10月30日から11月3日、静岡文化芸術大学にて文化庁メディア芸術祭浜松展が行われた。第12回文化庁メディア芸術祭で、岩井俊雄氏とヤマハが共同開発した「TENORI-ON」がエンターテインメント部門の大賞となった。今回、浜松がヤマハのお膝元でもあることにちなんで「音」をテーマとして実施された。 その最終日11月3日には、シンポジウム「音楽がアニメーションをどう変えるか Animation Metamorphoses」が開催された。このシンポジウムも「音」というテーマに準じている。 当日は、作曲家の菅野よう子氏が『カウボーイビバップ』などの監督・渡辺信一郎氏、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』などの監督・神山健治氏を招くというスタイルで、脚本家の佐藤大氏が司会進行を務めた。今まであったようでなかったこの珍しい組み合わせもあって事前申し込みが殺到し、会場は当選者で満席となった。 佐藤氏がシンポジウムの経緯を説明した後、まず渡辺氏と神山氏が登場した。佐藤氏は2人に菅野氏と最初にあった時の印象とその後の印象について訊ねた。 渡辺氏は『カウボーイビバップ』の前、『マクロスプラス』で菅野氏と出会っている。菅野氏のキャラクターのため、「自称作曲家とか言ってるけど本当に曲を作れるのか」などとスタッフ間で訝っていたという。しかし、「出来上がった曲を聞いて、人を見かけで判断してはならないと思い知った」。 逆に神山氏は菅野氏が著名になってから会った。『攻殻機動隊S.A.C』の時にプロデューサーに頼みに行けと言われた際に、とても緊張していたという。「(自分が)頼りなく見えたので、可哀相に思ってやってくれたらしい」。 それから満を持して菅野氏が現れた。自己紹介として自身のこれまでのサントラをメドレーで奏でて見せた。そして佐藤氏が菅野氏からトークじゃない方がいいと事前に申し出があったことに触れると、「その時々に映像にどういう感覚で音楽をつけてるのかを生で体験しよう、自分達のやってる仕事を同じように皆さんに体験してほしい」と菅野氏は答えた。 サンプルとして使われたのは、『攻殻機動隊S.A.C』や『カウボーイビバップ』のワンシーンだ。最近のヒット曲や時代劇、菅野氏の即興演奏などをあてた映像で会場が沸いた。 菅野氏が今回トークの2人を選んだのは、以前に関わった作品が誇りに思えることを理由とした。渡辺氏が音楽に詳しくて演出もグルーブしている。一方、神山氏は言葉である程度のことが説明出来て、映像もしっかりしているという対比でもある。 神山氏は「セリフに脳味噌が支配されている」と自己分析している。そのため『攻殻機動隊S.A.C』の制作途中まで、絵コンテの段階で音楽が意識されることが全くなかったと述べた。一方、現在手掛けている『東のエデン』に関しては、音楽が最初からイメージされており、最終回のラストシーンの曲を最初に発注出来たそうだ。 渡辺氏は神山氏とは対称的に、曲をかけながら作業しているくらいであるそうだ。「あまりに最初から決めつけちゃうと、あとからそれに縛られちゃう」との談に、神山氏は「編集と音が連動していると感じる。編集まではあまり決まらない。編集で切ってると見えてくる」と応じた。 そうした2人からのオーダーに菅野氏がどう対処するのかにも話が及ぶと、菅野氏が「同じような曲でも神山さんにはちょっと“ささくれ”。渡辺さんには”やさぐれ”」だと語った。 作品を見るというよりも監督自身を見ていることに両氏は面食らっていた様子だった。神山氏の“ささくれ”について菅野氏も渡辺氏も、いい意味で青臭いとこが羨ましいと褒め、中年のささくれではなく19歳のそれだと補足した。「自分でも真面目すぎるとは思う」という神山氏に、渡辺氏は「青臭いままでいてほしい」と返した。 菅野氏は質疑応答の前にこう締めくくった。それは音楽をふざけて何でも当ててみるというよりも、意外にちゃんとした可能性があるということでもある。「正解のない中で表現をしていく可能性がこんなにあるんだと感じて頂ければ」。【真狩祐志】文化庁メディア芸術プラザ /http://plaza.bunka.go.jp/festival/当サイトの関連記事/菅野よう子、渡辺信一郎、神山健治、佐藤大 浜松でシンポジウム
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