「アニメ産業レポート 2016」から見えるアニメの未来像 藤津亮太のアニメの門V 第18回 | アニメ!アニメ!

「アニメ産業レポート 2016」から見えるアニメの未来像 藤津亮太のアニメの門V 第18回

連載・コラム

  
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2017年最初の『アニメの門V』は、アニメの現在を確認するという意味で、少し話題は古くなるが昨年9月末に出た「アニメ産業レポート2016」を取り上げたいと思う。

「アニメ産業レポート」は、日本動画協会がアニメ産業についての調査を行い、その結果と分析をまとめた冊子(サマリーはここで無料公開されている。http://aja.gr.jp/info/990。通販情報などはこちら→http://aja.gr.jp/info/957)。毎年秋に前年分のデータをまとめてリリースしており、「アニメ産業レポート2016」には2015年のデータと分析が収められている。アニメファンにとっても見逃せないデータが多いので、以下、気になるトピックを紹介していこう。

2015年に放送されたTVアニメのタイトル数は328本。そのうち108本は前年からの継続で、233本が新作だ。2014年の322本を上回り、過去最高の放送タイトル数となった。
一方、制作分数は2014年を少し下回る11万5533分。これはショートアニメの増加などが理由と考えられる。ちなみに過去でもっとも制作分数が多かったのは2006年の13万6407分。この時のタイトル数は276本で、現在よりショートアニメが少なく、2クール作品が多かったためだ。

レポートでは過去の制作分数データをみつつ、日本のアニメ産業におけるTVアニメのキャパシティは12万分程度ではないかと予想している。そして制作タイトル数の増加具合からして、2016年は12万分を超えるのではないかと示唆している。
注目したいトピックとしては、深夜アニメの制作分数が、全日帯アニメのそれを初めて上回ったということがいえる。深夜アニメは6万800分。全日帯は5万4733分。おおざっぱにいえば、「今放送されているアニメの半分強は深夜アニメ」ということができる。

ではこうした作品制作を裏付けるビジネス環境はどうなのか。
2015年のアニメ産業市場(ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場)は1兆8255億円。こちらは2014年の1兆6299億円から大きく伸びている。
この数字はさまざまな記事で引用されることが多いが、取り扱いには注意が必要だ。これは「エンドユーザーが支払った額」なので、映画であればアニメ映画の項目であれば興行収入の総計がまるまる含まれているし、遊興であればアニメを使ったパチンコ・パチスロ台の出荷高を推計して加えてある。音楽であればアニメ音楽商品のエンドユーザー売上が計上されている。

つまり「映像作品であるアニメ」が上げた売上でなく、アニメに付随する「アニメ的な商品の売上」も全部含まれているのである。しかも映画でいうなら、興行収入のうちおよそ半分は上映した映画館側の取り分であるし、さらに残った半分には配給会社の取り分も含まれている。1兆8255億円がダイレクトにアニメ業界に入ってきているわけではない。
むしろアニメ業界市場(全ての商業アニメ制作企業の打ち上げを推定した狭義のアニメ市場)のほうが、アニメ産業のスケール感をよく表している数字といえる。
こちらは2007億円。
制作タイトルの増加にともなってであろう、2014年の1863億円よりも増えている。ちなみに2002年以降で、もっとも金額が大きかったのは2005年の2232億円だ。ざっくりいってここ10年後どのアニメ業界の売上は1500億円から2000億円強ぐらいまでの間で推移している。

この売上の主な内容を内訳を見てみると
1)TV制作・放映権収入 605億円
2)映画制作・分配収入 232億円
3)ビデオグラム制作・分配収入 145億円
4)配信作品制作・分配収入 110億円
5)商品化 258億円
6)音楽 33億円
7)海外 映像販売などの収入 349億円
ここ数年の間でTV・映画関係の収入は多少の上下はあれど、大きな変動はない。

配信の売上は2014年が102億円なので、それまでの伸びほどの勢いはない。これについて、産業レポートは「キャリア系サービスの減速」とその主たる理由を推定している。

逆に海外からの売上は2014年が195億円だったのに対し、349億円と大きな伸びを示している。この大きな伸び(同レポートによると全体をドルベースに変換しても大幅な伸びは変わらないという)の多くは海外への配信件販売によるところが大きいという。近年の制作本数の増加は、海外での配信収入で売上が上がっていることもその一因という話を聞くが、その実体がこの数字に現れているというわけだ。

問題はこの売上増加が、瞬間風速的なもので終わるのかどうかだ。ここは、これからのアニメの動向を直接的に左右してくるファクターとなりそうだ。
また同レポートの中で、劇場アニメに関する部分に見逃せない記述もあった。2015年の劇場アニメのタイトル数は2014年の73作から85作に増加し、制作分数換算では4764分から6046分と27%も増えた。同レポートは、「ビデオパッケージの伸長が望めなくなった近年において、リスクはあるものの、ファーストウィンドウから収益が得られる劇場アニメに産業界の関心が移っていることが明確になったと思われる」と分析している。

以上を踏まえつつ、これからのことを少し考えてみよう。
本連載第13回(http://animeanime.jp/article/2016/08/05/29832.html)でも触れたがが、実は現在起きようとしている最も大きな変化は、実はフィジカル(ディスク販売ビジネス)からデジタル(配信ビジネス)への変化ではない。フィジカルからデジタルへの変化は、もう不可避なこととして進行中で、あとはそれがソフトランディングするかどうかだ。

これから起きるのは、アニメのファーストウィンドウがTVからそれ以外のメディア(配信、劇場)へと移り変わっていく、という変化だ。しかも、配信がファーストウィンドウになれば、海外とのリリースの時差も極小になり、国内配信と一体の流れになっていくことが十分考えられる。レポートでの海外で配信の売り上げが高いということは、そうなる可能性があることを示唆している。これはまだ「ANIME」ブランドが有効な現状にとっては、大きな可能性があるポイントだ。
ただ、この変化の中で起きている活況が、制作本数の増大を招いて制作現場を圧迫しているのは皮肉ともいえる。製作側と制作側の融合(それはつまり互いのリスクを分担し合うことになる)が進まないと、このギャップは埋められないのではないだろうか。

やがて地上波TVは、ファーストウィンドウのビジネスの補完、もしくはフィジカルの援護というポジションへと変化するだろう。たとえば配信で第2期をやるタイミングに合わせて第1期を地上波で流す。あるいは(コレクターに向けて縮小しながらも残るであろう)パッケージ販売のタイミングで地上派放送を行う。「ばらまく力」が強い地上波でなくてはならない役割が期待されるようになるはずだ。
以上、産業レポートから考えられる未来像を予想してみたが、果たして2017年はどのような変化の年となるのだろうか。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ
ゼロ年代アニメ時評』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。  
《藤津亮太》
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