富野由悠季監督が語る家族と社会 『「ガンダム」の家族論』 | アニメ!アニメ!

富野由悠季監督が語る家族と社会 『「ガンダム」の家族論』

富野由悠季氏が、『「ガンダム」の家族論』を上梓した。富野監督が、『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』など幾つもの傑作アニメを創り出して来たことは広く知られている。

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 今年4月、アニメ監督の富野由悠季氏が、『「ガンダム」の家族論』を上梓した。富野監督が、『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』など幾つもの傑作アニメを創り出して来たことは広く知られている。1972年の『海のトリトン』から2000年代の『リーンの翼』まで、その作品数は多い。
 作品のなかでしばしば重要なテーマとして語られて来たのが、親子関係、そして家族だ。『機動戦士ガンダム』のアムロ、『伝説巨神イデオン』のドバ・アジバとふたりの娘、『聖戦士ダンバイン』のショウ、『Zガンダム』のカミーユ、なかでも富野作品に特徴的なのは親子のすれ違い、対立である。そんな富野監督が、正面から「家族」を語るだけに、興味を持てないわけがない。

 しかし、本書は家族論を語るという体裁を取りながら、実は富野監督による社会論でもある。さらに家族というキーワードを通じて、富野監督が世の中に対して熱いメッーセージを贈る本だ。既に結婚し、子どもいる人も多いガンダム世代に、世の在り方を問う。
 冒頭ではアニメの世界のリアリティをいかに実現するかにふれ、同時にリアリティを失ったマネー経済、ネット社会の虚構(フィクション)に言及する。そこからフィクション化している現実と戦うため、その原点としての「家族とは何か」を語り始める。多くの人が期待する富野節も満載だ。

 本書の語り口は決して押しつけがましいものでなく、その言葉はしばしば自身の代表作から引用される。たとえ富野監督の言葉であっても、人が語るものである以上、読み手にとっては納得出来る部分と納得出来ない部分があるに違いない。
 しかし、その意見の賛同するのかしないか、言葉を超えて伝わって来るのは富野監督が、いかに真摯に社会に向き合ってきたかである。そして、このひたむきさが、『海のトリトン』以来の今日まで監督の作品に反映していることも理解出来るのだ。

 本書が面白いのは、これが富野監督の家族論、社会論であると同時に、さらに作品論の側面を持ち、創作の裏話的なところもあることだ。これまで語られて来なかった作品のアイディアがどこから来たかなど、ファンにとっては醍醐味のある読み物ともなっている。
 富野監督はこれまでにも小説や、エッセイ、実用書、対談集など多くの著作がある。しかし、監督がより大きなテーマを持って自身を語るという点で『「ガンダム」の家族論』特筆べき一冊となった。そして、『ガンダム』をはじめ多くの作品で日本アニメ史に大きな影響を与え続けてきた富野由悠季という大きな存在を知るうえで欠かせない書籍である。
*上記記事は4月10日掲載の本書発売紹介記事を加筆したものです。

  

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