次世代ディスクの普及と北米アニメDVDの今後 | アニメ!アニメ!

次世代ディスクの普及と北米アニメDVDの今後

【日米で大きく違うアニメDVDの価格】
 日本のアニメDVDの販売価格は、しばしばオタクプライスと呼ばれることがあるように、実写映画やテレビドラマなどに較べてかなり高めに設定されることが多い。こうした価格設定はアニメ制作にかかる高い費用とその製作費の回収

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【日米で大きく違うアニメDVDの価格】
 日本のアニメDVDの販売価格は、しばしばオタクプライスと呼ばれることがあるように、実写映画やテレビドラマなどに較べてかなり高めに設定されることが多い。こうした価格設定はアニメ制作にかかる高い費用とその製作費の回収がほとんどDVDのみに依存しているアニメ作品特有の状況のためである。
 ところが一般的にはあまり知られていないが、同じアニメ作品のDVDがアメリカではかなり安く売られている。割引価格で1クール(13話)セットで4000円程度、2クール(26話)で8000円程度の作品は一般的に存在する。

 アニメの制作は、もともと制作資金がかかるものである。日本のマニア向けのDVDは非常におおまかな数字だが1話1500万円ぐらいの制作費がかかり、さらにテレビ放映をするために数百万円の費用をテレビ局に支払っている。
 この費用をDVDの販売で回収し、さらに利益を得るためには何枚のDVDを売り、いくらの価格設定が必要か考えなえればいけない。そうすると現在の日本のアニメDVD価格は、消費者の感覚では明らかに高いが、それでも製作者にとってはギリギリかそれ以下のことも多い。

 それがなぜアメリカでは低価格が実現出来るかと言えば、アメリカのアニメ流通会社が負担するコストが製作費でなくライセンス料と吹替え費用、パッケージ費用だけだからである。実際にアメリカ版のアニメDVDは、日本のアニメDVDに較べて原価が数分の一になっており、市場規模と市場にリリースされるタイトル数の比率を考えると本来は日本よりも恵まれたビジネス環境にある。
 アメリカのファンにとってありがたい日米のDVDの価格差は、アニメが自国で生産しない輸入品という特殊性に支えられている。
 しかしたとえ小売単価が安くても、日本の製作者にとってアメリカでの売上は追加収入としてありがたいものであった。これまでは、日本の製作者にとってもこれは都合の悪いものではなかった。

【次世代ディスクのリージョンが選択を迫っている】
 しかし、こうした極端に高い日本の価格と極端に安いアメリカとの価格という両国にとって都合のいい状態は現在崩れようとしている。
 理由のひとつは次世代ディスクの登場だ。そして、もうひとつは急激に進んだアニメDVDの価格下落に、一部のアメリカの流通会社が耐えられなくなってきていることである。

 これまで太平洋を挟んだ異なるマーケットの価格差は、DVDが再生出来る地域を制御するリージョンコードで守られてきた。つまり、通常は日本のDVDはアメリカで見れないし、アメリカのDVDも日本で見れない。
 しかし、ブルーレイやHD DVDといった次世代ディスクでは、この地域が統合され相互のディスクが何の細工もなし視聴可能になる。ここでアニメ製作者が心配するのは、アメリカ版の日本への逆輸入だ。
 現在のアメリカ版DVDは、価格が日本に較べて安いだけでなく日本語の収録もあり、その字幕を消すことも出来る。

 だからリージョンが統一されると日本からアメリカ版を買う人が増え、日本の次世代ディスクの売上が大きく減少する可能性が高い。おそらく他のジャンルに較べて、アメリカのアニメで次世代ディスク普及が遅れている理由はここにある。
 しかし、技術の世代交代は確実に進む。先送りは出来ない。そうした時に日米の企業が取れる選択肢は、次の4つのどれかだろう。

(1) 日本の販売価格を下げる
(2) アメリカの販売価格を上げる
(3) アメリカでは吹替え版のみを販売する
(4) アメリカでは販売しない

【値段を上げるのも下げるも難しい?】
 (1)は、事実上不可能である。日本のファンにとってはありがたい選択だが、日本国内のDVDビジネスは現在の価格でも採算性がギリギリなものが多い。もし価格をアメリカ並に下げれば、ほとんどのアニメは採算が取れず製作中止に追い込まれる。
 (2)も厳しい選択である。現在の安いアニメDVDの価格に慣れたアメリカのファンが、日本並みの価格で大量に次世代ディスクを買うと考えるのは現段階では難しい。

 そうすると現実的な選択はアメリカ版には日本語の収録はなく、英語吹替え版のみがあるという(3)である。これも多くのアメリカのファンの反発を買うだろうが、日本の製作側にとってはベストでないがベターである。
 アメリカの流通会社にとっても、大衆的なファンには吹替えはアピールするし、既に字幕のついたものが多数存在するファンサブとの差別化も出来る。

 そして、アメリカのファンにとって最も辛いケースは、多くの作品でアメリカ版が発売されない(4)のケースだ。
 つまり、既に多くのアニメタイトルがアメリカで採算が取れなくなっているのであれば、日本市場への逆流の危険を冒してまでアメリカ版を販売する必要はないとの考えが増える可能性がある。

 それでも、英語圏の巨大な市場を捨てるわけにはいかないので、日本の次世代ディスクに英語版(字幕あるいは吹替えも)を同時に収録する。大容量の次世代ディスクは、それを可能にする。
 それを並行輸出のかたちでアメリカに流通させる。アメリカの流通会社にとってはこれではライセンスを得られず、自分たちで発売出来ないのであまりうれしくないだろう。
 しかし、日本のパッケージ企業にとっては、小売価格の上昇で売上枚数が減っても、数%のライセス収入でなく、利幅の大きい販売収入になるので利益率はあがる。選択肢のなかに入って来る可能性は高い。

【それでも価格の見直しは必要】
 そしてもし、(3)の方式が取られたとしても、現在のアメリカの映像パッケージ価格は今後見直しが必要となってくる可能性が高い。多くのアメリカのアニメファンが当然、あるいは高いとさえ感じているアニメDVDの価格だが、日本の価格の比較から離れても、現在は企業の収益を考えると採算に合わないぐらいのレベルまで安くなっているからだ。
 実際に、北米のなかで『HELLSING』などのキラータイトルを持ち、販売は好調だったGeneon USAの例がある。Geneonの判断にはいろいろな背景があるはずだが、業務の縮小ではなく撤退という選択を取ったのは、売上の少ないタイトルを切り、人気タイトルだけを残しても採算が取れないとの判断もあったはずだ。
 現在の価格で採算が取れるのは、『ドラゴンボール』や『ポケモン』、『NARUTO』などの一部の誰でも知っている人気作品だけと見られる。

 アメリカの流通会社の採算が苦しい理由は原価との価格の差のほかに、ウォルマートやベストバイのような大手小売店が、アニメを扱う中小の流通会社に対して厳しい取引条件を求めて来ることにも理由がある。
 本来はこの流通構造自体が変わり、現在の価格で、流通会社に利益が入るようになれば理想的である。しかしこうした大手小売店のバイイングパワーを、短期間に変えることは難しい。実際には、ここで挙げたアメリカのファンにとってはあまりうれしくない未来のほうが実現の可能性は高い。
[数土直志]
《animeanime》
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