大人こそ共感できる「ダイの大冒険」の悪役ハドラーの魅力…中間管理職の悲哀、絶望から這い上がる精神 | アニメ!アニメ!

大人こそ共感できる「ダイの大冒険」の悪役ハドラーの魅力…中間管理職の悲哀、絶望から這い上がる精神

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第5弾は、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』よりハドラーの魅力に迫ります。

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『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』』連載当時のカラーカット (C)三条陸、稲田浩司/集英社 (C)SQUARE ENIX CO., LTD.
  • 『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』』連載当時のカラーカット (C)三条陸、稲田浩司/集英社 (C)SQUARE ENIX CO., LTD.
  • 『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』キービジュアル(C)三条陸、稲田浩司/集英社・ダイの大冒険製作委員会・テレビ東京 (C)SQUARE ENIX CO., LTD.
    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第5弾は、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』よりハドラーの魅力に迫ります。


『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』は、魅力的な悪役の宝庫だ。

なかでも、魔王軍の実質的な司令官、
ハドラーは特筆すべき存在だ。なぜなら、ハドラーは悪役でありながら、主人公のダイや相棒のポップのように、紆余曲折の果てに大きく成長するキャラクターだからだ。

物語初期でハドラーは、正統派の悪役として描かれる。残忍な性格で人間を見下しており、時には部下を盾として身代わりに使うなどの冷酷さを持っている。

『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』キービジュアル(C)三条陸、稲田浩司/集英社・ダイの大冒険製作委員会・テレビ東京 (C)SQUARE ENIX CO., LTD.
しかし、いざ戦いになると、案外正々堂々と真っ向勝負を挑んでくる。かつて、そのハドラーを倒した勇者アバンもハドラーのことを「戦士としての誇りがあり、最低限の戦いのルールは遵守していた」と武人として高く評価をしている。
実際に、ハドラーが復讐のためにアバンを倒しに行く時、たった一人で乗り込んでいく気概を持ち合わせていたのだ。

かつて魔王としてトップに君臨していたハドラーは、アバンに敗れたところを大魔王バーンに救われ、バーンが組織する新しい魔王軍で「魔軍司令」という地位を得る。まるで、中小企業の社長が大企業に買収され、中間管理職になったかのようだ。
しかし、ハドラーは次第にこの地位を守ることばかり考えるようになってしまう。

自分がトップだった時と、中間管理職になった時の気苦労は全く異なる。バーンの顔色は常に伺わないといけないし、部下を束ねるのも一苦労である。
しかも、バーンが集めた部下たちは個性も実力も兼ね備えた強者ぞろいで、いつ魔軍司令の地位が奪われるのかわからないといった状況に置かれている。

バーンにはお気に入りの部下もいて、ハドラーを飛び越して直接命令を下したりもする。こういうとき、中間管理職としては自分が外されたと感じるものだ。
さらに、配下にはハドラーに匹敵、もしくはそれ以上とも言われている実力者もいる。

そんなストレスのたまりやすい状況の中、ハドラーは次第に勇猛さを失い、地位を守るためなら手段を問わない卑怯な男になっていく。
挙句の果てには、大事な情報を報告せずに隠し、それがバレたら、自分の失敗がうやむやになることを望んで「こうなったらダイたちが奴を倒してくれるのを願うしかない」などと考えてしまうようになる。

そうして、失敗続きのハドラーは魔王軍での地位も危うくなり、絶望の淵に立たされるのだが、そこから奇跡の逆転劇を開始する。

ハドラーは、全てを投げうって全力で戦うダイたちに追いつくために、意地もプライドも捨ててパワーアップすることを選ぶ。
そこから、ハドラーはかつての正々堂々とした武人らしさを取り戻し、さらには部下を信頼し、厚い温情もかけられる理想の上司に成長してゆくのだ。

中間管理職のプレッシャーや、その地位を守ろうとする悲哀などは、30年前の連載当時に子どもだった読者には、その苦しさが理解しきれなかったかもしれない。
しかし、大人になった今なら、ハドラーの置かれた状況が、どれだけ胃が痛くなるものだったかわかるだろう。
そして、そんな苦しい状況で一度は腐りかけながらも、きちんと反省し這い上がるのが、ハドラーという悪役の素晴らしいところだ。

大人になると、素直に反省することも、一度曲がってしまった性根を直すことも難しくなってしまう。
しかし、ハドラーを見ていると、「自分ももう一度やり直せるかな」なんて思えてくる。

連載当時の読者には、大人になった今だからこそ、10月から放送開始の新アニメではハドラーに注目してほしい。きっと、身につまされるはずだ。

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《杉本穂高》
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