アニメシリーズの後日談!? nonocが歌い上げる、バスケ少女の受験勉強ストーリー【MVメイキングインタビュー】 | アニメ!アニメ!

アニメシリーズの後日談!? nonocが歌い上げる、バスケ少女の受験勉強ストーリー【MVメイキングインタビュー】

「ともに輝く明日のために。」をキャッチコピーに掲げ、未来へ向けて頑張る誰かの力になりたいと北海道電力が制作した北電グループテーマ曲「365日の明日」。

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「ともに輝く明日のために。」をキャッチコピーに掲げ、未来へ向けて頑張る誰かの力になりたいと北海道電力が制作した北電グループテーマ曲「365日の明日」。

コロナ禍の2020年に誕生し、Rihwaさんや島太星さんといった北海道出身のシンガーが歌い継いできた楽曲が、バラード調からアニメソング風へとリニューアル! それに伴い、人気アニメの主題歌を担当するnonocさんに白羽の矢が立ち、ハイクオリティのアニメMVが制作されました。

さらにそのMVは本格的な仕上がりになっていたばかりか、「架空のアニメシリーズの後日談」という設定が加えられて想像の余地のある感動的なストーリーに! 北海道の風景をリアルに描いたのはもちろんのこと、MVだけで終わらせるにはもったいない魅力的なキャラクターなど、企業広告の枠に囚われない自由な発想で話題です。

そんな注目のMVについて、アニメ好きを自負する北電の企画担当者の森田英俊さん、総監督とキャラクター原案を務めた電通広告クリエイターの古澤旅人さん、監督と絵コンテ担当の山元隼一さん、キャラクターデザイン・作画監督・カラリストの橋本治奈さん、美術監督の今村優美さんの5名にお話をうかがいました。


▲上段左より、北海道電力・本企画担当者:森田英俊さん、総監督/キャラクター原案:古澤旅人さん。下段左より、キャラクターデザイン/作画監督/カラリスト:橋本治奈さん、監督/絵コンテ:山元隼一さん、美術監督:今村優美さん。

【プロフィール】

総監督/キャラクター原案:古澤旅人さん
アニメ業界と広告業界のどちらに就職するか悩んだ末、広告業界に。アニメのオープニング・エンディングを収集するのが趣味で特に好きなオープニング映像は『メダロット』『灼熱の卓球娘』『ワンパンマン』とのこと。

監督/絵コンテ:山元隼一さん
個人でもアニメ制作ができることを知って創作の道へ。自主制作作品が映画祭などに招待されるようになり、やがて実写ドラマのアニメパートやアニメCGを手掛けるようになる。

キャラクターデザイン/作画監督/カラリスト:橋本治奈さん
絵で食べていく将来を考えていた時に『攻殻機動隊』と出逢う。そのメイキング映像にアニメスタジオが映っていたことから「アニメスタジオに就職したら絵で食べていけるのかな」と考え、専門学校からアニメーターをめざした。

美術監督:今村優美さん
もともとは絵画を勉強していたが、美術学科に通ううちに絵の仕事をしたいと考えるように。キャラクターは描けないものの、背景や風景画なら自分にもできると思い、思いきってアニメ業界に飛び込んだ。

北海道電力・本企画担当者:森田英俊さん
中学生の頃に放送されていた『新世紀エヴァンゲリオン』に興味を持つものの、地元ではテレビ東京系列が放送されておらず新聞のテレビ欄を呪ったほどのアニメ好き。本企画ではMVのメッセージ性や記憶に残る「作品」としての魅力に着目して企画を立案した。

▲ほくでんグループテーマ楽曲「365日の明日」オリジナルアニメMV feat.nonoc

NG表現は「〇〇の長さ」


――今回制作されたMVは北海道電力さんのオリジナルソングを映像化したものです。ドラマ性が高く、使い古されてヨレヨレになった参考書が個人的に印象的でした。

橋本治奈(以下、橋本) アニメ制作の現場では、参考書の表紙やポスターを後から貼ることが多く、たとえばテレビアニメだと貼りやすくするためにヨレやシワがない状態で描くことが多いんです。でもあのカットは「使い込んだ感」を表現したかったのでしっかりと書き込みました。

あと個人的に、参考書と一緒に置かれた赤いボールペンがお気に入りポイントです。MVの最初では新品同然ですが、最後はインクがなくなった状態で参考書のそばに添えられているんです。

山元隼一(以下、山元) 時間経過を表現するとともに、その間の努力を描写するカットですね。あのカットがなかったら、急に勉強ができるようになったキャラクターに見えてしまい感情移入できなくなってしまいます。そこを橋本さんには素敵に描いていただきました。


▲受験勉強の跡がうかがえる参考書と赤いボールペン。

――そもそも今回のMVはどのような経緯で企画されたのですか?

森田英俊(以下、森田) 「北海道電力グループ」の企業広告として企画されたものです。北電グループテーマ曲の「365日の明日」に弊社が込めた「北海道のためにありたい」という想いをどう伝えていこうかと考えた時にアニメMVがいいのではないかと思い、最初からアニメMVとして企画立案しました。

――楽曲の歌唱を担当されたのが、北海道出身のアーティスト「nonoc(ノノック)」さんなんですよね。

森田 そうなんです。北海道出身は、当社にとって外せない条件です。nonocさんの魅力は、単に歌が上手いだけじゃなく、アニメの世界観を歌で表現する上手さが凄いと思っていましたので、迷うことなくお願いしました。

「365日の明日」は当初、北海道の雄大な自然や原風景を感じさせるバラード調で作ったのですが、ちょうど1年前、もっと若い人向けにアップデートするにはどうしたら良いか考え、Z世代とマッチしやすいアニソンにアレンジすることに決めました。その際、同時に制作することが決定したMVもアニメMVにしようと。

アニソンをイメージした曲調もMVも、当社の広告としては大冒険でしたね。



――そのバトンを古澤さんが受け取って作品全体のイメージやキャラクターの原案を作り、山元さんのチームがアニメ映像に仕上げるわけですね。

古澤旅人(以下、古澤) そうですね。僕が企画に加わった段階では、あとはnonocさんの歌収録をするだけという状態の楽曲がありました。ですからまず歌入れ前の楽曲と森田さんがイメージするストーリーや世界観をうかがい、そこから要素を膨らませて全体の世界観やキャラクターを構築しました。

完成版の楽曲をいただいてから手直しした部分もありますが、アニメ制作の実作業に入る段階で必要となる全体のイメージ、キャラクター設定、やるべき要素やテーマはすべてこちらで整えた形です。



山元 はじめにお話をいただいた時は、単純に北電さんのCMなのかなと思っていたんですよ。ところがMVという攻めた企画で正直驚きました(笑)。

古澤・森田 (笑)。

山元 結果的には「電力が暮らしを守る」というテーマを、短い映像の中にうまく落とし込めたのではないでしょうか。広告としての役割もしっかりと果たしていますし、メッセージ性のある作品になったと思います。

必要なことはすべて古澤監督がまとめてくださっていたので、自分はそれをどうアニメーションにするかという部分に専念できたと思います。



――キャラクターデザインに関し、橋本さんはどのような部分を大切にしましたか?

橋本 好きな食べ物や性格など、熱量の高いキャラクター原案書をいただいていましたから、それをそのままヴィジュアルに反映させました。それと今回の企画は「架空のアニメシリーズの後日談」という裏テーマがあったんですよ。

――「架空のアニメシリーズの後日談」ですか?

橋本 はい。一見、受験生の日常を描いた映像ですが、「架空のアニメシリーズの後日談」という設定を与えることで想像の余地を作ろうと。ですからキャラクターデザインもキャラクター同士の関係性や個性を想像してもらえるような方向でまとめました。



古澤 素敵なキャラクターに仕上げていただきましたね、僕がこのプロジェクトに関わっていなかったとしても絶対に視聴したと思えるクオリティーでした。本当に素晴らしかったです。

自分の思い描いたキャラクターをプロのアニメーターさんが形にしてくれたのにも感動しましたが、こちらで要望した要素がすべて入っているだけでなく、僕の知らない、おそらく橋本さんのアイデアや熱い想いも込められている、想像を越えるものにしていただきました。

――特に感激したポイントは?

古澤 実際にオンエアされたアニメのキャラクターだと錯覚させるような本格的なところです。具体的なところだと、目じりのまつ毛のグラデーションが好きですね。


▲受験勉強中に甦るバスケ部の思い出。この思い出が明日架を支えます。

――個人的には髪のハイライトが色トレスになっていて、ひと手間かけたのかなという印象がありました。

橋本 まつ毛については、キャラクター設定に「目力を強く」とあったのでグラデーション処理をしてみました。髪の色トレスもそうですが、実は工数的にはそれほど多くないんですよ。複雑に見えるけれど実は作業カロリーが高くない、原画さんの技量に依存しないデザインを意識しました。

――その効果があって「実在するアニメ作品感」がうまく表現されていたのですね。またMVは北海道を舞台にしているということで、個人的にはロケーションも重要な要素だと感じました。特に友人と受験勉強するシーンの背景が木々しかなく、「これぞイメージの中にある北海道のひとつだ!」と。

今村優美(以下、今村) ロケハン写真をたくさんいただいていたので、作業はすごくやりやすかったですね。実際にある風景を描くことで、アニメではありつつもリアリティーや生活感が感じられる背景にしたいと思いました。

私は佐賀県出身なのですが、佐賀だと雪がほとんど降らないんです。ですから昔から北海道に憧れがあり、今回のお仕事はすごく楽しかったですね。



森田 我々のお客さまは北海道のみなさまなので、北海道の風景は欠かせない要素です。先ほど例に出た、受験勉強をしながら歩く森のシーンは、私の地元の隣町がモデルです。こちらはどのロケハン写真が使われるか知らなかったので、はじめてそのシーンを観た時、登場した景色がめちゃめちゃ見覚えあるもので懐かしかったですね。

冒頭に登場する高校の玄関のシーンも、モデルにした学校の出身という社員に見せたらもの凄く感動していましたよ。


▲大自然の中を歩く明日架たち。どんな時でも参考書は手放せません。

――意外と観光地のような有名なロケーションは登場していないんですよね。それなのに北海道を感じられるのが凄いと思いました。

森田 言われてみればそうですね。個人的には夕焼けぐあいとか、雪虫が舞う下校風景が大好きなんですけど、そういった北海道の人だと「あー!」と思っていただける雰囲気がうまく表現されていますよね。

山元 夕陽の光ひとつをとっても、記憶を刺激するような見せ方ができますし、ノスタルジーを感じさせる表現もできます。そういった演出もやってみたいと思っていましたから、今お話をうかがう限り、どうやらうまく機能していたみたいでホッとしました。


▲雪虫が舞う下校風景。

古澤 北海道というロケーションをどう描くかは悩みどころでしたよね。僕も神奈川出身なので、北海道の人に話を聞いたり記事を調べたりして、想像で描く部分が多かったと思います。

実際、ひと言で「道が広い」と言ってもどれくらい広いか分かりませんし、木の生え方も東京にいては分からない雰囲気があります。体育館に置かれた暖房器具もカルチャーショックでした。

今村 ロケハン写真があるとは言え、それをそのまま書き写すわけにはいきませんよね。山元監督や北電さんに確認を取り、ひとつひとつ意味などを理解しながら作業を進めました。

中でももっとも驚いたのは「セントラルヒーティング」という暖房設備です。当初、室内の暖房器具はエアコンで考えていましたが、北海道ではセントラルヒーティングが一般的だと教えていただき驚きました。

森田 セントラルヒーティングは寒冷地でよく使われるシステムで、温水を家中で循環させるんです。その温水が放熱パネルを通過する時に熱を発して部屋を暖めてくれるんですよ。北海道の新築住宅で普及しています。


▲窓下に置かれたセントラルヒーティングの機器が登場するシーン。右側の光は、カーテンから差し込む月明かりが印象的になるように描いた。

――今回のMVは地に足がついた映像になっているというか、映画の予告編でありがちな、号泣するようなシーンもないんですよ。それなのにあれだけのドラマ性が表現できるところが個人的に好きなポイントでした。

山元 リアルな舞台を使っていることもそうですが、今回はなるべくアニメ的な記号を排除して作りましたね。

橋本 楽曲と映像がうまくマッチできましたよね。正直、私感動して少し泣いてしまいました(笑)。母も「なんか途中から涙出ちゃって」って。それで「わかるわかる!」と。

今村 普段担当させていただいているアニメシリーズとは違うMVのお仕事と聞いてどんな映像に仕上がるんだろうと思っていましたが、ダイナミックで、北電さんの温かな光に見守られた高校生がすごく印象的な映像に仕上がっていました。

森田 思えばやるぞと決めて、ちょうど1年で完成した映像です。感慨深かったですね。アニメ制作の現場に関する本やアニメを見ていたので、「今はこの段階かな?この作業かな?大変だろうな」と想像してワクワクしていました。

山元 森田さんには現場に寄り添っていただき、「一緒に作ろう!」という意気込みで足並みをそろえてくれましたから、こちらとしてもやりやすかったです。

古澤 別の畑の人間同士が仕事をするというのは難しいですよね。キャラクターをひとり生み出すにしても、こちらの感覚で原案を作りすぎてしまうと橋本さんに制限をかけることになりかねません。そこのバランスが難しかったです。

ノウハウが体系化され、お互いの良さが最大限発揮されるやり方が構築されれば、今後もっといいものが世に出てくるのかなと思います。


▲LINEのやり取りがドラマ性を高める演出に。

――森田さんは広告主の立場であり大のアニメファンということで、もっとも板挟みになりそうな立場ですね。

森田 そうですね。企業広告とアニメ表現のバランスをどう取っていくかは最後の最後まで悩んだところです。

特に今回はキャラクターの目じりがグラデーション処理になっています。一見すると強めの化粧にも見えますし、片やアニメでよくある表現というわけでもないので、これを企業広告としてどう解釈するか悩みました。

ただ、山元監督と橋本さんが「既存の常識に捉われない表現にチャレンジしたい」と強い意図を持ってこの企画に向き合っていただいたと知り、私自身胸を打たれ、当初案のままでいくことにしました。

古澤 個人的に悩んだのはスカートの丈の長さですね。

――あー……。

古澤 ですから板挟みになる森田さんのお気持ちは痛いほどよくわかります。

森田 そこは上司からも「特に注意してくれ」と。ですからミリ単位でどうしようか……と、キャラデザ資料に定規を当てながら悩みました。

山元 誰もが嫌な気分にならないよう偏りをなくすのも大事ですが、表現は偏りがあるからおもしろいとも言えます。

目じりはあえて攻めた部分ですが、攻めるところは攻めないと味気ないものになってしまうので、映像をご覧になった皆さんが好きと思ってもらえるような尖り方を模索しました。そこは橋本さんや今村さんに上品な映像に仕上げてもらったから成立した部分もあるのかなと思います。


▲模試は思うような成績ではなかったものの、明日架は友人に励まされやる気を取り戻します。

――周囲の反応はいかがでしたか?

古澤 僕が関わっていると知らないアニメ好きの友人から「こんなのが公開されてるけど見た?」と連絡が来ましたよ。その友人はすでに存在するキャラクターだと思っていたみたいで、狙い通りにできたんだなと実感しました。

――続編があればやってみたいことはありますか?

古澤 やはりキャラクターたちをしゃべらせたいですね。

山元 設定的には続編も前日譚もできる余地があります。今回は受験という青春にひとつ区切りついた状態なので、バスケに焦点を当てる作り方もありますよね。あとは大学では4人バラバラになってしまうのか、それともまた集まってバスケをするのか、そこもおもしろいですし色々とやれると思います。

――北電さんとしては続編の余地は?

森田 個人的には劇場短編くらいはやりたいですよね(笑)。キャストを考えるだけで毎日が楽しいです。私の中では内定しています(笑)。

――それでは最後にメッセージをお願いします。

橋本 今回は新人を含め、作画スタッフがすごくがんばってくれたことをまずお伝えしたいと思います。仕上げさんや色指定さんも何度も打ち合わせに付き合っていただき、細かく対応してくれました。ですからみんなの作品愛が詰まったMVになっています。ぜひ何度も見返してみてください!

今村 昔から北海道に憧れがあったので、今回大好きな北海道を舞台にしたMVのお仕事をさせていただいて嬉しかったです。年明けには旅行に行くつもりです!

私自身、作品を観ながら自分自身の大学受験のことを思い出していました。当時はひとりでがんばっているつもりでしたが、私にも明日架ちゃんみたいな家族や友達がいて、みんなに支えられていたんだなと改めて気づかされました。

はじめての美術監督がこの作品で良かったなと感謝しています、ありがとうございました。

山元 MVには「最後まであきらめない」というメッセージも込められています。
明日の行方を誰もが悩んでいる中、努力し、できなかったことができるようになる、その楽しさが伝えられればと思いました。

その前進する楽しみがまさに「明日」であり、そういったメッセージを公共の場で伝えられる機会をいただけたのは嬉しかったですね。「がんばろう」と思っていただけたなら本望です。

森田 明日架たちと同じ10代はもちろんのこと、そこから少し大人になった人も、MVを見て「自分もこういう気持ちでがんばっていたな」と思ってもらえたら嬉しいです。たくさん見ていただければ続編もあり得るかなと思うので、ぜひお願いします。

古澤 実写の広告を手がけることが多いのですが、アニメにはアニメの良さがあると思っています。僕を含め、「商品を買うならアニメキャラが宣伝しているものだよね」というカジュアルな層も増えていると思いますから、そういった皆さんにお届けできるような、「ならでは」の表現としてのアニメ広告が今後増えていって欲しいです。

今回特に自由にさせていただいたところが多くありますので、その体験談がアニメ広告業界史の一助になると嬉しいです。



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《気賀沢昌志》
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