2017年4月に公開を迎えた『夜は短し歩けよ乙女』に続いて、湯浅政明監督の最新劇場アニメ『夜明け告げるルーのうた』が5月19日に公開となる。物語の舞台は、人魚の言い伝えを持つ漁港の町・日無町。両親の都合で引越してきた中学生の少年カイは、クラスメイトに連れられて訪れた離れ島で人魚のルーと出会う。鬱屈した気持ちを抱えていたカイは、ルーと行動を共にするようになり少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく。しかし日無町では、古来から人魚は災いをもたらす存在として恐れられていた――。湯浅監督の唯一無二の世界観はアニメ業界の中にもファンが多く、本作でカイのクラスメイトである国夫を演じた斉藤壮馬もその一人だ。斉藤の希望もあって今回、湯浅監督と斉藤の対談が実現。作品の魅力や制作の模様についてたっぷり語らっていただいた。[取材・構成:奥村ひとみ]映画『夜明け告げるルーのうた』2017年5月19日(土)全国ロードショーhttp://lunouta.com/■湯浅監督の魅力は「間」と「引き算の美学」――今回の対談にあたって、斉藤さんが湯浅監督の大ファンだと伺いました。斉藤さんが感じる湯浅監督の魅力を教えてください。斉藤壮馬(以下、斉藤)僕が最初に拝見したのは『ケモノヅメ』でした。「ここが魅力」とはっきり言うのはあまりに軽率ですが、強いて言うなら、僕は湯浅監督の作品は“間”がすごく独特だと思っているんです。シーンの終わりどころや、多くを語らないキャラクターといったように、一度では気づかない“間”の演出が様々な点に散りばめられている。そういった、僕の理解を越えていくところがすごく面白くて、気になってもう1回見たくなります。一見するとおしゃれに盛った映像に見えるかもしれませんが、そこには引き算の美学があると僕は思っていて。ちょっと違うかもしれませんが、侘び寂びのようなものを感じられるのがとても好きなんです。湯浅政明(以下、湯浅)ありがとうございます(笑)。斉藤いやぁ、すみません(笑)。ご挨拶した際は僕も役者として現場に伺っていたので、そこで「ファンです!」とは言えなくて。でも、こうしてご本人を前にして、直接お伝えするというのも恥ずかしいですね(笑)。――斉藤さんが本作のシナリオを読まれた時の第一印象はいかがでしたか?斉藤まっすぐなストーリーだと思いました。というのも、これまで以上にテーマやメッセージ性が強く感じられたんです。今まで見てきた湯浅監督の方向性とはちょっと違うものを提示された気がして、これは面白い作品になりそうだ、と。僕が言うのもおこがましいのですが、湯浅監督のアニメで最初にどれを見たらいいかと聞かれた時に、一番に勧めたい作品になるだろうと思いましたね。それくらい心にストンと落ちてくる、幅広い層に受け入れられるストーリーだという印象を受けました。湯浅斉藤さんがシナリオを見た段階では、絵はどれくらいありましたか?斉藤出来上がっている部分もけっこうありました。もちろん、これから詰めるというシーンもたくさんありましたが、ルーたちのダンスのシーンは、その時点でも「ここまで動くのか!」と驚きましたね。Flashアニメーションの独創的な迫力がすごくて、この映像に乗って演技ができるのは楽しいだろうなぁと思いました。――全編Flashアニメーションでの制作というのも本作が異彩を放つ点です。湯浅監督が考えるFlashアニメーションの特徴について教えていただけますか?湯浅僕がFlashで気に入っているのは、線が綺麗で滑らかなところです。技術を持った人たちからすると“いかにもFlashっぽい”と感じるようで、鉛筆描きのような線に加工したいとも言われるのですが、僕は逆にその鉛筆では描けない綺麗さが好きで。今のアニメ制作では描いた画をそのままトレースしますが、昔はセルの上からペンで描いていたんです。Flashの線はそれに近いのかな、と思っています。――制作全体におけるFlashアニメーションの利点は?湯浅Flashアニメの場合、本来のアニメ制作で作業が分かれている工程を一人で担うことができます。多くのアニメは、原画から動画や色、撮影、音響といった次段階の工程は、想像しながら進めるほかありません。いざ出来てみて、タイミング等おかしな点が出てきたら、頭に戻ってリテイクして描き直す必要があります。それがFlashなら、その場で背景を合わせて色をつけたものを動かしながら見られるし、もし音があれば音も合わせることができます。普通だったらいくつかの部署を経る仕事を一人でやっているので、個人に「もうちょっとこうしたい」と伝えれば、総合的に見てうまく調整してくれます。その分、一人に預けるウェイトは大きくなりますが、全体のコントロールは格段にしやすくなります。――制作期間の短縮にも繋がるのでしょうか?湯浅作品のテイストにもよりますが、人数がいれば無理な労働をしなくとも作れると思いますね。でも、特に日本には、技術を持っている人がまだまだ少ないんです。それもあって本作は制作に時間がかかりましたが、それでも1年ちょっとくらいです。うちのスタッフ10数人で1年だから、そう考えるとすごく早いんじゃないでしょうか。平面的に動かすことに特化したFlashアニメは国内にも多いですが、本格的に立体的なアニメとして動かす技術がある人は海外にもそんなに多くいません。ですから、まずは技術者の数を増やさないといけませんね。うちのスタジオでも、作り始めた当初は2人しか技術者がいませんでした。でも制作を経て、今は10人以上がFlashを使って作っています。今なお技術は上がっているので、技術が高い人が増えていけば長尺のものもスムーズに作っていけると思います。もともとサイエンスSARUはFlashツールを使ったアニメ作りのスタジオとして設立しましたし、まずこの作品を作ってみて、今はもっと「技術もノウハウも上がっている」と思うので、今後もさらに高い技術の新しい作品を作っていきたいです。(次ページ:カイ役の下田翔大が急成長!現場での変化は一緒に演じる醍醐味)
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