スペイン:美術展「Proto Anime Cut」と「アニメを文化にしていく潮流」 PART 2 総合展示で世界観を訴える | アニメ!アニメ!

スペイン:美術展「Proto Anime Cut」と「アニメを文化にしていく潮流」 PART 2 総合展示で世界観を訴える

文:氷川竜介(アニメ評論家) 会のコンセプトとしては、展示品目にいわゆる「アニメキャラ」がほぼ不在という点を特筆したい。

イベント・レポート
注目記事
展示の様子
  • 展示の様子
  • 展示の様子
  • 展示の様子
  • 展示の様子
  • 展示の様子
  • 展示の様子
文:氷川竜介(アニメ評論家)


■ 総合展示で世界観を訴える

会のコンセプトとしては、展示品目にいわゆる「アニメキャラ」がほぼ不在という点を特筆したい。入り口には欧州でも大人気の森本晃司監督のコーナーがあり、そこでは短編『次元爆弾』などの映像実演とともに、関連する人物・衣装・美術関係のデザイン画やレイアウト、原画、背景が総合的に展示されていた。まさに先進性の高いアートの世界である。この導入部からさらに奥深く入ると、展示物のほとんどがレイアウト・美術設定・背景・コンセプトフォトなど、キャラ以外のものが中心となっていく。

庵野秀明監督の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』コーナーには綾波レイではなく、庵野監督自身の手による第3新東京市のレイアウトが展示してあるし、押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』では草薙素子のバックにあった重厚な未来都市(香港がモデル)の背景画とレイアウトが美術品として額装されている。この作品と『機動警察パトレイバー the Movie』は小倉宏昌氏の描いた背景画という展示物の共通性がつないでいる。
加えて両作品のロケハンに撮影された樋上晴彦のコンセプトフォトが、東京や香港の実景とアニメ映像上に再構築された「世界観」との関連性を訴えかける。庵野秀明監督が撮った東京のロケハン写真も展示されているし、六本木ヒルズ用に制作された押井守監督の空撮実写短編『東京スキャナー』も上映され、「生命体としての都市に対するアニメクリエイターの視線」が重層的に浮きあがっていく。

アニメ作品はキャラが動くことで物語を引っ張っていくため、この種の緊密な美術的意識の連動は、まさしく「バックグラウンド」に沈みこみ、注目される機会に乏しい。しかし緻密にデザインされ、物語にリンクする思想を埋め込まれた重層的なビジュアルこそが「世界観」を織りなし、興味の持続性を支える。それは映像の重み、求心力、すなわち本来的な「クオリティ」の礎となるものである。
まさに「アニメならではの表現」の代表格なのだ。それは非言語的なだけに、時として深層心理にはたらきかける重要な機能をになう。

近年、多くのアニメ作品で「美術」が重視され、高度になっている。そこにはこうした理由が大きく、日本発の「anime」が示す特徴のひとつであるはずだが、まだまだ注目や研究は不足している。この観点で美術がどういう機能をはたしているか、「アート」という観点で踏み込んで語られた展覧会の意味は大きい。しかも、展示は決してスタンドアローンな紹介に終始しない。いろんな作品をコンセプトや時代性やクリエイターが接続し、同じ主題であっても作家によって発想や切り口が異なるなど多面的であり、クリティークでもある。

そんな高度な展示の中では、渡部隆氏による仕事の底力がトータルに提示されたことも特筆すべきであろう。渡部氏は20数年にわたり、「これぞ」というSFアニメの劇場作品で高密度なデザインを提供し続けてきた。この展覧会でも『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『イノセンス』の端正な美術設定やレイアウト、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの浄化プラントなどの美術設定が展示されている。さらに同作の使徒用原案に加え、アイデアノート上の生体とメカニズムが融合したようなスケッチも多く展示され、目をひいた。私物に刻まれた渡部氏の発想の結晶は、筆者も初見で驚かされた。

渡部氏は『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のころから先進のコンセプトを示し、四次元立体が三次元に投影されたときの形状を計算して画にしていたという。それが『新劇場版』での使徒の原案に採用されるなど、次元・空間・生体・機械などを縦横に継ぎ合わせた先進のアイデアを、具体的な「画」に落とし込むことに長けている。そんなクリエイションの秘密の一端が、小さなスケッチからかいま見えたような気がした。
彼もまた日本という風土、あるいは時代性が産み落とした才能である。一見異なるような作品も、渡部氏のような異能のクリエイターが底流をつないでいるという事実の展示には、大きな意味があると感銘をうけた。

このように作品・作家のチョイスと、それをどのように接続して価値を生み出していくか、コンテクスト全体に込められた「意図」こそが「アート」として重要なのだ。
これまであまり語られてこなかった日本製「anime」ならではの特質が、海外からの視線という異化効果で際だち、クリエイター肉筆による制作物が絵画としてのオーラをダイレクトに放ち、雄弁に主張を裏づける。そんな印象の展示会だった。この総合的な印象は、会場の現場で展示の現物に接しないと分からないことでもあった。


/ PART3 世界中で始まったアニメの「文化をめざす潮流」に続く
《animeanime》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集