「テニスの王子様」正規DVD 中国で6万巻発売 ADKのアニメビジネス | アニメ!アニメ!

「テニスの王子様」正規DVD 中国で6万巻発売 ADKのアニメビジネス

[中国市場をもう一度考える機会となったセミナー]
 中国市場は13億の人口や経済が急成長していることもあり、多くの業界・企業にとって魅力的な市場である。しかし、アニメ業界に限れば、中国市場に対する関心と熱気は、ここ数年で急激に冷めているように感じる。
 

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[中国市場をもう一度考える機会となったセミナー]
 中国市場は13億の人口や経済が急成長していることもあり、多くの業界・企業にとって魅力的な市場である。しかし、アニメ業界に限れば、中国市場に対する関心と熱気は、ここ数年で急激に冷めているように感じる。
 それは2004年以降、中国政府の海外アニメの輸入規制が急激に強まっているからである。そうは言っても、日本企業には国内市場の限界は見えており、未来の市場である中国に全く触れないわけには行かない。現在の日本のアニメ関連企業は、そうしたジレンマの中にいる。

 こうしたなか日本貿易振興機構(JETRO)が2008年9月5日に開催したセミナー「中国コンテンツ・ビジネス動向と契約の実務」は、あらためて中国における日本アニメのビジネスの可能性を考えさせるよい機会となった。
 セミナーは主に2つの講演からなり、ひとつはコンテンツビジネスを行う際に中国で必要となる契約実務に触れた「中国向けコンテンツ輸出に関わる契約実務」(講師: 黒田法律事務所・黒田特許事務所黒田健二氏)、もうひとつはアサツーディ・ケイ メディアコンテンツ本部本部長補佐篠田芳彦氏による「中国におけるコンテンツビジネス事例」である。

 アニメ関係者には、この篠田氏による講演会が特に興味深かったに違いない。中国のアニメビジネスの話というと、これまで苦労談や未来の可能性への言及が多いのだが、今回の事例では『ドラえもん』や『テニスの王子様』を中心にビジネスの成功について多く語られたからだ。
 特に興味深いのは『テニスの王子様』の例である。『テニスの王子様』は、2006年以降、中国国家広播電影電視総局から輸入・放送が許可された唯一の海外アニメーションである。それがビジネスの成功の大前提であるが、今回印象的なのはlこの作品がライセンス事業で確実な利益を挙げていることである。

[中国にも存在する正規品市場]
 篠田氏によれば、『テニスの王子様』は、全部で20のライセンシーを獲得し、296アイテムを商品化した。2008年8月現在で7600万元(日本円で約12億円)の売上を獲得している。さらに、『テニスの王子様』は、中国のアニメビジネスで契約の最低保障金であるミニマム・ギャランティーを超え、追加収入があった初めてのADKの作品だということだ。
 さらに驚かされたのが、正規版のDVDをこれまで6万巻発売しているということである。中国と言えば海賊版アニメDVDの多さで知られている。正規の商品は、通常は海賊版よりかなり高めである。つまり、中国にもあえて正規品を欲しがる消費者の市場が存在することを示している。
 篠田氏はビジネスの成功の理由に、上海メディアグループという信頼出来る大手メディアとパートナーを組んだことや、商品化監修システムの確立などを挙げた。そこからは正しいアプローチを取れば、中国でも市場を確立出来ることが感じられた。

  このほかにも講演では、中国でビジネスを考えるうえで学ばされることが多かった。『クレヨンしんちゃん』のDVDや『ドラえもん』のテレビ放映について、間にディストリビューターやブロカーを入れて苦労した話。そのため現在は、ディストリビューターは使わずに直接ビデオメーカーなどとビジネスを行うようしていることなどである。
 また細かいところでは、海外テレビアニメーションの放送許可が、共産党直轄のCCTVとそれ以外の広播電影電視総局によるものとが別管理となっていることもある。ビジネスを現在やっている人にとっては、常識かもしれないが、部外者にはこうした基本的なこともなかなか分からないものである。こうした点も、非常に有意義な講演であった。

[今後は中国政府の方針次第か?]
 しかし、実際にこれからの中国のアニメビジネスの見通しとなると、こうした話しを聞いたうえでもあまり楽観的にはなれなかった。確かな成功といえる『テニスの王子様』の事例も、やはり大手テレビ局でのテレビ放送がビジネスの基盤となっているからである。そうなるとまた最初に戻り、新作アニメの新たな放映許可が下りないという現在の壁にぶつかる。
 『テニスの王子様』が、中国にも潜在的なアニメ市場の可能性があること示しているだけに、現在の厳しい市場参入規制は、関係者にとっても歯がゆいものであるに違いない。そして、現在出来るのは、中国政府の今後の政策変更を期待するだけである。

 中国や特定の産業に限らず、海外からの市場参入規制が解除されるのは、一般的に自国の産業が海外企業と十分に戦える体制が整った時である。
 現在、中国企業自身が制作したアニメーションのビジネスは、必ずしも成功しているとは言えない。多くの中国企業は制作費と収入が逆ザヤとなっており、行政からの補助金で経営が成り立っている例も少なくないとされる。個人的には短期で、現在の輸入規制が撤退される可能性は低いように感じる。
 日本企業や日本アニメが中国でビジネスが出来るようになるのは、中国のアニメーション産業がある程度のビジネスを確立する必要がある。それゆえに、現在の日本のアニメ業界は、潜在的なライバルである中国のアニメーション企業の成長が一日も早く来ることを祈らなければいけない奇妙な状況にある。
[数土直志]

日本貿易振興機構(JETRO) /http://www.jetro.go.jp/
 JETROのコンテンツ関連調査レポート一覧 
 /http://www.jetro.go.jp/jetro/activities/export/contents/report/
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