藤津亮太の恋するアニメ 最終回 「疾走するウエディングドレス」-後編- | アニメ!アニメ!

藤津亮太の恋するアニメ 最終回 「疾走するウエディングドレス」-後編-

藤津亮太さんによる連載「恋するアニメ」は24回目のこの原稿が最終回です。最後のテーマは“ウエディングドレス”。『アイドルマスター』や『ウエディングピーチ』が登場します。

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藤津亮太の恋するアニメ 最終回 「疾走するウエディングドレス」-後編-

作・藤津亮太


ひょんなことからNとアニメの結婚式シーンについて話をすることになった僕だったが、話しているうちにNはそこで何か気づいたことができたようだ。

Nは何か納得したような顔で
「私がなんで好きなのか」
といった。
「何が、好きなの?」
と聞くと。
「私って要するに、結婚式よりウエディングドレスが好きなのよ。そしてその理由がずっとぼんやりしてたけど、今話をしていてわかったの。ウエディングドレスを着て、町中を走り回るとかっこいいから。これなのよ、うん」

Nはなんだか独り合点しているが、こちらとしては「お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではな」としか言いようがない。なんて考えているとNがさっそく突っ込んできた。
「なんで、そんな生返事なの?」
「それはNの個人の感想すぎるからだよ。どうしてあんなゾロゾロしたウエディングドレスで走り回るのがいいのさ」
面倒くさいが。こうなると正面から質問せざるを得ない。

「うーん、結婚式は人と人のしがらみが隠れてる大人の事情の産物というところもあると思うのよ。でも、ウエディングドレスはそういうのとはまったく無関係な、自分のための服なのよね。だから結婚式場から飛び出すことで、ウエディングドレスが解放されるというか」
Nが言葉を選びながら話すのを聞きながら僕はどっかで聞いたような話だなと思っていた。そういえば『アイドルマスター』の第8話「しあわせへの回り道」だ。
あれは撮影のためにウエディングドレスを着たあずさが、結婚式場から逃げ出した花嫁と間違われ大騒動になる内容だった。徹底的にスラップスティックな方向のエピソードだったけれど、確かにあの開放的な雰囲気は、結婚式場からウエディングドレスが解放されているから生まれたのかもしれない……。とそこまで考えて、なんだかNにのせられているような気がしたので、聞いてみた。

「素朴な質問だけど、ウエディングドレスって新郎のため……というか、新郎と一対のものじゃないの?」
Nはおもいっきり首を横に振った。

「違うわね。強いて言うなら、新郎はウエディングドレスのオマケというか備品というか。……ほら、スイカにかける塩みたいなものよ。塩をかけたほうがおいしいかもしれない。でもそれは好みの問題だし、必ず塩が必要かとえいば、そうではない。スイカは常にスイカなのよ」。
「……あのさ、『愛天使伝説ウェディングピーチ』って知ってる?」
「なにそれ? 知らない?」

『ウエディングピーチ』は、1995年から放送された女児向けアニメだ。“ポスト・セーラームーン”を狙った作品のひとつだが、最大の特徴は、ウエディングドレスに変身して悪魔族と戦うことになる。もちろん女児向けだし、題材が題材なのでロマンスの要素もあるのだが、それにしてもウエディングドレス=戦闘スタイルというのは、かなり大胆な発想といわざるを得ない。もちろんセーラー服(風)の衣装で戦うトップランナーいればこその、跳躍ではあるのだが。
Nに『ウエディングピーチ』の話をすると、非常に得心がいった様子だった。

「そうそう。ウエディングドレスって戦闘服なのよ。女の子がたった一人で世界と向かい合うための衣装。ほら、最近中国でウエディングドレスを着て卒業式に出るのが流行っているっていう記事(/http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304174304580006170672047014)もあったじゃない。いろいろ理由は分析されているみたいだけど、これから社会に出るときの戦闘服だと思えば、これほどふさわしいものはないわよ」

中国の学生は一体何を考えているのだ、と思ったが、よく考えると自分の大学の卒業式にもわざわざそのためにチャイナドレスをあつらえていた女子がいたことを思い出した。扇まで持って口元をかくしていたあの気合いの入れ方を考えると、中国のウエディングドレスを笑うことはできないか。

「真っ白な戦闘服なんて、僕は『スター・ウォーズ』のストゥームトルーパーぐらいしか知らないよ」 
そう混ぜっ返した僕を睨むNを無視して、僕は話を続けた。思い出したことがあったのだ。
「10年ぐらい前の実写ドラマでオーダーメイドのウエディングドレス店を舞台にした作品があるのを知ってる? そこで『ウエディングドレスは戦闘服』ってセリフがあったんだよ」
「知らない。知らない」
「Nがいうのを聞いて、どっかで聞いたようなフレーズだなと思ったんだけれど今、思い出した。当時、『ウエディングピーチ』のことかよ! と思ったよ(笑)」

Nはわが意を得たりという笑顔を見せた。
「ほら、やっぱり。誰もがそう思ってるのよ」
「でも、そのドラマ……『伝説のマダム』って言ったかな、は低視聴率で伝説になっちゃったんだよね。少なくとも、『ウエディングドレスは戦闘服』ってそこでは共感を呼ばなかったんじゃないかな……」 
Nはそこで首を振った。
「たぶんそれは、ウエディングドレスを着てさっそうと駆け出すシーンがなかったからよ」
「だって見てないんだよね?」
「そりゃ想像だけどね。でも、きっとクラリスみたいに颯爽とウエディングドレスで外へ飛び出していくシーンでもあれば、ずっと説得力が出たと思うのよ。そう考えると、その『ウエディングピーチ』なんかはすごくいいわよね。そのものずばりで、その迷いのなさに、女の子の矜恃を感じるわ。どこかで見られないの?」

僕が公式の配信サイトを教えてあげると、Nはすっきりしたようで颯爽と去っていった。
「ウエディングドレスは疾走する。誰も追いつけない、か」
と僕はNを見送った。
《藤津亮太》
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