東京で開催している第27回東京国際映画祭(TIFF)で10月25日(土)、アニメーション/実写監督の原恵一氏の新作アニメーション映画『百日紅(仮題)』のスペシャルプレゼンテーションが行われた。漫画家であり江戸風俗研究家としても著名な杉浦日向子さんの原作コミックス『百日紅』を、『河童とクゥの夏休み』(2007年)、『カラフル』(2010年)、『はじまりの道』(2013年)などの原恵一監督が映画化する。2014年6月にフランスで開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭で製作発表された本作はアニメーション制作をプロダクションI.Gが担当し、公開は2015年となる。今回のプレゼンテーションが待望の続報である。登壇したのはプロダクションI.G代表取締役社長の石川光久と松下慶子プロデューサーである。まず、石川代表から『百日紅(仮題)』が映画化されるに至った経緯が明かされた。3年前、『ももへの手紙』の制作終盤で監督の沖浦啓之氏が原作コミックを手に石川代表の下へ訪れ、「これを映画化したい」と伝えたのだという。それから半年後、今度は原恵一監督から杉浦日向子さんの『合葬』を映画化したいと伝えられた。『合葬』は幕末から明治へと至る時代に翻弄される武士の物語である。石川代表は、「時代が変わり必要とされなくなった兵士の悲しみを描いた『人狼 JIN-ROH』(2000年公開 監督:沖浦啓之)に似ていると思った」と語った。「監督の資質は作りたいものと必ずしもイコールではないんです。そしてやりたいと言われたものではなく、監督に何を作らせるのがいいのか。プロデューサーの資質はここで問われます」と続け、原監督に『合葬』を諦めてもらい『百日紅』の映画化を打診したという。その際、「沖浦には申し訳ないんですが、今回は我慢してもらった形になりました」とも述べた。プロデューサーを誰に任命するのかは大事な問題である。松下氏の起用は、『ももへの手紙』のプロデューサーとして7年もの間、作品制作に関わったその手腕を石川代表に認められた形となる。松下氏は『百日紅(仮題)』と並行してテレビアニメ『ハイキュー!!』のプロデューサーも務めるなど、気鋭の人物である。「普段はジーパンにTシャツ、とかなんですが……」と照れ笑いを浮かべながら、薄い黄色の艶やかな晴れ着姿を披露した。石川代表に変わりマイクを取った松下プロデューサーは、原監督が大きなチャレンジをしているのだと語った。これまで原監督が描いてきたのはほとんどが「男性の物語」で、今回初めて女性を描くこと。そして原作は短編連作であるが、映画は葛飾北斎の娘であるお栄を主人公に据え、1つの物語として描いて行くことなどだ。お栄のキャラクターデザインも、美人ではない『凛』とした女性となっている。「美人は見ていると飽きてしまいます。未完成の、人間らしさを持った女性を目指しました」と石川代表が加えた。また原監督の演出は、経験豊富な他のアニメーターにとっても、予想がつかないほど繊細な仕草にまで及ぶのだという。スクリーンに絵コンテや動画カットを映し出しながら作品の魅力は語られた。印象的だったのはお栄が海上を小舟で進んでいると北斎の浮世絵『神奈川沖浪裏』へ変化する、息をのむようなカットだ。各アニメーターの表現したいという絵描きのパワーも存分に味わえる作品となっている。最後に石川代表は「プロダクションI.Gとして、世界の映画祭でただ1つノミネートされたことのないアカデミー賞にノミネートされるなら『百日紅(仮題)』だろうと確信しています」と強い言葉で語った。松下プロデューサーは「日本の四季が巡り、時間の流れの中に、人間の営みが描かれています。200年前も今も人間の生きる様は変わりません。自分の生き方も大切にしたいと思えるような作品です」と述べた。締めくくりに制作のため登壇できなかった原監督から、映像でのメッセージが届けられた。「杉浦さんの人間の感情の描き方がすばらしく、自分のコンテが及ばないと不安な時期もありました。ですが、だんだん手応えを感じ始めて、今ではワクワクしています。フレッシュな時代劇、ぜひ期待していてください」。日本初公開となる『百日紅(仮題)』のフッテージ上映が行われ、スペシャルプレゼンテーションは終了した。[細川洋平]『百日紅(仮題)』2015年公開予定http://www.production-ig.co.jp/works/sarusuberi
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