なぜロトスコープでアニメを制作したのか?「花とアリス殺人事件」岩井俊二監督インタビュー

インタビュー

『Love Letter』『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』などさまざまな映像作品を生み出してきた岩井俊二監督初の長編アニメーション映画『花とアリス殺人事件』が公開された。2004年に岩井監督が原作・脚本・監督を務めた『花とアリス』の前日譚となる作品で、花とアリスの出会いが描かれたオリジナルストーリーだ。
前作の空気感を継承しながら、異なる映像表現を選択した理由とは? 制作方法や岩井監督の作品への想いについて話をうかがった。
[構成・執筆=川俣綾加]

映画『花とアリス殺人事件』
2月20日(金) 全国ロードショー
http://hana-alice.jp/

■ 自分が見たいアニメを作ろうと制作したアニメーション

――『花とアリス殺人事件』を制作にあたり、アニメーション、それもロトスコープで作るのはどういう経緯で決まったのでしょうか。

岩井俊二監督(以下、岩井)
作品の構想をプロデューサーの石井朋彦さんにお話ししたら「一緒にやりましょう」とおっしゃっていただけたのが再始動のきっかけです。ロトスコープと3DCGで制作しているのは、石井さんに「3DCGの発展」が考えの一つとしてあり、そこに僕のロトスコープの可能性に対する好奇心が重なったものです。僕は実写の監督なので、ベースに役者さんの芝居を据えてアニメにするほうがやりやすかったのも理由としてあります。

abesan
――ロトスコープと3DCG、どの部分にどちらの技術が使われていますか?

岩井
当初はメインキャラクターを3DCGで作って、周りを囲んでいる人々をエキストラを使って撮影しロトスコープで作ろうとしていました。しかし最終的にはメインキャラクターの一部をロトスコープにしたり、中盤は全てロトスコープだったりとどんどん両方の技術が複雑に絡むようになっていきました。ロトスコープは実写をそのままなぞり描きしていくので、顔のアップより全身サイズや小さなサイズに有効で、逆に顔のアップを3DCGにしたり。途中でそれぞれの長所と短所が見えてきたので、全部で826カットある中で色々なやり方をしています。

――背景は、前作の『花とアリス』の空気感を受け継いだ淡い水彩画のようでした。

岩井
背景は一枚絵が多く、美術監督の滝口(比呂志)さんと背景チームが描いています。水彩画風にするのは決めていて、あとは実写のテイストを再現したかったので光線はどんなものにするかを考えました。滝口さんは新海誠監督の『言の葉の庭』でも美術監督を務めていましたが、あそこまで究極的なことをやるのではなく、シンプルに影色で調整しています。
具体的には、人物を全て日陰で芝居させるので日陰の絵を作ってください、と決めました。全体的に役者が日陰の中に常にいて、アニメに特徴的な直射が顔に当たっているシーンはほぼ出てこない。その中で肌色をコントロールしているんです。

abesan
――通常のアニメなら顔に陰影を付けるけれど、それを全く取り払ったということですね。

岩井
例えば細田守監督の場合、直射が顔に当たっている状態であえて影を使わない方法を採用していると思いますが、こちらは逆に直射を使わず影となる肌色だけで見せるというやり方です。そうすると実写でライティングして撮影しているような体感に似ていて。あとは独自のレシピであるカラーコレクションを使って調整していきました。

――これまでアニメに関わってきたスタッフには、もしかしたら違和感があった方もいたのではないでしょうか。

岩井
そうですね。最初はみんな嫌がっていました。肌の色一色で、光のグラデーションやハレーションを一切つけないで欲しいと伝えましたが、あがってきたデータを見ると全編にかけて影が入っていて。「もし影を入れないのであれば、そちら(岩井監督)で外してください」と言われたので、全て外してマットな状態にしていきました。もし影を入れないなら自分たちの仕事でなくなる、という考えがあったのかなとも思います。

――まさにこだわりのぶつかり合い、静かな戦い。

岩井
グラデーションは無く単色しか使っていないので、影を外す作業もコンピュータで指定すれば一瞬です。単色なら加工するときも楽に行えるので、その発見は思わぬ副産物でした。そのくらい単色にこだわっていて、これは実写ではなく肌色に塗られている絵だから、そこにグラデーションがつくのは違和感があるんです。グラデーションがつくとコンピュータで後処理されているものだから、人が描けないものになってしまう。人が描ける範囲の技術でやらないと絵として変な気がしちゃうんですよね。
《川俣綾加》

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