藤津亮太の恋するアニメ 第17回 ハハハカナシ……?(前編)  | アニメ!アニメ!

藤津亮太の恋するアニメ 第17回 ハハハカナシ……?(前編) 

アニメ評論家・藤津亮太さんのアニメをとおした恋愛論。しかし今回のテーマは“マザコン”、マンマユート団からキグナス氷河、神隼人らマナ板のうえに・・・

連載 藤津亮太の恋するアニメ
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藤津亮太の恋するアニメ 第17回
ハハハカナシ……? (前編) 

作・藤津亮太


「ねえ、この間『お母ちゃん、助けて』って書かれた紙袋を持っていたけれど、あれは何なの? アニメっぽい絵も描かれていたんだけれど」
Nが聞いてきた。僕は一瞬、戸惑ったけれどそれがすぐになんのことか気付いた。

「それはもしかして、イタリア語で Mamma Aiuto(マンマユート)って書かれていたんじゃないかな?」
「そうそう。大きく描かれていた」
「マンマユートって、『紅の豚』に出てきた空賊団の名前なんだよ。それでジブリ美術館のミュージアムショップの名前にも使われている。Nが見た紙袋は、そこのショッピングバッグだよ。ヒゲ面の男の絵が描かれていなかったかい?」
「描かれてた」
「あれが、マンマユート団の団長なんだよ」
どうやら『紅の豚』を見たことがなかったらしいNは、珍しく頷きながら僕の話を聞いている。

「紙袋の出所はわかったけれど、でも、そもそもどうして『お母ちゃん、助けて』なの?」
「それには物語の舞台が関係している」
「舞台?」
「『紅の豚』の舞台はイタリア。アドリア海に面した地域だ。そして、イタリア男性といえば、マザコン=お母さんに頭があがらない、というわけ。イタリアにはMammone(マンモーネ)という言葉があるけれど、これは大人になってもマンマべったりの男というような意味だそうで、団長もこのマンモーネの一人なんだろうね」
Nはふーんといった顔をしている。

「そういえば『グランブルー』に出てきたジャン・レノも、『ママのお手製パスタ以外のパスタを食べたら殺される!』って言っていたわね。あれもきっとマンモーネの一種っていうことね」
「だろうね」
と、これだけで話が終わるかと思ったら、Nがまた面倒なことを言い出した。

「それにしても、ジャン・レノの役って、イケメン風なのにマザコンキャラってかなり独特なキャラクターよね」
ジャン・レノ演じるエンゾをイケメンではなく、イケメン「風」と例えるあたりにNの主張を感じたが、それはさておき僕は反論した。

「いや、アニメとか見てると、それなりの数でイケメンでマザコンキャラってでてくるよ」。
「え、本当なの?」
「たとえば『聖闘士星矢』のキグナス氷河って知ってる?」
Nは首を振った。

「彼はロシア人とのハーフで金髪碧眼。クールな性格で戦ってもめっぽう強いんだけど、幼い頃に船の事故で母親を亡くしていてね。それで海深くの沈没船に眠る母のところまで潜水して花を置きに行く、というのを日課にしていたんだよ」
「日課? 毎日潜ってたの?」
「そういうことらしい。さすが聖闘士だよね。そもそも聖闘士になる動機も、お母さんの遺体をその海から引き上げるためだというし。からロシア語でお母さんを意味する『マーマ』っていう言葉も、氷河はしばしば口にしてるね。ファンの人的には『マーマ』って聞けば、即座に氷河を思い出すものらしい」
Nはなにやら考えたような顔をしている。

「私が思うのに、母親おもいとマザコンはちょっと違うと思うのよ」
「その違いは?」
「うーん、たぶん依存かな。マザコンは子供がその存在に完全に依存している。でも、母親思いは、優しさの表れだと思うの。その氷河は……」
「やっぱり毎日ってのは、依存症の症状じゃないかねぇ。優しいっていったって、死んじゃってるお母さんだからねぇ」
「……そのキャラ人気あったの」
「あった。ものすごくあった」
Nは解せない顔をしている。

「まだほかにそういうキャラクターっているの?」
「うーん、ママママいうキャラだと『ブレンパワード』のジョナサンとか、『聖戦士ダンバイン』のトッドともかいるけど、元祖マザコンイケメンまで遡るとすると……40年ぐらい遡れるか」
「40年! そんなに昔からいるの?」
「そう、『ゲッターロボ』の神隼人。放送開始は1974年だからちょうど40年前だ」

『ゲッターロボ』は、流龍馬、神隼人、巴武蔵の3人が乗り合体するゲッターロボが恐竜帝国と戦うロボットアニメ。連続して『ゲッターロボG』が制作され、こちらは戦死した巴武蔵に代り車弁慶が参加し、敵も百鬼帝国になっている。
神隼人は、浅間学園サッカー部の主将でニヒルで皮肉屋。熱血漢の主人公に対するクールなサブキャラクターの原型ともいえる存在だ。
「そのハヤトって人は、そんなにクールなキャラなのに、マザコンなの?」
「うん。彼は十字架のペンダントを肌身離さず持っているんだが、これが母親の形見なんだ」
「あら、またお母さん死んでるのね」
「しかも、そのペンダントはロケットになっていて、そこに母の写真も入ってる。これでもかなりお母さんに執着してる感じがするけれど、それだけじゃないんだ。隼人はゲッターロボを開発した早乙女博士の娘、早乙女ミチルに思いを寄せているんだが、それもミチルに母の面影を見ているからなんだ」
「それは重症ねぇ」 

そこでNはふとそこで何か気付いたようだった。
「そのハヤトってキャラクター。ネットで何かセリフが流行ってなかったっけ?」
「なってる、なってる。ゲッターチームに参加するときに、隼人は照れ隠しで『俺はボインちゃんが大好きでな』っていうんだ。あ、このボインちゃんっていうのは、いうまでもなくミチルのことなんだけれど、これがわりとあちこちでコピペされてる]
「つまりイケメンマザコンキャラの元祖は、おっぱい星人の元祖でもあったのね」
Nはそういってあきれたように溜息をついた。が、僕はそれはちょっとおもしろそうな視点だなと思った。
(続く)
《animeanime》
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