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成長するスペインのアニメーション第2回 ヨーロッパ・アニメーションの成長戦略

≪バルセロナで、ヨーロッパのトランスメディアのプロジェクトピッチ「Cartoon 360」開催≫EUデジタル単一市場の構築で、活気づくトランスメディア成長するスペインのアニメーション

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≪バルセロナで、ヨーロッパのトランスメディアのプロジェクトピッチ「Cartoon 360」開催≫
EUデジタル単一市場の構築で、活気づくトランスメディア
成長するスペインのアニメーション
第2回 ヨーロッパ・アニメーションの成長戦略

[オフィスH 伊藤裕美]

■ EU、56兆円のデジタル単一市場構築へ

欧州連合(EU)はデジタル市場の域内統合を成長戦略に掲げ、5月6日に欧州委員会が「デジタル単一市場(DSM)戦略」の主要施策を発表した。域内で公正な競争ルールを確立し、人、物、サービス、資本が自由に移動できるよう、デジタル統一市場(DSM)の構築を目指す。
戦略は3つの柱・政策分野に渡り、2016年末までに実施する16の施策が着手された。第1の柱「EU全域での商品とサービスへのオンラインアクセスの向上」は、オンラインショッピングの取引ルールの統一、商品配送コストの引き下げ、著作権法の見直しなど。
第2の柱「高度なデジタルネットワークやサービスのための環境づくり」は、通信インフラの改善・地域間格差の解消、オンラインプラットフォームの適正競争、透明性などの環境改善、コンテンツ配信サービス規制の見直しなど。
そして第3の柱「デジタル経済・社会の潜在力の最大化」は、欧州クラウドシステム、技術者の訓練、新技術の標準化、各種デバイスやネットワークの相互運用性の向上などだ。

5億人の潜在顧客を持つEUがデジタル単一市場(DSM)になれば、年間4,150億ユーロ(約56兆円)の経済効果を生むとされ、域内のコンテンツ業界にも大きなインパクトを与える。
日本に与える影響も大きい。駐日欧州連合代表部の公式オンラインマガジン「EU MAG」の本年6月の特集では、「EUとしては、著作権法や視聴覚メディアの配信に関する規定の見直しは、日本のアニメや伝統文化などのクールジャパンコンテンツを欧州に向けて発信する企業にとって追い風になるとみている。また、市場拡大による配信力の強化はもちろん、配信ルールや著作権法の統一によるコスト削減につながることを期待している。(中略)ジオブロッキングの問題が解消され、デジタル市場における不当競争が是正されれば、EUのオンライン市場への参入障壁は低くなる」とする。
総務省と欧州委員会の通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局との間で定期的な政策対話が進んでいる。

■ Cartoon 360、トランスメディアの新プロジェクトのピッチ

EUではテレビ局が供出する製作費が漸減する中、トランスメディアへプロデューサーが向かう。アニメーションを核とするトランスメディアのプロジェクトピッチ「Cartoon 360(カートゥーン360)」は昨年ドイツのミュンヘンでスタートした。
ヨーロッパ・アニメーションの振興を目的にさまざまなネットワークイベントを企画・運営するCARTOON(カートゥーン/ヨーロッパ・アニメーション協会、1988年設立の非営利団体、本部:ブリュッセル)が、EUのオーディオビジュアル産業支援プログラム「Creative Europe/MEDIA」の助成を得て主催する。バルセロナにCartoon 360を誘致したカタルーニア州の自治政府は、スペイン産業・エネルギー・観光省、red.es(情報化社会推進公社)、FICOD(国際デジタルコンテンツ・フォーラム)、ICEX(スペイン貿易投資庁)と共に総力態勢で臨んだ。

Cartoon 360は、カートゥーンが行なうプロジェクトピッチの中で、テレビアニメーションのCartoon Forum(カートゥーン・フォーラム)、長編アニメーションのCartoon Movie(カートゥーン・ムービー)の次の段階と位置づけられる。「360」という名が示す通り、トランスメディア、クロスメディア ― テレビ・映画、セカンドスクリーン、AR(オーグメンテッド・リアリティ、拡張現実)、ウェブカートゥーン/ウェブノベル、オンライン/ビデオゲーム、スマート玩具、音楽、キャラクターライセンシング…というように、アニメーションを360度展開するプロジェクトを対象とする。
全方位でメディア展開するだけでなく、オーディエンス層も広がる。欧米ではテレビアニメーションは子ども向けという意識が作り手にも受け手にも根強い。しかし、デジタル化・ネットワーク化されたトランスメディアのオーディエンスはティーンエイジャー以上の年齢層、そしてファミリーへ広がる。

■ 有機的につながる、ヨーロッパのプロジェクトピッチ・イベント

Cartoon 360はプロジェクトピッチの場であると共に、テレビや劇場という従来メディアから新たなメディアへ乗り出すプロデューサーが、ビジネスプラン、ターゲット分析、予算管理、多様なメディアのパートナーとの交渉など、実践情報を共有し合う場でもある。
ピッチは、事前に選ばれた22本のプロジェクトをプロデューサーが20分の持ち時間で行った。評価エキスパートとしてEUとカナダからプロデューサー、コンサルタントなど22名が招かれ、トランスメディアの市場性・実情に照らしながら、1プロジェクトに対し5名のエキスパートが実現性と将来性を評価した。ピッチの合間にはあちらこちらで、参加したバイヤーやインベスターとプロデューサーとの間で意見交換や商談がおこなわれた。

プロジェクトの選考は3月末におこなわれ、ピッチの数週間前から英国とフランスのビジネスコンサルタント、エージェント会社の経営者3名が“チェアー(メンター)”として1名ずつプロデューサーに付いて準備を補助した。ピッチ当日もチェアーが立ち会い、プロデューサーを補佐した。若手プロデューサーの未熟さをメンターが補って、次世代を育てようとする主催者の意図がわかる。
Cartoon 360はカートゥーンの諸イベントに有機的につながる。今回のプロジェクトから4本 ― 『Krabstadt』(スウェーデン、ヤングアダルト向け)、『My Dream Pets』(ベルギー、6~8歳向け)、『The Memets』(スペインとベルギー合作、6~9歳向け)、『La methode Von Mopp』(フランス、ヤングアダルト向け)が、9月にテレビアニメーションの業界関係者800名が集まるCartoon Forumに招待される。

[/アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.bizより転載記事]
《オフィスH 伊藤裕美@アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.biz》
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