マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第1回「はじめにアニメありき」 | アニメ!アニメ!

マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第1回「はじめにアニメありき」

豊永真美氏[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]によるフランスの日本マンガの受容などに関する論文です。短期集中連載、全8日予定。

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■ 豊永真美
[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]

[プロローグ]

2015年1月7日、フランスで風刺週刊誌「シャルリ・エブド」が襲撃され、同誌に寄稿するバンド・デシネ作家5人を含む12人が落命したとき、フランスの出版界はいち早く、弔意を示した。特に目立ったのがバンド・デシネ界隈の人々である。たとえば、バンド・デシネ出版社であるジャック・グレナは複数のテレビ番組に出演した。
ジャック・グレナは、学生時代に、シャルリ・エブド(*1)の前身のシャルリ・マンスエルの使い走りとしてアルバイトを始めたことから犠牲者とのつながりも深く、個人的な哀悼の意と、表現の自由を守るために戦ってきた「シャルリ・エブド」誌への敬意の双方を示すためにテレビ出演をした。

また、フランス出版協会(SNE)の会長であるヴァンサン・モンターニュは1月9日に犠牲者の作家一人一人の業績を称えた追悼声明を発表した。

ジャック・グレナはグレナの社長であり、ヴァンサン・モンターニュはメディア・パルティシパシオンの社長である。そして、グレナとメディア・パルティシパシオンはともに、フランスのマンガ出版を支える企業だ。グレナは「One Piece」を、メディア・パルティシパシオンは「NARUTO」を出版し、フランスのマンガ市場をリードしている。

しかし、日本ではシャルリ・エブド襲撃事件は大きく取り上げられたものの、この二つの出版社の社長の談話は取り上げられなかったようだ。シャルリ・エブド襲撃事件は「表現の自由」、「政教分離」、「移民問題」といったコンテキストでとりあげられても、フランスのバンド・デシネと日本のマンガとのかかわりでこの事件を切り取ったものは見かけることはあまりなかったように思う。

しかし、シャルリ・エブド襲撃やその背景にあるフランスの政治事情を理解するためにフランスのマンガ出版社事情をみることは日本人にとってわかりやすいこととなるだろう。ジャック・グレナの生涯はそのままフランスのバンド・デシネの歴史とつながる。メディア・パルティシパシオンはフランス最大のカトリック出版社であり、フランスの政教分離の現況を理解する一助となる。

また、今回の襲撃事件の背景には、フランスの移民2世がフランス社会に同化できないことが背景にあるといわれているが、移民2世の成功者としてあげられるのがKi-oonという新興マンガ出版社の創業者である。父親がセネガル出身で、自身は移民2世の創業者アメッド・アニュの物語は、フランスの移民問題を具体的に理解するための格好のケースである。

フランスでマンガが根付いたのは、この3社の出版社のように、フランス社会の中にしっかり根をおろした企業がマンガを出版していたからだ。

これに加え、フランスの出版市場で圧倒的な力をもっているアシェットがマンガ市場に参入したことが、マンガの発展を決定づけた。アシェットはフランスの出版市場の5割以上を占める巨大企業である。アシェットが「出版している」ということだけで、マンガは確かな分野となったのだ。また出版の自由を保障するためのアシェットの役割も重要だ。

00年代のNARUTOブームまで、フランスの出版社がフランスのマンガ市場を支えていたが、09年に小学館集英社の子会社VIZがアニメとマンガを出版するKAZE社を買収した。これにより、フランスの既存の出版社から激しい非難を浴びた。フランスのマンガを支えるのは少年ジャンプに連載されているような少年マンガが中心で、小学館集英社が自らの子会社を持つということは、ほかのフランスの出版社が少年ジャンプのタイトルの翻訳権をとることができないということだ。日本の出版社のフランスへの上陸は、フランスのメディアでは「パールハーバー」とさえいわれた。

現在ではKAZEに対する非難は落ち着いているが、これは、現在でもフランスのマンガ市場が結局はフランスの出版社に支えられているからである。もう一つ、VIZがフランスのバンド・デシネを日本に翻訳するようになったことも大きい。VIZが日仏文化の架け橋となることで、初めてフランスの出版界から「赦された」といえる。

[/アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz より転載記事]
《アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz》
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