2008年のアニメ産業の行方 DVDビジネスの限界と多チャンネル化1 | アニメ!アニメ!

2008年のアニメ産業の行方 DVDビジネスの限界と多チャンネル化1

【穏やかだった2007年】
 2007年は、アニメビジネス界隈にとっては、比較的穏やかな年だった。過去数年に起きたアニメ関連企業のIPO(株式公開)やM&Aもほとんどなかった。
 また、劇場映画ではジブリ映画や巨匠の大作はなく話題は少なかった。一方で、シリーズ作

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【穏やかだった2007年】
 2007年は、アニメビジネス界隈にとっては、比較的穏やかな年だった。過去数年に起きたアニメ関連企業のIPO(株式公開)やM&Aもほとんどなかった。
 また、劇場映画ではジブリ映画や巨匠の大作はなく話題は少なかった。一方で、シリーズ作品を中心に興収は悪くなかったので、まずまずという凪の状態だ。
 テレビ放映は相変わらず、ゴールデンタイムからの退潮が続いている。しかし、それは急に始まったことでなく、そうした傾向を前提としたビジネスが進められている。
 
 おそらく最大のトピックスは、DVD市場である。市場全体の規模は安定していたが、個別のタイトルで、不採算作品が急増した。また、動画共有サイトの急成長と著作権者未承諾のアニメ動画の投稿急増も、もともと著作権に敏感なアニメ製作の関係者の警戒心を増大させている。
 それでもこの状況は、アニメDVD市場が崩壊しつつある海外に較べれば、まだ危機感は少ない。

 米国では、マニア向けの作品で人気の高かったジェネオンエンタテインメントUSAが市場から撤退するとの発表で激震が走ったし、シンガポールでは大手のアニメDVD会社が違法なアニメファイルのダウンローダーに訴訟する構えをみせたことが大きな事件となった。
 しかし日本では、違法配信に対する危機感は海外ほど高くない。アニメDVDの売上高が減少する気配がないからだ。つまり、市場はあるのだから、制作本数を減らせば利益を回収出来るようになるとの読みがある。勿論、制作本数を減らせるかが問題なのだが、これはネットの動向とは無関係である。

【アニメDVDビジネスは限界を迎えている】
 しかし、現在の海外で起きているDVDの問題は、いまに始まったのでなく、おそらくインターネットが高速化し、ファンサブと呼ばれる違法ファイルの交換が爆発的に増加した2000年過ぎ頃から既に始まっていた。つまり、過去5年間以上かかり辿り着いた結果が、今の海外のアニメDVD市場である。
 日本のユーザーはネットに関する警戒心が高く、ファイル交換があまり普及しなかったことから、これまでこうした流れと距離があった。しかし、2007年の動画共有サイト急成長が、現在の日本アニメファンを海外のアニメファンが2000年頃に立っていた場所に連れてきている。

 海外の違法配信は、最初はただで観られる、正規版より早く観られるといった誘惑で、アニメファンを引き込んだ。これが本来DVDで観るはずだったファン層を奪っている部分は勿論ある。
 しかし、もっと本質的な問題は、多くのアニメファンにアニメはパソコンで観るものという習慣を持たせてしまったことである。

 かつては、こうした違法配信は試しであり、本当に気に入った作品は、きちんとDVDを買うとされていた。
 しかし、今のアニメファンはインターネットの映像に満足している。ネットがスタンダードだから、DVDを買ってより高画質の映像をテレビで観るという発想がない。これが現在の海外のアニメ市場で起こっていることだ。

 だから、日本でもこのまま若い視聴者がPCでの映像になれてしまったら、今後DVDを買う消費者にならないかもしれない。
 いま北米やアジアの各国で起きているアニメの映像パッケージビジネスの崩壊は、近い将来に日本でも起きる可能性は小さくない。

 しかし、確かなのは、現在作られているほとんどのアニメがDVDパッケージで支えられるビジネスモデルが限界に近づいていることだ。
 テレビやネットで数十万人、時には数百万人が無料で観る作品の製作費をわずか数千人、数万人のDVD購入者に依存することは冷静に考えるとかなり歪んだビジネスである。こうしたビジネスモデルは、現在の違法配信の問題がなくても、いずれは壁に突き当たる可能性を持っていた。

【オンラインビジネスの成長と現実】
 そうであればアニメビジネスの主戦場をインターネットに置き換えるのはどうだろうか。消費者がインターネットで時間や金銭を消費するならば、自らがネットのビジネスに乗り込み事業展開することは合理的な考え方である。また、DVD依存のビジネスモデルと異なり、広く浅く収益を得ることが出来る。
 実際に、バンダイチャンネルや東映アニメーションなどインターネットのアニメ番組配信大手企業のビジネスは好調にみえる。また、角川グループホールディングスやGDHのように、ネットやモバイルの世界に可能性を見出し、積極的なビジネスを展開する企業もある。
 アニメDVDの市場崩壊に苦しむ海外のアニメ流通企業も、同様にネットの世界に未来を見ている。

 しかし、オンラインビジネスが成長する一方で、既にオンライン配信ビジネスの限界も見えてきている。バンダイチャンネルは2006年に1600万話の有料配信をし売上を大きく伸ばした。2007年はさらに伸ばしただろう。しかし、この実績は500作品以上、7000話以上のラインナップを誇るバンダイチャンネルだから可能なのだ。
 1600万話からの売上高は、20億円を超えない。10億円以下かもしれない。500作品を販売して得られる売上高は、1年にテレビアニメシリーズが数作品を制作出来る金額に過ぎない。
 つまり、オンライン配信は、バンダイチャンネルや東映アニメのように、巨大なライブラリーを持つ企業が、これまでのビジネスの成果物に対する追加的な収益としてしか行えないビジネスである。
 PC向けにしろ、モバイル向けにしろネット配信からの収益は、全体の製作費回収モデルの中で+αになることはあっても、それだけでアニメを製作するのはとても不可能である。

2008年のアニメ産業の行方 DVDビジネスの限界と多チャンネル化2
/http://animeanime.jp/review/archives/2008/01/2008_dvd2.html
《animeanime》
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