2016年1月25日、コンテンツ業界から大きな関心を呼ぶ発表がされた。テレビ東京とグリー、そして中国の映像配信会社の大手アイチーイー、香港のメディアリンクが参加するテレビアニメ『聖戦ケルベロス 竜刻のファタリテ』の製作発表である。本作はグリーが開発・運営する人気ソーシャルゲームを原作にアニメ化、日本では2016年4月よりテレビ東京ほかで放送を開始する。ファンタジー世界を舞台にした作品のアニメーション制作はブリッジ、監督は近藤信宏が務める。『聖戦ケルベロス 竜刻のファタリテ』は、一見は毎年多く製作されるアニメファン向けのテレビシリーズのひとつに見える。しかしその製作にあたっては、これまでにない試みがされ、日本アニメの海外展開の新しい在り方として注目される。ひとつはビジネスの構成である。権利表記からも分かるように、本作は日本の放送局であるテレビ東京、ゲーム会社としてのグリー、そして中国のアイチーイー、香港のメディアリンクの4社が製作出資している。4社のうち2社までが海外企業、さらにテレビアニメで出資することが多い映像ソフトメーカーや広告代理店の名前が見られない。アイチーイーは、2010年に中国で設立されたインターネットの映配信会社である。歴史は浅いが動画配信では中国最大規模を誇る。日本のアニメも多数配信をしている。メディアリンクは、長年東南アジアにおける日本アニメの流通に携わってきた。アジア地域の配給権を獲得し、香港を拠点に東南アジア全域で日本アニメのビジネスを行う。過去数年、海外からの日本アニメへの関心が再び高まっている。とりわけ動画配信に対するニーズは高く、海外向けの配給ライセンスの価格も高騰している。こうしたなかでライセンスの購入ではなく、日本のアニメに直接製作投資を目指す海外企業が増えている。とりわけ、ライセンスの値上がりが激しい中国の企業の動きが活発だ。今回のアイチーイーやメディアリンクの動きもそのひとつだろう。2社はそれぞれ製作者としての立場から、中国と東南アジアで『聖戦ケルベロス 竜刻のファタリテ』のビジネスを手掛ける。製作出資となれば、作品のビジネスの成否がよりダイレクトに業績に反映される。両社が他の作品以上に『聖戦ケルベロス 竜刻のファタリテ』のプロモーションに力を入れるのは間違いないだろう。さらにもうひとつ、作品が日本の放送に先駆けて中国で先行配信するのも注目される。日本で制作されたアニメが海外で先行放送されたケースは、これまでにも少なくない。しかしその多くは欧米地域で、かつテレビ放送であった。今回は中国本土、しかも配信である。かつては日本のアニメの海外展開は、日本での放送から海外で展開するまでタイムラグが大きいことが障害とされてきた。それが2000年代後半より、世界同時展開が急速に進み、日本アニメ人気の拡大を後押ししている。今回はそれをさらに飛び超えて、海外先行となる。中国のファンに喜ばれる一方で、日本のファンからは不満が出るリスクも少なくない。テレビ東京とグリーにとっては大きな挑戦だ。両社は、『聖戦ケルベロス 竜刻のファタリテ』は海外ありきの作品、メインターゲットのひとつとして中国、アジアを設定したわけだ。記者会見ではアイチーイーが、ゲーム『聖戦ケルベロス』の中国での同時展開も明らかにした。日本のアニメが得意としてきたメディアミックスのビジネスモデルを海外企業を巻き込むことで輸出する、そんな戦略も窺える。[数土直志][/アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.bizより転載]
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