメ制作はデジタル化や分業化がますます進む中でより高度化している。また、製作委員会に代表されるビジネスパートナーの多様化、メディアミックスの複雑化でビジネスの仕組みも同様に高度化している。そうした状況を企業コンサルティングやマーケティングの専門家が議論するのも可能だろう。
しかし、制作の現場から演出、プロデュース、経営まで広く携わってきた布川氏の言葉には、そうしたものとは違う重みがある。アニメのクリエイティブ、ビジネスの原点とは何なのか、それを知ってこそ目指すべき方向も明らかになるのだ。

例えば、さきの疑問のひとつ「ぴえろの手掛けた動画の中割の自動化」だが、実はこれは安過ぎると指摘されるアニメーターの賃金の問題につながっている。布川氏によれば、アニメーターの賃金は解決しなければいけない問題だが、現状のシステムのなかでアニメ制作費を上げるのは難しいという。しかし、もしより少ないスタッフでアニメを制作出来るなら、ひとりあたりの取り分は大きくなるのでないかと考える。
海外展開や、文化発信、ビジネスモデルの転換、様々な論点が本書には登場する。それぞれが今後、日本のアニメが生き残るための視点とつながり理解しやすい。
文章も平易で、読書に向かって語りかけるかのようで、読んでいて飽きさせない。決して長すぎない量だが、何度も頷かされる。エンタテイナーである布川氏の気質がこんなところにも表れているようだ。

本が何よりも魅力的なのは、悲観もなく、楽観もなく、かつ日本のアニメを前向けに捉えていることである。そして、アニメに対する愛情に満ちている。
本書を読むと日本のアニメはまだまだ無限の可能性に満ちている、もっとやれるのでないかと思える。これからも、日本のアニメの文化と作り手を応援したくなる。アニメに関心のある全ての人に薦めたい一冊だ。
[数土直志]



『クリィミーマミはなぜステッキで変身するのか?』
布川郁司 著
価格: 1680円(税込み) 発行元: 日経BP社
《animeanime》
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