『PSYCHO-PASS サイコパス』 虚淵玄(ストーリー原案/脚本)インタビュー 前編

インタビュー スタッフ

10月11日、フジテレビ“ノイタミナ”にて放送が始まる大型アニメシリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス』が話題だ。大物スタッフの参加に、人気実力派声優陣、そして何よりも注目されているのは、数字に支配された未来を舞台にするその世界観だろう。
そのストーリー原案を務めるのが、『魔法少女まどか☆マギカ』などで高い評価を受けたニトロプラスの虚淵玄さんである。『PSYCHO-PASS サイコパス』の物語がどのように生まれたのか?その脚本術は?虚淵玄さんにお話を伺った。
[インタビュー取材・構成:数土直志]


『PSYCHO-PASS サイコパス』
2012年10月11日よりフジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜放送予定
ほか各局でも放送予定
/http://psycho-pass.com/
/ http://facebook.com/psychopasstv

■ 管理社会のディストピアのなかでの犯罪者、刑事の物語

―――― アニメ!アニメ!(以下AA)
3年前に本広総監督の企画から始まり、その後、虚淵さんが加わりました。当初から大きな視野を持ったプロジェクトだったわけですが、虚淵さん自身はこの中でどういった作品を考えられたのでしょうか?

―― 虚淵玄さん(以下虚淵) 
当初、お題としていただいたのは、“近未来” “警察もの” “群像劇”の3つのキーワードです。そして、アニメーションの制作がプロダクションI.Gさんです。けれども、プロダクションI.Gさんには『攻殻機動隊』という金字塔があります。そこから離れる手段はなんだろうと考えました。

そこで、ウイリアム・ギブソン系のサイバーパンクの流れから外れよう、と考えました。まず、これまでの技術の延長線上にあるテクノロジーのガジェットを鍵にした、サイボーグや電脳といったキーワードの世界観と超人的な特殊部隊のバトルを脱却した警察ものです。
「よし、これはフィリップ・K・ディックだな」と考えました。「フィリップ・K・ディックの思想実験的なSFの流れで、管理社会のディストピアのなかでの犯罪者、刑事の物語」という提案をしました。

―― AA
本作で非常に重要な要素になっているのが、“数字で管理された社会”です。このアイディアについて教えていただけますか?

―― 虚淵 
人間が感情や倫理観を抜きにした、もっと無機質な基準によって判定され、管理されているという世界観です。例えば『ガタカ』の遺伝子とかのイメージです。
心のあり方を機械が読み取って、全部数値化して評価される世界があれば、世の中はいっきに平和になるし、人の悩みも全部解消されます。楽園にはなるけれど、怖しい世界ができるという思いつきから生まれた話です。

―― AA
これは管理社会に対する批判の物語とは違うのですか?

―― 虚淵 
そうではないですね。管理によって人間が救われて幸せになっている世界です。
ただそうした世界ができたがゆえに歪みが出てきます。その時に、あらためて昔ながらの刑事の仕事に出番が出てくるという位置づけです。


■ アニメは集団作業の面白さ

―― AA
虚淵さんのお仕事はゲームもあり、小説もあります。それと今回やられる『PSYCHO-PASS サイコパス』のようなアニメは、ご自身のなかでは違いはあるのですか?

―― 虚淵 
かなりあります。アニメは集団作業の面白さが圧倒的にあります。自分のあげたテキストが映像化され、演出され、どうなっていくかを見るのは大変に刺激的で嬉しいです。
小説だと自分で最後まで面倒を見て完成させなければいけないですし、ゲームは小説ほどではないですがアニメほど分業化が進んではいません。いろんな人から刺激をもらえる点ではアニメは幸せな仕事ですよね。

―― AA
逆に言いますと虚淵さんはアイディアがすごく豊富なだけに、他のかたとの折り合いってどうなんだろうかと考えました。そうしたことを考えられたことはありますか?

―― 虚淵 
僕は自分のアイディアというよりも、むしろ人のアイディアを聞いているほうが楽しいんですよ。それを補完したりとか、矛盾を解消したりとか、それが新しいものに変わっていく過程というのが楽しいなと思っています。
自分のアイディアも出しますけれども、それが変わっていくことが前提で、結果的にどう化けるかなです。花の種を植えるようなもので、「何色の花が咲くかな」みたいな感じです(笑)。
なにかを表現したいとか、このアイディアをかたちにしたいという衝動は実はないんです。だからこそ集団作業を楽しんでいるという気はします。

―― AA
少し意外でした。虚淵さんの世界は非常に緻密で計算されたというイメージがありました。

―― 虚淵 
それは考えています。矛盾するノイズは排除しなければいけないですし、その辺の喧々諤々はあります。
「その要素を盛り込んだら破綻するのでやめましょう」といった交渉はします。破綻しない方向でものを積み上げていけるアイディアは歓迎ですし、ガンガン入れます。
その辺は積み木ですよね。入れていいパーツと入れちゃいけないパーツがあります。入れていいパーツは積極的に入れたほうが面白くなるに決まっていますからね。

―― AA
入れていいパーツというのは具体的にはどういったものを指すのですか?

―― 虚淵 
ほかの積み木と噛み合うか、そして隙間が生じず、干渉しないことです。馴染むアイディアですよね。逆にそのアイディアを入れたら破綻するのであれば、それを取っ払えばいいわけです。根幹に触る部分であれば、そのアイディアは「すいません」と言って切りますよね。


■ 物語のなかの驚きとは?

―― AA
物語を作るときに「人を驚かせてやろう」という気持ちはかなりあるのでしょうか?

―― 虚淵 
それが全てではないですけど、基本という気はします。やはり驚きや刺激がないとと思います。
ただお約束はお約束で美しいものですし、それはそれで刺激になります。驚きがすべてとも思っていません。

―― AA
奇抜なことを繰り返しやっていくだけではないということですか?

―― 虚淵 
それはひとつのスタイルです。ストレートならではの豪速球、スピードだって驚きは生じます。スピード重視で威力を増してぶち込む、それで驚きを出すことはできます。変化球であれば球速はいらないけど、見たこともない軌道で飛んでいかなきゃいけないわけです。その時々だと思います。

―― AA
『PSYCHO-PASS サイコパス』は直球の豪速球なのか、あるいはひねりの利いたものなのか、どちらになりますか?

―― 虚淵 
かなりひねっていると思います。決して真新しいことをやっていませんが、こうしたディストピアものはいまは盲点かなという気がします。
未来で、警察でと言うとついSWATへ行っちゃうんですよ。それはかっこいいし、ビジュアルは派手になる。方法論ではそこに行くんですが、「だったらそこからずらそうよ」という思いから出てきた企画ですので、今回は直球ではないと思います。


■ 作品のテーマはあとから発生する

―― AA
ひとつ大きな質問をさせていただいていいですか。今回の作品のテーマはどういったものですか?

―― 虚淵 
実は書き始める段階では、たいして意識してないんです。ただ、うまく積み上げていくと、結果的に最終的にテーマっぽいものが発生しているんです。「ああ、こんな話になったんだ」とあとから自分で眺めてびっくりするみたいな感じです。
ピラミッドを積み上げていく時は、積み上げている1個しか見てないんです。「ここに置けばいいに違いない」みたいな感じです。終わってみて「あ、三角形だ!」みたいなのが毎回です。
その意味では『PSYCHO-PASS サイコパス』もテーマっぽいのが見えてきました。ただ、それは当初から意図したものではないんです。

―― AA
虚淵さんが携わったアニメの脚本は、どれもこれまでと違ったところがあり、話題作です。アニメの世界に対してなにか挑戦してやろうという気持ちはあるのでしょうか?

―― 虚淵 
そうですね、SFというジャンルはもう少し復権して欲しいなという気はします。子供の頃に楽しんでいたアニメはセンス・オブ・ワンダーがメインで、SFの黄金期だったと思うんです。それが時の流れで廃れていって、学園ものや日常ものが主体になり、まだ見ぬ異世界への憧れからお客さんの興味が薄れつつあるのかなという思いがあります
アニメは架空のゼロから作れるものですからどんな絵空事でも描けるわけです。それを思うと異世界や遠い未来、あり得ない景色を描くものとしてのアニメにはもうちょっと頑張って欲しい。

―― AA
アニメの力が発揮できる分野としてのSFですね。

―― 虚淵 
写実性の驚きもすごいとは思います。それとはまた別にSFアニメが流行って欲しいな、といった思いはあるんです。それは昔見てきた作品への憧憬や、自分自身の好みもあります。

/『PSYCHO-PASS サイコパス』虚淵玄(ストーリー原案/脚本)インタビュー 後編に続く
《animeanime》

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