「ジョーカー・ゲーム」 一貫した世界観とキャラ立ちのメリハリで魅せる【2016年の一本】 | アニメ!アニメ!

「ジョーカー・ゲーム」 一貫した世界観とキャラ立ちのメリハリで魅せる【2016年の一本】

年末年始の特別企画「2016年の一本」。ライターの仲瀬コウタロウさんが選んだのは『ジョーカー・ゲーム』、その魅力とは?

コラム・レビュー
注目記事
「肉体的勇気は賞讃に値するものであり、あらゆる職業で有用な性格的特徴であるが、秘密諜報部員には異なったタイプの勇気が要求される(朝河伸英訳)」。
これはイスラエル諜報特務庁、通称「モサド」で活躍した“伝説のスパイ”ウォルフガング・ロッツが、著書『A HANDBOOK FOR SPIES(ハヤカワ文庫NF『スパイのためのハンドブック』)』に記した一文だ。
それでは、秘密諜報部員に要求される「勇気」とはどういったものなのか。ロッツによると「自分のあらゆる本性に背くこと、自分の一番大切な信条に真向から対立することをしたり、あるいは、しなければならないと感ずることをしないことは、類まれなる特別な勇気を必要とする(同訳)」のだという。

2016年4月から放送された『ジョーカー・ゲーム』は、ロッツが指摘するところの「類まれなる特別な勇気」を持つ男たちが描かれた作品だ。
原作は柳広司が手掛ける同名小説シリーズ。世界大戦の火種がくすぶる各国・各地で、スパイ集団「D機関」が諜報戦を繰り広げていく。アニメは連作短編の原作からエピソードを選り抜き、全12話で構成された。

実のところ放送前からのファンとしては、アニメ化に少なからず不安を抱いていた。原作では“とある1スパイ”として没個性的に描かれている「D機関」メンバーが、固有の声や容姿を与えられることによって、必要以上にキャラ立ちしてしまうのではないかという懸念だ。
しかしいざ視聴してみると、こういった考えは吹き飛んでしまった。下野紘ほか木村良平、細谷佳正、森川智之、梶裕貴、福山潤、中井和哉、櫻井孝宏ら人気男性声優に命を吹き込まれ、三輪士郎原案のビジュアルで色気と目力を備えた機関員たちが、絶妙に「キャラクターの区別がつきにくい」のである。
主役として全身にスポットライトを浴びているかと思えば、次の瞬間には黒衣のごとく存在感を消してしまう。その巧みな気配のコントロールには、舌を巻くほかなかった。

逆に「D機関」のスパイたちが関わる面々には、重厚な存在感を放つキャラクターが多かったのも本作の妙だろう。機関を統べる結城中佐役の堀内賢雄はもちろんのこと、帝国陸軍・武藤大佐役の玄田哲章、英国諜報機関・マークス中佐役の大塚芳忠、ドイツ国防軍・ヴォルフ大佐役の銀河万丈など、大御所と呼ばれる名優が強烈な人物像を形作っていた。彼らは見事にキャラ立ちしていただけに、なおのこと「D機関」の暗躍を際立たせていたように思う。
このほか声優ネタで特筆したいのは、第1話・第2話「ジョーカー・ゲーム」で佐久間中尉を演じた関智一の堅物軍人口調が、『フルメタル・パニック!』の主人公・相良宗介を彷彿とさせたことと、第7話「暗号名ケルベロス」に登場した英国諜報機関に属する暗号専門家の声優が、『007』の“5代目ジェームズ・ボンド”ピアース・ブロスナンの吹替を担当した田中秀幸であったことだろうか。いずれもニヤリとさせてくれた配役だった。

本作を語るうえで欠かせないものとして、「世界大戦の火種がくすぶる昭和12年秋…」から始まるアバンナレーションも挙げておきたい。各話ごとに舞台や登場人物が様変わりするだけに、作品世界全体への没入感を高めてくれるこの演出は、『ジョーカー・ゲーム』に漂うシリアスな雰囲気をことさらに盛り上げていたと考える。『007』シリーズが「スパイもの」の入り口だった身としても、かの“ガンバレル・シークエンス”のような一貫した暖簾の存在は、大きな興奮材料だった。

随所にアレンジを加えつつ原作を丁寧にアニメ化した本作は、第12話「XX ダブル・クロス」で見事に締め括られた。最後に結城が発した「馬鹿か貴様。背広姿で敬礼する奴があるか」の台詞は原作と異なるのだが、これが本編一の良改変であったと思っている(原作における同箇所の結城にも味がある。未読ならぜひ目を通してほしい)。機関の旨として作中で徹底された「死ぬな、殺すな」精神のごとく、全12話の作品全体に一本の筋を通してみせた演出ではないだろうか。

2016年のアニメといえば、『君の名は。』を筆頭とする劇場公開作品が脚光を浴びた印象が強かった。しかし敢えて「2016年の一本」には、その内容さながらの暗中飛躍を見せた良作として、TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』を推薦したい。

・プロフィール
仲瀬コウタロウ
フリーライター、フリー記者。書店員やライトノベル編集者、アニメ情報誌ライターなどを経て現職。「アニメ!アニメ!」には2016年の夏よりお世話になっています。2017年は執筆速度を上げることが目標です。
《仲瀬 コウタロウ》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

特集