成長期に差しかかった中国のアニメビジネス ~2017杭州アニメフェスティバルを訪ねて~ 第1回「アニメの殿堂となるか、巨大動漫博物館」 | アニメ!アニメ!

成長期に差しかかった中国のアニメビジネス ~2017杭州アニメフェスティバルを訪ねて~ 第1回「アニメの殿堂となるか、巨大動漫博物館」

4月末から5月上旬にかけて浙江省杭州市で行われた第13回中国国際動漫節(China International Cartoon &Animation Festival)に今年も参加してきた(動漫/トンマンとはマンガとアニメを同時に指す言葉)。

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中国で劇的変化を遂げつつある中国のアニメーション産業
~2016杭州アニメフェスティバルを訪ねて~
[増田弘道]

4月末から5月上旬にかけて浙江省杭州市で行われた第13回中国国際動漫節(China International Cartoon &Animation Festival)に今年も参加してきた(動漫/トンマンとはマンガとアニメを同時に指す言葉)。2009年の第5回目から参加し、途中2013年~15年にかけて尖閣諸島問題によって中断、昨年から復活してトータル6回目の訪問となった。今回の訪問で感じたことは、昨年抱いた中国のアニメーション産業(昨年の本サイト連載記事「IPブームに沸く 劇的に変化する中国のアニメーション産業」)の傾向がより先鋭化し、本格的な成長期に差し掛かっているということであった。
なお、TBSニュースバードで今回の杭州国際動漫節と中国のアニメをテーマとした番組が6月13日(火)にオンエアーされる予定。筆者も登場するので宜しければご視聴いただきたい。

■中国国際動漫節(China International Cartoon &Animation Festival)
今年で13回を迎える中国国際動漫節(cicaf2017)の主催は中国国家新聞出版広電総局(一般に国家広電総局)、浙江省人民政府、杭州市政府、浙江省新聞出版広電総局、浙江省廣播電子集団(浙江メディアグループ)といった官庁と行政府に官立メディア(集会やイベントが許可制の中国においてはアニメフェアであっても政府主導)。2016年第12回入場者数1,381,500万人(2015年1,372,900人、2009年第5回目は78万人)、国内企業2,351、5,300人の関係者が参加、948件のプロジェクトが成果を上げその取引金額129.37億人民元(2,100億円)というコンシューマ的にもビジネス的にも中国最大のアニメフェアである。(*注1)。
杭州アニメフェアにはコスプレ大会や作品コンペティションなどの様々なイベントや展示もあるが、中国のアニメビジネスを知るうえで重要なのがコンベンションセンターA&B、建国飯店、世界第一飯店の4カ所である。センターAは政府系の動漫企業、Bは民間企業の展示が中心。オフシャルなサミットやセミナーが開催されるのが建国飯店、民間企業のプレゼンや商談が行われるのが世界第一飯店である。
*注1「中国最大のアニメフェアである」:中国最大のアニメフェアであることは間違いないが、主催者発表データに関してはかなり膨らませているのではないかと思われる。白髪三千丈の国ならではかもしれないが、杭州人口889万の15%相当の138万人参加はまだしも(会場は色々あってメイン会場は39万)、取引金額2,100億円はいくら何でもという気がする。

中国動漫節コンベンションA


中国動漫節コンベンションB


中国動漫節建国飯店


■杭州白馬湖生態創意城
コンベンションセンターA・B館と建国飯店がある郊外型リゾート地の白馬湖(人造湖)は、同時に「杭州白馬湖生態創意城」と呼ばれる中心最大の生態創造(エコクリエイティブ)産業の集積地に指定されている。アニメやゲームのためのコンベンションセンターやクリエイターのためのSOHOといった文化的なものだけではなく、白馬湖を中心としたエコツーリズム、レジャーのための施設もある。杭州白馬湖生態創意城委員会が主管するこの集積地の中で産業的な核となっているのが浙江中南控股集団(浙江中南ホールディングス)。この地域の開発は中南グループの中心である浙江省最大の建設不動産会社である浙江中南建設集団有限公司が行ってきた。白馬湖の建国飯店やコンベンションセンターなどがそれであるが、おそらくは杭州白馬湖生態創意城の中で最も大型、完成すれば中国最大になると思われる施設を現在建築中である。それが「中国動漫博物館(CHINA COMIC AND ANIMATION MUSEUM)」。昨年の報告でも紹介したが、完成間近の姿を見るとスケールの巨大さが改めて認識された。

■アニメの殿堂となるか、巨大動漫博物館
去年建築中に撮った写真を見ると分かるがかなり巨大な建築物である。ホームページの説明には計画用地2.77ヘクタール、建築面積(おそらく延面積)30,382平米、高さ40メートルとあるので、10階建ての百貨店並みのビルと思えばいい。延面積がビックサイトのホール9面分にもなるので相当なボリュームである。民主党政権時に建設中止となった「アニメの殿堂(国立メディア芸術総合センター)を彷彿させるが、完成すれば中国最大はもちろん、世界最大のアニメ博物館となる。今まで動漫節等のイベント以外に集客手段が見当たらなかった「杭州白馬湖生態創意城」としては待望の大型常設展示施設となるが、ちろん大事なのはその内容である。cicaf2017のHPに博物館の紹介があったので読んでみたが、そのスケールや「白馬湖に浮かぶ白い雲」のような建物ではあることは理解したが、肝心の内容については書かれていなかった。
http://www.cicaf.com/dmbwg/index.htm

昨年建設中の動漫博物館


完成間近動漫博物館


■不透明な展示計画
「展示計画」の項目には「動漫特有のユニークな内容と革新的なアイデアに基づき、伝統的な博物館とは異なるハイテク手段をフルに活用したもの」といった概念的な説明が続く。唯一具体性があるものとしては「蔵品征集」つまりコレクションの募集である。収集品の「収集範囲」「収集手段」「収集原則」について述べられており、範囲については「原画、台本、仕事写真、制作設備、宣伝品、チケット、ほか作品関係グッズ、作家の写真、賞状、使ったことあるもの、当時の動漫発展状況が分かる雑誌記事、文章、書籍、ポスター、サイン物、作家からの贈り物など、アニメの予告編、メーキングムービ、当時の録音、録画など、撮影制作に関わる人物インタビューの映像など、意義がある所蔵品」となっている。文字通りコレクションだ。
「収集手段」「収集原則」は「寄贈」「レンタル」「購入」「複製」「模倣」「収蔵」といった方法があることとその対応法について書かれてある。

■博物館ではなく遊戯施設の可能性
収蔵品の募集についてはよく分かるが、博物館の具体的な方向性がほとんど分からない。これほどの建築物が完成間近という割には情報が極めて少ないように思える。ビックサイトのホール9面分を埋めるためには中国の作品だけでは到底まかなえず、集客面を考えても日本とアメリカのコンテンツは不可欠なはず。
しかし、少なくとも現時点では日本サイドのコンテンツホルダーに展示等のオファーはされているようには見えない。権利交渉が格段に難しいハリウッドの作品が展示・運用を優先しているとも思えない。そのような推測からすると、おそらくこの施設は博物館というより子供向けの遊戯施設になる可能性が強いように思われる。海外のアニメに対する実質的な放送禁止令によって2006年以降中国の子どもは海外の新作を見る機会を失った(2006年以前に輸入された作品は放映可能)。したがって昨年レポートした「熊出没」のような国内作品がヒットする機会が生まれたと考えられるが、案外中国作品の展示や遊具、アトラクションにニーズがあるのかもしれない。日本と同じように大人になってもアニメを見る世代が増えたとはいえ、基本的には中国はキッズアニメの国であるので子供に焦点を合わせた施設であることは十分に考えられる。いずれにせよこの動漫博物館は中国におけるアニメの勢いを示すものであることは間違いなく来年の訪問が待ち遠しい。

■「序列」で決められるフロアー構成
メイン会場のコンベンションセンターA館とB館におけるフロアー構成を示したのが表1であるが、これを見ると主催者サイドの考え方が自ずと浮かび上がってくる。A館1Fは国家級、省級レベルの企業で占められているが、このフロアーが展示「序列」NO1、次が民間の大手有力企業が勢揃いしているB館1Fとなっている。



■「官」の牙城コンベンションセンターA館
セキュリティゲートを通過し入場するのがコンベンションセンターAで、まず目に入るのがCCTV、つまり中国中央電視台。日本のNHKであるが、中国には民放がないのでそのパワーは超強大。そして、その対面には浙江省廣播電子集団(浙江メディアグループ)のブースがデンと構えている。なるほど分かりやすい序列だ。そしてその次にあるコマ二つの大きなブースが「江蘇省出版広電総局(南京動漫基地など)」。他にも「天津市文化廣播影視局」、「寧波広電新聞出版局」、「武漢動漫協会」、「河南省グループ」、「陝西省動漫産業プラットフォームといった官製メディアや地方政府系企業のブースを構えている。フロアーのテーマが「実力メディアグループ/国家級動漫産業基地/国内各都市グループ」であるためだが、わずかながら民間企業の出展もある。
それが地元杭州の「杭州玄机科技(Star Q)」と「中南カートゥーン」だが、この両社だけは例年コンベンションセンターAへの出展を続けている。杭州玄机科技(Star Q)は、キッズアニメ主流の中国においていち早く青年層に向けた『秦時名月』(2007年~)を成功させたスタジオであり、中南カートゥーンは「杭州白馬湖生態創意城」のデベロップを手がける中南集団の系列動漫企業である(中南集団オーナーの女子が経営)。

コンベンションA天津


コンベンションA中南


■忽然と出現したテンセント
この二社以外に過去出展した民間企業としては昨年の奥飛娯楽(アルファ・グループ)などがある。ここは中国の国民的キャラクター喜羊羊(シーヤンヤン)の権利を獲得、また西欧で人気のある「スーパー・ウィングス」という韓国製アニメの流通(中国、アジア、中東)などを手がけるなど近年目立った動きをしている広東省の有力娯楽上場企業。それもあってか昨年コンベンションセンターAに出展したのであろうが、今年はその姿はなく、代わりに姿を現したのが「騰訊」(テンセント)である。
ここに関しては説明する必要もないだろうが、昨年のcicaf2016においては「YouKu」などのIT動画配信系の出展はあったがテンセントに関してはテの字も見えなかった。ところが今年はまさに忽然という言葉が当てはまるような登場の仕方であった。それも民間系のセンターBではなくAにである。配信事業者としては圧倒的な力を持つものの、正直アニメ製作者としての実力はまだ未知数であり、先ほどのA館フロアーテーマのどれにも当てはまらない。それがこのような形でcicafデビューを飾るのは、当然のことだがよほど企業評価が高いのであろう。ブース自体は写真を見ても分かると思うがメインストリームのキッズ作品が中心であり、コロコロコミックを想起させるキャラクターが多かった。後述する世界第一飯店で行われたテンセントのプレゼンでは青年層向け作品であったことを考えると、子どもから大人まで全方位のコンテンツ戦略を考えているものと思われる。

今年になって忽然と姿を現したテンセントブース


テンセントブース


第2回に続く

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]
《増田弘道》
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