ウテナ、ガンバ、カリ城…アニメ美術のレジェンド・小林七郎が伝える“絵の本質” 「カメラのレンズじゃない、心の眼で描け!」【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

ウテナ、ガンバ、カリ城…アニメ美術のレジェンド・小林七郎が伝える“絵の本質” 「カメラのレンズじゃない、心の眼で描け!」【インタビュー】

『ガンバの冒険』『ルパン三世 カリオストロの城』『少女革命ウテナ』など、数々のアニメ作品の背景美術を手がけ、独自の世界を創り上げてきた小林七郎氏。アニメ美術のパイオニアである小林氏に、書籍「アニメ美術から学ぶ《絵の心》」をベースにお話をうかがった。

インタビュー
注目記事
ウテナ、ガンバ、カリ城…アニメ美術のレジェンド・小林七郎が伝える“絵の本質” 「カメラのレンズじゃない、心の眼で描け!」【インタビュー】
  • ウテナ、ガンバ、カリ城…アニメ美術のレジェンド・小林七郎が伝える“絵の本質” 「カメラのレンズじゃない、心の眼で描け!」【インタビュー】
  • 『ガンバの冒険』(C)斎藤惇夫/岩波書店・TMS
  • 『ガンバの冒険』(C)斎藤惇夫/岩波書店・TMS
  • 『あしたのジョー2』(C)高森朝雄・ちばてつや/講談社・TMS
  • 『少女革命ウテナ』(C)1999 少女革命ウテナ製作委員会
  • 『赤いろうそくと人魚』
  • 『赤いろうそくと人魚』
  • 小林七郎氏
『ガンバの冒険』『ルパン三世 カリオストロの城』『少女革命ウテナ』『のだめカンタービレ』など、数々のアニメ作品の背景美術を手がけ、独自の世界を創り上げてきた小林七郎氏。

光と陰のコントラスト、凜とした空気。宮崎駿、出崎統、押井守、幾原邦彦など名だたる監督が小林氏の美術に惚れ込んだ。また氏が経営する小林プロダクションは、男鹿和雄氏(『となりのトトロ』『この世界の片隅に』)など優れた美術監督も多数輩出している。

まさに日本のアニメ美術のパイオニアである小林氏に、出版された書籍「アニメ美術から学ぶ《絵の心》」(玄光社)をベースにお話をうかがった。
[取材・構成=渡辺由美子]

■荒さや激しさを歓迎した出崎統監督


――小林七郎さんの美術は、現在も多くの観客を魅了し、後年のクリエイターにも大きな影響を与えています。アニメの背景美術を手がけることになった経緯をお聞かせ下さい。

小林:アニメの仕事を長くできたのは、私の作風や特徴を活かす出会いが大きかったと思います。最初は東映動画に入社したんだけど、残念ながらカラーが合いませんでした。
自分とはやり方が違うな、長くは関われないだろうなと思っていた時に、たまたま『巨人の星』が始まって、Aプロダクションで新しい体制が求められたときには、まずそこへ飛び込むと。そこで良い出会いがあったんですね。

――当時、ご自身のカラーをどのように認識していらっしゃいましたか。

小林:私は個人で作るような、“絵本”の世界のような作品がやりたかったんです。
アニメでも「絵は作品ごとに違って当たり前だ」という思いがありました。けれども、アニメには「枚数を重ねる」という宿命があり、量産を目指す会社では、どの作品も同じやり方で作る方向にならざるを得ませんでした。
誰がやっても均一な絵に仕上げるというのは、私の目指すものではなかったんです。

広告の後にも続きます
――『巨人の星』が放送された1968年頃は、『鉄腕アトム』(63年)から始まったTVアニメがお茶の間で人気になり、アニメの本数も一気に増えた時期だったと思います。『巨人の星』の現場はどのようなものでしたか。

小林:作品ごとにユニークな世界観やスタイルを求めるという気風がありました。もちろんオリジナルな厳しさと向かい合うことになりましたが、みんなで、この作品はどんな世界でどんなスタイルにしようかというところから話し合い、まったくの新人も取り込んで社員として入れて、ゼロからたたき直すところからやっていました。結果的に人が育ったんです。

――個人の個性を発揮できる現場に出会ったわけですね。

小林:スタッフが持つ個性を特に歓迎したのが出崎統さんです。「誰も見たこともない映像を作ろう!」と意気投合して、かつてなかった手法をやろうと。出崎監督は私の表現を求めてくれて、冒険的な実験も許容してくれたんです。

――小林さんと言えば、出崎統監督とコンビを組んだ名作が数多くありますね。『ガンバの冒険』、『元祖天才バカボン』、『家なき子』、『宝島』、『劇場版 エースをねらえ!』『あしたのジョー2』……。出崎監督は、小林さんにどんな表現を求めていましたか。

小林:当時の私の作風は、やや未完成で荒っぽさがあるというものでした。出崎さんはまず、「激しさや荒さを大事にしろ」と。自分の気持ちを抑えて小手先の丁寧さで描いて安心するのではなくて、激しさでもって描き飛ばす。
そうすると、描き手としては、描いていない部分があることで不安が残るじゃないですか。でも、「不安な思いが出ていればそっちでいいんだ」と。

――おお! 出崎監督のディレクションは、不安な思いまで含めて表現であるということだったんですね。

小林:そう。私のやり方は、普通好かれないんですが、彼からノーと言われた記憶はないですね。
出崎さんやスタッフには、それぞれの個性と世界観を引き出してお互い共有しようという目線があり、皆がそれぞれに新しい実験なり発見なりをして作品に反映しようとする。作品を通した競争と認め合いの両方がありました。

――たとえば、『ガンバの冒険』は、どのような方針で制作されましたか。

小林:ガンバというネズミの、「小動物から見た世界」は、人間の見た目と彼らの見た世界は違うはずだと。ネズミから見たら全てが荒々しくて、激しくて、巨大で、そして怖れと驚きの対象であるはずだ……と。ネズミの気持ちになろうとするわけですよ(笑)。

――ノロイも、ネズミから見た怖さを描かれたんですね。

『ガンバの冒険』(C)斎藤惇夫/岩波書店・TMS
『ガンバの冒険』(C)斎藤惇夫/岩波書店・TMS
小林:そうですね。この絵は、キャラクターデザインの椛島義夫さんの原画を私なりにアレンジしました。
たとえばノロイの目を曲線から直線にして恐怖を増したりもしています。ネズミの目から見たらイタチのノロイは、巨大で強烈な存在感がある。

『ガンバの冒険』(C)斎藤惇夫/岩波書店・TMS
『ガンバの冒険』(C)斎藤惇夫/岩波書店・TMS
自然もそうです。岩いっぺんでも巨大な塊に見える。絵としては、ザラザラとした質感の激しさを意識しました。

――『あしたのジョー2』の光が当たったリングと暗い客席も陰影が印象的ですね。

『あしたのジョー2』(C)高森朝雄・ちばてつや/講談社・TMS
『あしたのジョー2』(C)高森朝雄・ちばてつや/講談社・TMS
小林:光をリングに集中することで、リングに立つボクサーの孤独感が出ます。光と陰、そこに詩的なイメージがある。
省略とか強調が当然のこととして行われるんです。省略するということは、描かなかったところ、行間に意味があるんです。

出崎さんは、「間接表現」とよく言っています。説明的な描写や表現ではなくて、何かの状況を介して、目の前にはない世界を想定させるんです。
たとえば『エースをねらえ!』では、ひろみと宗方が電話で話す場面がありますが、チリンチリンと電話が鳴る。その電話の音だけで、観る側は相手を想像するんですよ。

彼は、観る側の印象が強くなるように、説明的な表現を避けて心を描くということをよくやりました。だから観る側は想像力を働かさざるを得ないんです。
一見わかりにくい映像もあったし、最終回も「え、どうなったの?」って疑問を残すような終わり方をよくやりましたね(笑)。安心できるような映像を作らない。面白い人ですよね。


→次のページ:『ウテナ』では現実を超えた世界を作った
《渡辺由美子》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集