ヨーロッパのアニメーション動向 放送番組から劇場公開長編への流れ by 伊藤裕美 | アニメ!アニメ!

ヨーロッパのアニメーション動向 放送番組から劇場公開長編への流れ by 伊藤裕美

世界最大規模のアニメーション映画祭とMIFA(国際アニメーション映画見本市)の“アヌシー”は、2000年代より長編劇場公開アニメーションのプロモーションに力を入れてきた。それにはフランスのみならずヨーロッパのアニメーション界の動向とその要望が大きく影響している。

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取材・文: 伊藤裕美(オフィスH)

■ アニメーション界で進む、放送番組から劇場公開長編への流れ

世界最大規模のアニメーション映画祭とMIFA(国際アニメーション映画見本市)の“アヌシー”は、2000年代より長編劇場公開アニメーションのプロモーションに力を入れてきた。それにはフランスのみならずヨーロッパのアニメーション界の動向とその要望が大きく影響している。
ヨーロッパでも、ピクサー、ディズニー、ドリームワークス、ブルースカイといったアメリカのアニメーション制作会社の長編アニメーション映画が観客を呼び、興行は至って好調だ。それに伴い各国のアニメーション観客人口が増加した。人口6,500万人のフランスでは、過去10年でアニメーション映画は年間3,000万超を動員できる人気コンテンツとなった。

CNC(フランス映画・動画センター)の最新レポートによると、他のジャンルと比べても長編アニメーション映画の興行は11年も好成績を残した。
まず上映コピー数では、映画全体の平均137コピーに対しアニメーションは343コピーであった。アニメーションは認可映画全体の中で、公開本数の3.7%、制作投資額の5.9%に過ぎないが、観客数の16.2%、興行額の16.5%を占める。平均公開期間は全体平均より長く、フランスのアニメーションがアメリカ作品を凌ぐ。このようなことから、劇場・配給がアニメーションを好み、制作と公開に対する需要が高まるという好循環になっている。

さらに観客層の拡大がある。アニメーション界を牽引した放送番組の視聴層は4~10歳を中心とする子どもに限られてきた。
しかし過去10年のアニメーション映画の成功は、より広い観客を劇場に呼び寄せる。放送番組ならば視聴を“卒業”したであろうヤングアダルト層や、より年齢の高い女性層へ拡大し、ここ数年はその数字が安定している。女性が過半を超えるのは子どもの引率者だからだが、成人女性を惹きつける何かがアニメーション映画にあることは確かだろう。

図表(フランスで公開された長編アニメーション映画の観客動向 2005年~2011)参照

観客層の多様化はテーマの幅を広げた。アヌシーの長編部門コンペティションで受賞した、ヨーロッパの3作品は、これまでなら実写映画やドキュメンタリー映画向きと考えられた、社会的あるいは政治的テーマをアニメーションで描いた。
フランスの人気コミック「Titeuf」(全17巻)」は01年からアニメーションシリーズが有料放送Canal Jで放映されてヒットした。その映画版『Titeuf, le film(映画版 ティチュフ)』が11年に公開されると、120万人超を動員した。製作したMoonscoop(http://www.moonscoop.com/)の創業者でプロデューサーのクリストフ・ディサバチーノは、「テレビならできないが、映画版ではティチュフの両親を別れさせた」と、対象が広がる映画ならではのストーリー展開ができると語る(écrantotal 12年6月5日号)。

劇場公開の長編アニメーションは、制作会社の“DNA”とするプロデューサーもいる。TeamTO(http://www.teamto.com/)の創立者で代表のギヨーム・エロアンは常時数本のテレビシリーズの制作を回し、ヨーロッパのアニメーション業界のプロが行う放送番組フォーラムCartoon Forum(カートゥーン・フォーラム)(http://www.cartoon-media.eu/FORUM/index.php)で2010年の最優秀プロデューサーに選ばれた。エロアンは05年のスタジオ創立当初から長編の自主制作への夢を抱いてきた。大きなフォーマットで、より高度なCGI技術と美術表現が求められる劇場公開作品でアーティストの本領を発揮させたいと言う。
放送番組を受注しつつ、制作力を高め、資金調達のための人的ネットワークを広げ、長編制作の準備を進める。そういう独立系の制作会社とプロデューサーが、今のヨーロッパ・アニメーションの活力源だ。

[伊藤裕美]
オフィスH(あっしゅ)代表。
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
/http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp
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