コミコン2012:電子書籍事情  専門ショップを巻き込んだデジタルコミック配信は離陸するのか? | アニメ!アニメ!

コミコン2012:電子書籍事情  専門ショップを巻き込んだデジタルコミック配信は離陸するのか?

米国でのコミック・マンガのデジタル化はどうなっているのだろうか?その一端が、7月12日から15日までサンディエゴで開催されたコミコン2012に表れていた。デジタルコミックのトレンドを感じさせたのは、「パネル」と呼ばれるトークイベントである。

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コミコン2012の会場から。デジタルのマンガ配信をアピールするVIZ Media
  • コミコン2012の会場から。デジタルのマンガ配信をアピールするVIZ Media
  • コミコン2012の会場から。日本企業ではスクウェア・エニックスも独自のマンガ配信サービスを紹介している。
  • コミコン2012の会場から。ComiXologyブースは展示も少なく、デジタルの楽しさをアピールしきれていない印象。
  • コミコン2012の会場から。ONI Pressのブース、一般的な出版社は従来どおり書籍が全面に並べられてる。
  • Diamond Digitalの発表パネル。来場者はファンというよりも業界関係者、Q&Aで最初に質問をしたのはComiXologyのCEOだった。
  • コミコン2012の会場から。独立系出版社のエリア。こうした風景もやがて変わるのだろうか?
国内ではここ1、2年電子書籍を巡る環境が急速に変化している。読書習慣に及ぼす影響への関心が高まり、ビジネスチャンスとみて多くの企業が市場参入をしている。そうした国内の電子書籍のトレンドを牽引する大きな力がマンガであることは多くの人が認めるところだ。
一方で、出版物のデジタル化のグローバルなトレンドを生み出している米国でのコミック・マンガのデジタル化はどうなっているのだろうか?その一端が、7月12日から15日までサンディエゴのコンベンションセンターで開催されたコミコン2012(コミコンインターナショナル)に表れていた。

コミコン2012(コミコンインターナショナル)は、米国最大のエンタテイメントの祭典として、メディアから大きな注目を浴びる。近年は、新作映画や放送番組の発表、玩具、ゲームのプロモーションも積極的に行われるが、もともとはアメリカンコミックスのファンイベントだ。会場に占めるコミック、出版社の存在感は依然大きい。
ところが最新のデジタルコミック事情を掴むと思って、イベントの中心であるエキビジョンホールを眺めるとやや外される。そこからコミックのデジタル化の波はほとんど感じられないからだ。
実際にデジタル分野に最も熱心に取り組んでいるのは、ブース全体をデンジタルの日本マンガ配信やアニメ動画配信のプロモーションで埋め尽くしたVIZ Mediaだ。米国企業に関しては、依然、リーフと呼ばれるアメコミの薄い定期刊行作品、グラフィックノベルと呼ばれる単行本の展示・販売をしている。デジタルコミックの時代もあまりピンと来ない。

会場で目を惹いたものもある。昨年までは、パネルイベントのみだったComiXologyが今年から大きなブースを設けていた。新たな企業が出展ブースを確保するのが難しいとされているコミコンのエキビジョンホールだけに、コミコンとしてもデジタルコミックの重要性を認識しているのだろう。
ただし、ComiXologyのビジネスは好調とされているが、デジタルコミックの流通プラットフォームをプロモーションするブースは賑わっているとは言えなかった。リアルな場で、デジタルなものを宣伝する難しさを感じさせた。

デジタルコミックのトレンドを感じさせたのは、よりコアなファンが集まる「パネル」と呼ばれるトークイベントである。この中にはVIZ Mediaによるデジタル版少年ジャンプ「Shonen Jump Alpha」をテーマにしたもの、日本マンガのデジタルプラットフォーム「JManga」などもある。
新興出版社Archaiaによる、グラフィックノベルのデジタル版先行発売といった発表もあった。ComiXologyの存在の大きさや勢いも、むしろパネルイベントで感じられる。

デジタルコミック分野のパネルイベントで大きなニュースがあったのは、「iVerse Media:New Frontiers in Digital Comic」だ。iVerse Mediaは、2008年にベンチャー企業として設立されたデジタルコミック販売のプラットフォームCOMICS plusを運営する。電子書籍時代の到来を見越していち早く立ち上げた。ただし、業界第2位となるものの市場シェアはトップのComiXologyの半分以下と差をつけられていると見られる。
そのiVerseが紙媒体のアメリカンコミック流通大手ダイヤモンド・コミック(Diamond Comic Distributors)と手を組み、新たなデジタルコミックの電子書店「Diamond Digital」を立ち上げた。パネルはその発表イベントである。
新サイトは新たに開発されたDigital Comics Readerと呼ばれるアプリ(iOS 、Android)を利用することでコミックをダウンロードして閲覧出来る。また、コミックス専門店のサイトの中でも閲覧可能だ。サービス開始時にはIDWや Image、Top Shelfなどの出版社の 4000冊以上の本が用意された。

iVerseと手を組むダイヤモンドは、コミックス専門店へのアメリカンコミックの流通をほぼ独占している企業である。出版社との協力も強固で、アメコミの作品・ユーザーに関するデータも豊富だ。これまでは一般書店が主要な顧客だったためデジタル分野の取り組みが遅れていたが、ITベンチャーのiVerseの技術を得ることで新市場進出が可能になる。
両社はDiamond Digitalを通じて、デジタルコミック市場トップのComiXologyやより大きな総合サービスを展開するAmazonなどを追うことになる。

企業の組み合わせとしては理想的なDiamond Digitalだが、不安な要素も少なくない。それはダイヤモンドのこれまでの専門書店流通での強さの裏返しでもある。
Diamond Digitalでは、コミックス専門店との連携、協調が強く押し出されているためだ。例えばデジタルでの販売でもあるにも関わらず、利用にはコミックス書店のプロモーションコードの入力が必要だったりする。従来のコミックス専門店のビジネスを奪わないための配慮だ。さらに現状ではマーベルとDCコミックの2大出版社が作品の提供を行っていない。
もちろんコミックス専門店との協力による強みもある。リアルの本プラスアルファの支払いでデジタル版を提供するやりかただ。コレクションアイテムでもあるアメコミだけに、リアルの本は保存し、実際にはデジタルで作品読むという利用も可能だろう。
電子書籍と一般書店がどうした関係を結ぶのか、日本、米国を問わず業界の大きな課題だ。アメリカンコミックという分野であるが、Diamond Digitalの試みはこの点からも注目される。こうした協力が成功すれば、エキビジョンホールでもデジタルコミックの存在がもっと大きくなる日も来るかもしれない。
[数土直志]

Diamond Digital
/https://www.diamonddigital.com/

iVerse Media
/http://iversemedia.com/
COMICS plus
/http://comicspl.us/
Diamond Comic Distributors
/http://www.diamondcomics.com/
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