ネットワークセキュリティのエバンジェリスト・辻伸弘が語る『攻殻機動隊 ARISE』とネットの世界 後編 | アニメ!アニメ!

ネットワークセキュリティのエバンジェリスト・辻伸弘が語る『攻殻機動隊 ARISE』とネットの世界 後編

『攻殻機動隊』のシリーズを現実社会のスペシャリストはこれをどう見るのか?ネットワークセキュリティのエバンジェリスト・辻伸弘さんに、最新作『攻殻機動隊 ARISE』の話題にもふれつつ話をうかがった。

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ネットワークセキュリティの第一人者、国内有数のエバンジェリスト(*)として活躍している辻伸弘さんに、『攻殻機動隊』とネットワークセキュリティについて話をうかがった。『攻殻機動隊』が大好きという辻さんの明かすネットセキュリティの最前線の話も必見だ。
*エバンジェリスト:特定の物事を分かりやすく伝え、広める「伝道師」
[取材:アニメ!アニメ!編集部、ScanNetSecurity編集部、構成:細川洋平]

□ 辻伸弘 (つじ・のぶひろ)
大阪府出身。ソフトバンク・テクノロジー株式会社に所属。ネットワークセキュリティのエバンジェリストとして活躍。情報システムの弱点を洗い出し修正方法を助言するペネトレーションテスト(侵入テスト)を中心にコンピューターセキュリティ全般を請け負う。現在は攻撃視点を意識しつつ情報セキュリティに関する調査などを行い、情報発信を続けている。

『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』
/ http://www.kokaku-a.jp/


■ 現実化しつつある『攻殻機動隊』の世界

-AA
このまま時の流れが進み、テクノロジーが進歩した時に、『攻殻機動隊』のような世界は実現すると思いますか。

-辻
システムが進化していけば似たような世界になると思います。『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』の『置き去りの軌跡』(*)では、ものすごい物量のコンピューターからなる監視システムが出てきます。登場人物が電話をかけて一言話しただけで居場所を特定します。現実では国家規模のリソースを投入する必要があり、難しい技術です。ところがそれをNSAがやっていました。現実にも出てきたわけです。
*第21話

-AA
『攻殻機動隊』の世界へ変化するネックになっているのは、技術ではなくてリソースですか?

-辻
今のリソースでは限界があると思います。ただ現象で言えば攻殻的なものはすでにたくさんあると思います。例えば「アノニマス」です。アノニマスは「匿名」という意味を持ち、国際的ハッカー集団と呼ばれていますが、実際にはハッキングを行う人たちだけではなく、リアルなデモなどを平和的に行う人たちもいるので正しくは国際的抗議集団です。
つまりある時は、「これに反対です」という抗議をします。メンバーはその抗議に参加したからといって次回もいるとは限りません。何人いるかも分からない。彼、彼女たちの価値判断の中で許せない物事が起きた、起きそうな時、個々が自由に集まる団体で、自分がアノニマスだと思えばアノニマスだそうです。
まさに「笑い男(*)」っぽいなと思いませんか?以前アノニマスの一人にインタビューをした時、本人にもそう話していました。しかも、彼のiPhoneの裏には「笑い男」のステッカーも貼ってあったんです。
*笑い男は『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』の主要エピソード「笑い男事件」に登場する見えない敵。

-AA
草薙素子があたかも、ITの空間に入り込んだようなダイブの描写がありますが、あれはどうでしょうか?

-辻
僕たちがやっているセキュリティのうえでのハッキングを絵にするとああなるのだと思っています。ネットに詳しくない人にも分かるよう巧く表現しているなと思います。

fd

■ 最新作『攻殻機動隊 ARISE』の面白さ

-AA
現在『攻殻機動隊 ARISE』がシリーズ展開中です。本作はどう捉えられていますか?

-辻
草薙素子の成長が見られる作品だと思います。最初、草薙素子は弱いじゃないですか。隙もあるし、やられたりもする。また、これまでの作品の草薙素子ほど思考の成熟もしていないように見えます。

-AA
『border:3』では、草薙素子は恋に落ちます。

-辻
『border:3』は全編通して少佐の恋愛模様がおもしろいですね。少佐にもそういうところがあったんだと。色恋という、扱い方によってはこれも人の脆弱性ですよね。逆に強さにもなるわけですが。

-AA
草薙素子ですら恋に落ちたら危ないんだ、というわけですね。
『border:1』から『border:3』までで気になったシーン、好きなシーンはありますか。

-辻
全部が好きですが、特に『border:2』で素子がバトーやイシカワ相手に戦うというのはすごくよかったです。今までにない展開だったので鳥肌が立ちました。
あと「スタックスネット(Stuxnet)」という言葉が出てくるんです。これは現実にあるマルウェアの名前で、どうしてその名前にしたんだろうってずっと考えていたんです。
「スタックスネット」はセンセーショナルな攻撃をするウイルスで、イランの核施設の制御システムをダウンさせたものです。核施設というのは基本的にインターネットから隔離されたスタンドアローンなんです。じゃあどうして感染したかというと、「スタックスネット」は感染したコンピュータに接続したUSBメモリを介して感染するんです。「スタンドアローン」という言葉は攻殻機動隊におけるキーワードだと思っているので、それで引用したのかなという気がします。普段そのような情報に関わっている僕からすると「おおっ」て思いました。普通だったら知らない言葉だと思うんです。そうしたものを入れてくる辺りが嬉しいですね。

fd

《animeanime》
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