藤津亮太の恋するアニメ 第6回 真面目な人たち(後編) 「機動警察パトレイバー 2 the Movie」 | アニメ!アニメ!

藤津亮太の恋するアニメ 第6回 真面目な人たち(後編) 「機動警察パトレイバー 2 the Movie」

連載・コラム 藤津亮太の恋するアニメ

藤津亮太の恋するアニメ
第6回 真面目な人たち(後編)


機動警察パトレイバー 2 the Movie

作・藤津亮太

Nは『機動警察パトレイバー 2 the Movie』を見て、南雲が柘植の公私にわたるパートナーであったことにどうも納得がいかないらしい。が、僕はその納得いかないのが、どうにもわからない。

「南雲さんが、柘植と不倫してそれが理由で埋め立て地にトバされたってのは、もう決まってる設定なんだから不満をいってもしょうがないじゃない。」
しばらく思案顔をしていたNは、急に納得いくような顔をした。
「ああ、わかった! なんで私がもやもやしてたか。そう、設定よ。設定だからよ」

よくわからない顔をしている僕にNは続けた。
「南雲さんは、真面目で仕事もできて頭もいいでしょう? そりゃもちろん常識人だから多少頭が固いところもあるけど、説明されれば理解力はある。そういう設定で進んできたところに、“実は情念の人だった”っていう設定が、急に付け加わったからだったのよ。しかもその設定の根底に――エレクトラコンプレックスでもなんでもいいんだけど――『やっぱり女の人って最終的にはエモーションで動くよね。それってかわいいよね』っていう考えが透けてみえるのよ。そこがいやだったのよ」

「ふーむ。南雲役の榊原良子さんは、『パト2』を演じる時にある種の違和感を感じたとかそういう話があったそうなんだよね。『これまで“崩れない”人が、この映画では“崩れて”いる』だっけかな? そんな言い回しで語ってたと思うんだけど、それはNがいう、そういう部分だったのかもねぇ」
「そんな発言あったんだ。……だって考えようによっては、“普段はクールだけど、オレにはメロメロになってほしい”っていうおっさんの欲望が透けてる展開だからねぇ。ほらアレみたいな感じ。『羊たちの沈黙』の原作者の……」
「トマス・ハリス。トマス・ハリスがどうかしたの?」
「トマス・ハリスって、続編の『ハンニバル』とかだと、だんだんレクター博士と気持ちが一体化しちゃって、自分の小説である主人公のクラリスに好き好き光線出すじゃない」
「そうなんだ」
「あたしは、そうとしか読めなかったな。それと似た感じなのよ。作り手の思い入れのあるキャラクターに気持ちが入っていて、そんな自分を南雲さんに好きになってほしい感じ」
「たはは。厳しいなぁ」
僕は頭を掻いた。

「Nの話を聞いて思い出したことが2つあるなー」
「なになに?」
「一つは先輩が言っていた話。『赤毛のアン』のオープニングの、アンがアップで振返るカットについて、女性ファンから、『あれは男性目線だと思います』みたいなファンレターが届いたんだって。昔のアニメ誌にそんな話題が載っていたっていうけど、Nがいってる話はそれと似てるよね」
「どういうこと?」
「要は、男性が描いたものに、女のに対するが欲望というか、理想というかを感じとって、男が女を“鋳型”にはめようとしているって受け止めるところ。まあ、言いたい意味はわかるけど、ちょっと気にしすぎかなぁと思わないでもない(笑)」
Nが瞬間的にふくれ面になった。本当にNは思っていることが顔に出る。

「もう一つは、Nが見落としてること。キャラクターに本音を託すときに、異性のキャラクターのほうが描きやすいってのもあるんだよ」
Nはさっきよりもさらに「言っている意味がわからない?」って顔をしている。

「作り手と同性のキャラクターだと、照れちゃったり、本音を言いすぎてる感じがしちゃったりして、素直に作り手の感情を乗せづらいというのがあるんだよ。それが、異性になると、性別の違いが隠れ蓑になるんで、わりと本音をのせやすくなる。ほら、BLが女性の楽しみってのと同じだよ」
「BLってのはもっといろいろなファクターがあると思うけどね。言いたい意味はわかるは」
「その証拠にさ、押井監督は『パト2』では南雲さんに“未練”を演じさせたけど、その後はどんどん男――というかバトーさんが未練がましくなるのさ」

「そうなの? 『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』しか見てないんだけど」
「『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』では、去って行く草薙素子に「おめえ、ここに残ってもいいんだぜ」って原作よりも数段ウェットなセリフを投げかけてる。続編の『イノセンス』では、いなくなった素子をずっと思ってるという設定になって、未練たらたらなおっさんの姿が描かれる。きっと1回女性の情念描いたことで、なにか解放されたんだろうね。てらなく男性に作り手の気持ちをのせるようになっていってる」
「ふーん。まあ、創作ってそういう部分もあるでしょうね」
Nは納得したような納得しないような顔をしている。

「ところで柘植にはいろいろ文句があるようだったけれど、後藤隊長はどうなの? 好きなの?」
僕はNに質問してみた。

「うーん、魅力的なキャラクターよね。ただ、後藤隊長って真面目から降りちゃった人なのよね。だから余裕があるし。南雲さんが、つかずはなれずの距離をとりやすくて、ほどよいお友達でいるのはわかるわ」

「じゃあ、柘植と後藤でいったら、やっぱり後藤が好きなんだ」
僕の質問にNが即答した。
「なにいってるの! 柘植に決まってるじゃない」
今度は、僕がわかったようなわからないような顔をする番だった。
「真面目から降りた人と真面目をこじらせた人と比べたら、こじらせた人のほうがいいですよ。わたしの不満は、“南雲さんが好きになる”っていうところだけで、後はなんの不満もないわ!」
僕は、柘植がNのお父さんに似ているのかどうか聞こうと思ったが、やめておいた。

/第5回 真面目な人たち(前編)はこちら

藤津亮太の「アニメの門チャンネル」
/http://ch.nicovideo.jp/channel/animenomon
毎月第1金曜日22時からの無料配信中
2013年3月1日21時半~ 第7回

藤津亮太[アニメ評論家]
単著に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』(NTT出版)。「渋谷アニメランド」(NHKラジオ第一 土曜22:15~)パーソナリティ。
藤津亮太の「只今徐行運転中」
/http://blog.livedoor.jp/personap21/
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