「北米アニメファンから考えるアニメ産業」レポート 2 | アニメ!アニメ!

「北米アニメファンから考えるアニメ産業」レポート 2

<ファンの拡大と市場の縮小>

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<ファンの拡大と市場の縮小>

 次に「アニメの大衆化の現状」について言及された。北米のDVD市場では、大手の販売会社が撤退するなどの落ち込みが目立つ一方で、ファンイベントの参加者数は増加の一途を辿っている。
 この理由についてOTAKONのヴォルズさんは、自分自身がアニメファンであるというコミュニティを実感したいのでないだろうかと分析する。意見や情報はオンライン上で交換できるが、マンガを購入したりコスプレをするのはコンベンションのような場所で初めて可能になるからだ。
 このあたり日本のコミケに参加する人たちの心理と似ているが、広い国土や専門店の少なさから考えると、より渇望感は強いのかもしれない。

 また、DVD市場縮小に対してマンガの市場は活発である。彼らの感覚で言えば「マンガは安く、DVDは高い」のだそうだ。確かに絶対的な価格で言えばその通りなのだが、日本との比較では単行本が日本の約2倍、対してDVDは1/3であるため奇妙に映る。
 この理由は、マンガ市場の急速な発展にある。数年前のマンガ単行本の価格はおよそ$15で、販売量の増加にしたがって$8程度に下がってきたため、割安感が強いという。

 DVD販売の鈍化については、既で多く報道されている通りファンサブ(字幕付けをした違法配信)による影響が大きいと指摘する。こうしたダウンロードを行うファンの多くは法律や製作事情に無頓着で、単に無料で観られるからダウンロードをするのだという。
 また、カラハシさんは、北米のアニメファンは男女比がおよそ半々であるのに、発売されるDVDが男性に向けた作品に偏っている点を指摘した。それに対して、マンガは幅広いジャンルのものに対応していることが好調の理由であるという。

 マクドナルドさんによると、ヒットするDVD作品は1巻あたり8万枚以上売れているが、そうでない作品は5000枚を下回るものも少なくないという。一方で違法ダウンロードの数は1話あたり平均して20万ダウンロードにも上る。
 海外アニメビジネスで、違法配信は必ずつきまとう問題だが、これほどあからさまな数字を示されると驚かされる。

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<違法配信をする理由となくす方法>

 しかし、マンガのページをスキャンして画像アップロードを行う「スキャンレーション」(スキャン+トランスレーション=翻訳の造語)については、マンガ市場においてそれほど深刻な打撃を与えていないという。
 その理由は、マンガを手にとってページめくるという行為や読む姿勢などが多分に体感的であるためでないかという。これが違法でも合法でもモニターで見ればほとんど変わらないアニメとの違いだそうだ。

 またスキャンレーションされるマンガは大多数が人気作品で、正規ライセンスされる前にいち早く読みたがる読者がいるためである。一方で、一部のBL作品などの熱狂的なファンはいるが、ライセンスされる見込みのない作品もスキャンレーションされるという。
 また、スキャンレーションのコミュニティでは、正規ライセンス版が発売された際にはスキャンを削除するルールがあるという。彼らの倫理は「ライセンス企業がカバーしきれていない作品をファンに届ける」ということだ。

 違法配信を無くす方法について、マクドナルドさんは2つの方法を提案する。1つはアップロードした人を訴えることである。ただし、このやり方ではすぐ次に別のコピーがアップされ、イタチごっこになる。
 もう1つの方法はファンのニーズを満たし、ファンサブが広がる前に正規ライセンス作品を発売することである。
 先鋭的なファンであればあるほど日本と時差のない、最新の作品を見ようとする傾向にある。日本で人気という情報が入り、雑誌や公式サイトで話題になっている時に、ライセンスされるのが2年後だとファンは待てないのだという。そのため、違法行為であっても彼らはダウンロードをするとする。

 しかし、全体的に言えばアニメ・マンガファンの拡大は続いていると多くのパネリストは見ていた。違法配信行為は、その拡大に従って増加しているともいえる。ただし、直近の数字では、ファンの伸びは鈍化しているとも見られている。
 ファンの拡大によって支えられてきた市場が、現在様々な要因で支えきれなくなっている。日本の制作会社や製作会社も海外市場から撤退するケースがある一方で、海外売り上げを無視してアニメの製作を行うことも難しい状況である。
 違法行為を認める理由はないが、今後ファンのニーズを見据えたマーケティングとメディア側の法的な啓蒙行為の両方に注意を払った企業活動が必要と考えられる。
[日詰明嘉]

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