藤津亮太の恋するアニメ 第2回 人を好きになる瞬間(後編) 「愛・おぼえていますか」 | アニメ!アニメ!

藤津亮太の恋するアニメ 第2回 人を好きになる瞬間(後編) 「愛・おぼえていますか」

藤津亮太:作 リン・ミンメイは『マクロス』に登場するアイドルだ。マクロスという宇宙船にはある事情から(ここを説明すると長くなる)、都市がまるまる…

連載 藤津亮太の恋するアニメ
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藤津亮太の恋するアニメ 第2回 人を好きになる瞬間(後編)

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』

藤津亮太:作

リン・ミンメイは『マクロス』に登場するアイドルだ。マクロスという宇宙船にはある事情から(ここを説明すると長くなる)、都市がまるまる一つ内蔵されており、そこではごく普通に市民生活が行われている。ミンメイはそこで圧倒的人気を得ている存在だ。
映画の前半、戦闘からミンメイを救おうとした輝は、そのまま閉鎖ブロックに閉じこめられ、3日間も一緒に過ごすことになる。
つまり輝は映画の前半でミンメイと3日間、後半で未沙と1ヶ月間二人きりで過ごしているわけだが、この一緒にいる時間が10倍違うということが、未沙にヒロインの軍配が上がった理由の気もするが、わざわざNにいうとまた面倒なことになりそうな気もしたので、黙っていた。

そしてちょっと落ち着いた調子で
「どうして、輝とミンメイはうまくいかなそうだなと思ったの?」
「デートのシーンかなぁ」
閉鎖区画から助けられた後、仕事に嫌気がさしていたミンメイは、輝を呼び出して夜のデートを楽しむ。

「デートで、バーチャルでいろんな衣装を着て楽しむコスプレ施設が出てくるでしょう。あそこの最後でミンメイが、ウエディングドレスを着るじゃない」
「着るね。ミンメイ、うれしそうだった」
「そう、私、ひっかかるのはあの表情なのよ」
「えー、またさっきみたいにウエディングドレスへの憧れが保守的だ、みたいな話になっちゃうの? それは勘弁」
「違うわよ。ちょっと思い出してみて、つきあい始めとかつきあう直前のカップルって、結婚とかってよそから不意に話題に出されると妙にギクシャクしたりするじゃない」
「長い春が続いているカップルだってギクシャクすると思うけど。別の意味で」
「別の意味ってわかってるなら、混ぜっ返さないで」

Nが説くには、微妙な距離の男女は結婚をイメージさせる言葉や映像が出てくると、「ちょっと早すぎる」という照れと不安で、ギクシャクするのだと。
でも、ミンメイにはそういう照れとか不安とかが、まったく見られない、そこが気になる、と。

「ドレス姿のあの笑顔はミンメイの純粋な気持ちだと思うの。『いつかこんな素敵なドレスを着たいな』みたいな女の子らしい素直な気持ち。ただ素直すぎるのよねー。となりにいる輝のことなんか全然気にしてない。だって、輝は自分のファンでデートっぽいことをしてるけど、まだつきあってるわけじゃないでしょ、ウェディングドレスとタキシードで並んだりしたら、うまく互いの距離感つかめずにギクシャクしちゃうと思うのよ」
「でも、そうはならない。どうしてか……」
「ミンメイは自分の心だけ見てるからよ。輝との関係がどうかとか全然意識してない」
ずいぶんと自信たっぷりに言い切るN。

「ミンメイは、その時、自分に必要な人を好きになるタイプなんじゃないかなぁ。あの時、ミンメイは仕事辞めちゃおうかなって弱っていたでしょ? だから輝みたいにクセのない、自分の話を聞いてくれそうな人を選んだんじゃないかしら。きっと元気でノリノリの時は輝とはつき合わないでしょう。きっとバックバンドのベーシストかなんかとつき合ってる。」
どうしてそこでベーシストが出てくるのかだけはわからなかったけれど、僕はうなづいた。

「あ、でも、これって輝を利用してるってわけじゃないのよ。ちょっとわがままだけど、悪意ある子じゃないのは映画見てればわかるから。でも、自分の中の必要性が基準だから、向こうが自分のことどう思っているか、とかはわりとどうでもいいっていう」
「それはおもしろいねー。友達以上恋人未満だったミンメイが、輝との再会後、猛烈に執着するようになるのも、輝の気持ちよりも自分の気持ち優先だからだよね。つじつまは合う」

映画の中で、ミンメイと輝の関係を象徴するように「一方的に注がれあふれ出すコーヒー」が描かれていることを思い出しながら、つまり、と僕は言った。
「これは、バーチャルな結婚式とバーチャルな食卓が争って、心を通わせたほうがヒロインになる映画だったということだね」
そんな僕のまとめを聞いているのか、聞いていないのかNは、上目遣いで
「で、S(僕の名だ)は、ミンメイが好きなの? 未沙が好きなの?」
と聞いてきた。
これまでの流れからすると、どう答えても厳しいツッコミが待っていそうだ。何かのトラップとしか思えない。

「究極の選択だね。でもさ、世の中には女性はいっぱいいるじゃない。自分中心主義ののアイドルと、めんどくさい性格の軍人からしか選べないって、その選択肢の設定はずいぶんと偏ってるんじゃないかな?」
「あら、じゃあ、メガネっ娘とかツンデレの幼なじみとかを加えればれば納得するの?(笑)。現実はいつも不完全な選択肢でしかできてないわよ?」
「じゃあさ、アナタはどっちが好きなのさ?」
「うーん、あたしは二次元とか興味ないから」
乱暴に始まった会話は乱暴に終わった。
(第1回終)

/藤津亮太の恋するアニメ 第1回 人を好きになる瞬間(前編)

藤津亮太の「アニメの門チャンネル」
/http://ch.nicovideo.jp/channel/animenomon
毎月第1金曜日22時からの無料配信中
2012年10月5日22時~第2回放映

藤津亮太[アニメ評論家]
単著に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』(NTT出版)。「渋谷アニメランド」(NHKラジオ第一 土曜22:15~)パーソナリティ。
藤津亮太の「只今徐行運転中」
/http://blog.livedoor.jp/personap21/
《animeanime》
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