上田麗奈が放つ“幽玄の美”と“情動”に魅せられて―映画「アリスとテレスのまぼろし工場」インタビュー | アニメ!アニメ!

上田麗奈が放つ“幽玄の美”と“情動”に魅せられて―映画「アリスとテレスのまぼろし工場」インタビュー

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』より、佐上睦実役を演じる上田麗奈のインタビューをお届け。

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  • 『アリスとテレスのまぼろし工場』本ポスター(C)新見伏製鐵保存会
特報の最後に流れたたったひと言のセリフを聴いた瞬間、心を掴まれた。

「退屈、根こそぎ吹っ飛んでいっちゃうようなの...見せてあげようか」

9月15日より公開となる映画『アリスとテレスのまぼろし工場』は、突然起こった製鉄所の爆発事故によりすべての出口を失い、時まで止まってしまった町を舞台とした物語。14歳の主人公・正宗は、気になる存在の同級生・睦実に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこで言葉を話せない野生の狼のような少女・五実と出会ったことが、“変化を悪”とする世界の均衡を崩す始まりだった。

本作のヒロインである佐上睦実役を演じるのは、声優の上田麗奈。彼女の声からはどこか儚くも美しい幽玄さや、痛みを感じるほどの情動が伝わってくる。その背景にはどのような想いがあるのだろうか。

取材・文・撮影:吉野庫之介
ヘアメイク:矢澤睦美 スタイリスト:網野正和



切実でひりついた青春の中で描かれる“恋への憧れ”


――変化を禁じられた世界が舞台となる本作ですが、初めてシナリオを読まれた際の作品の印象は?

とても“爽やかではない青春”というのが第一印象でした。14歳が主人公の青春物語といえば、青空にキラキラの太陽、笑顔いっぱいの登場人物が思い浮かぶと思うのですが、本作はどこまでも曇り空でひりついた空気感の中、あふれ出てしまいそうな切実な想いを少年少女たちが抱えていて。それを発散するパワーに圧倒され、感動すると同時に怖くなってしまう…まるで、見てはいけないものを見ているような。

自分の中にある本当の気持ちって、複雑で、矛盾していて、少しドロっとしているような部分もあって。私自身も普段の生活で出さないようにしようと思っていたり、見たくないと思っているものをまざまざと見せられている。そんな感覚になりながらも、物語の濃さに引っ張られ、逆にそれをもっと知りたくなって、いつしかポジティブなエネルギーがあふれてくる、このフィルムが持つ“吸引力”を感じました。

また、“恋への憧れ”というのもすごく感じました。最近私が他作品で演じていた役柄は誰かへの愛情を持つことが多かったのですが、本作からは、心の中が嬉しくなったり苦しくなったりという、恋をしたときの揺らぎや衝動が伝わってきて。

忘れかけていたものを「やっぱりいいな」という形で思い出させてもらえたというか、もっと言うと、少しネガティブな言葉選びになってしまいますが「ずるいな」って。こんなにも切実でひりついた青春だからこそ、心を動かしている彼らに憧れを覚えました。



――上田さん演じる睦実は「静」と「動」でいうと、最初は「静」の印象が強かったのですが、物語が進むにつれて「動」の部分が見えてきて。演じるうえで意識されたことは?

ご覧いただくみなさんにも最初彼女の「静」の部分が印象的に映るだろうなと思いながら向きあっていたのですが、本当は色々なことを頭の中で考えていて、気持ちも動かしている。だけど、それを見ないように、気づかないように、頑張って押さえ込みながら心に蓋をして。それでもあふれそうになってしまうようなギリギリのところを歩いている子なのだと。

作中で急に睦実が感情をあらわにするシーンがあるのですが、それはこれまで彼女がずっと考え蓄えてきたもので、いつあふれ出してもおかしくないものだったのだと思います。

一方で、正宗(CV:榎木淳弥)や五実(CV:久野美咲)は爆発力のあるエネルギーにあふれたキャラクターで、演じるお二人のお芝居が本当に素晴らしいからこそ、その熱量で私も返したくなってしまう気持ちがあったのですが、それに引っ張られてしまうと、睦実の心の蓋が外れてしまう…。そんな葛藤を感じながらどうにか遠ざけて、熱量で“返さない”ということを意識して演じていました。

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』本予告
――大人とは違う、思春期特有の迷いも垣間見えて。

とくにそれを感じたのが正宗と五実に対する「好き」の感情で、同じもののようでありながら、“恋”と“愛”をそれぞれに感じている。だからこそ、また難しくなっている部分があって。

この“変化を悪”とする世界にいるだけでもギャップを感じてしまうのに、本心を隠したうえで、そのもうひとつ先にある想いすらも隠さなくてはいけないという、何重にも扉がある状態に彼女は苦しんでいるのだと思います。

さらに、ひとつの嘘がまた違う嘘にもつながっているようなことが多く、睦実が本音で喋っているシーンは数えるほどしかなくて。彼女自身、何が本当だったのかわからなくなり、周囲からも信じられなくなって、とても複雑な心模様になってしまったのだなと。





――睦実と五実の対比関係がそれをさらに浮き彫りにしていたように思います。

睦実視点から見ていると、五実はまんまるな目ですべてを見て、世界を真正面から受けとめている。それが羨ましいほどに輝いて見えて。先ほど「ずるい」と思ったと言いましたが、その感情は睦実とリンクしていたのかなと思います。

あと、正宗が五実に顔を舐められて「あったかいな」と言うシーンがあるのですが、距離感的に睦実とのキスシーンと同じくらいのはずなのに、印象が全然違って。それを見て「好き」の種類も含めて、彼女たちはなにもかもが真逆なんだなと感じました。





自分が醜いと思う自分を隠して生きてきた


――「変化」がテーマのひとつにもなる本作ですが、学生時代のような思春期の頃と大人になった現在を比較して、ご自身の考え方がもっとも変化したと感じることはありますか?

本音を言えるようになったと思います。自分の好きなこと、やりたいこと、食べたいもの、苦手なこと、嫌いなもの…以前はそういったことを素直に言えなかったんです。本音を隠した状態の自分を嫌われるよりも、剥き出しの本来の自分で人に嫌われてしまうことのほうが辛いから、自分が醜いと思う自分を隠して生きてきて。

今となっては話せることなのですが、私はテストで赤点を取ってしまうような学生だったんですけど、周りの人から「頭が悪い」と思われるのが恥ずかしい、もしかすると嫌われてしまうかもしれないと思っていたり。あとは小さい頃のトラウマのようなもので「レンジャーごっこで本当はピンク役をやりたかったけれど、私はいつもイエロー役だった」とか「学級委員長に憧れていたけれど、私は選ばれることはなかった」とか。

ひとつひとつは小さなことではあるのですが、そういう自分が本音の部分でやりたいと思っていたことに「選ばれない」という経験がたくさんあった結果、「私はピンクが似合うような可愛い女の子ではないんだ」「私にはリーダーは向いていないんだ」と思うようになり、そういう自分を演じることで周りの人と良好な関係を築こうとしていたんだと思います。

そこから少しずつ「人に認められたい」というのも自分の欲求なのだと気づいてからは、その目標に対して、演じるという形ででも努力をしてきた自分のことを肯定できるようになったり、「次は素に近い状態で人と接してみようかな」と挑戦できるようになって。以前は口に出すのが恥ずかしいと思っていた自分の本音も言えるようになり、感情の波も穏やかになったと思います。





――その変化の過程は今回の映画で描かれる睦実の姿ともシンクロしているような気がしますね。

そうだと思います。自分の心の声を聞かないようにしてどうにか蓋をしていた睦実が、最後に「私は生きているんだ」と心から思えて自分の気持ちを発信するシーンを見て、ちゃんと自分のことを否定することなく、これからは生きていくことができるんだろうなと思えて。その彼女の変化は私自身とも重なりました。

――上田さんご自身の経験が睦実としてのお芝居の中にも息づいているのですね。

私に寄せてしまった部分もあるかもしれません。麿里さんがインタビューの中で「出来上がった作品を見て、睦実がこういう人間なのだと気づかされた」ということを仰っていたので、もしかすると、麿里さんが当初思い描いていた睦実のイメージからは離れてしまったのかもと。

――それもまた役者冥利に尽きるというか。

「この睦実もあり」と判断していただき、結果として「いい睦実が生まれた」と思っていただけたのであれば、それは良かったのかなと思います。 



映画『アリスとテレスのまぼろし工場』
2023年9月15日(金)全国公開

スタッフ・キャスト
監督・脚本:岡田麿里
副監督:平松禎史
キャラクターデザイン:石井百合子
演出チーフ:城所聖明
美術監督:東地和生
音楽:横山克
制作:MAPPA
配給:ワーナー・ブラザース映画、MAPPA
主題歌:中島みゆき「心音(しんおん)」
出演:榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲、八代拓、畠中祐、小林大紀、齋藤彩夏、河瀬茉希、藤井ゆきよ、佐藤せつじ、林遣都、瀬戸康史

(C)新見伏製鐵保存会
《吉野庫之介》
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