[取材・構成: 高浩美]「3次元に飛び出した人たちに会いに来て下さい。“こう来たか!”って必ず言わせてみせます!」■確信を持って作った記憶はないです今や日本のショービジネス界の中で最も勢いがあるのが、アニメやコミック、ゲームを基にした舞台であろう。人気があるものはシリーズ化され、動員力もハンパない。その中でもミュージカル『テニスの王子様』は別格、初演から10年経つがそのパワーは衰えることを知らない。2003年初演。2013年6月現在150万人を動員、この数字はさらに伸びることだろう。原作は1999年から2008年まで『週刊少年ジャンプ』(集英社)(※)に連載され、その後アニメ化(2001年~2005年)、CD(キャラソン盤)化、ゲーム化、TCG(トレーディングカード)化とメディアミックスされ、2006年には実写映画化とテレビアニメの続編のOVA化、2008年には中国で実写ドラマ化もされた。この作品が人気タイトルだから、という単純な理由でヒットした訳ではない。出来が悪いものは続かない、作り手側の努力の結晶といっても過言ではないだろう。とにかく舞台上でテニスの試合をするのである。前例もない中でのクリエイティブな作業には困難がつきまとったことだろう。演出・振付の上島雪夫は語る。「初演時、実は確信を持って作った記憶はないんですね、テニスをどうやって舞台でやるんだってことを含めて、ね。僕がダンスとかミュージカルで培った方法・・・音を使うとかピンスポット照明を使うとか、あらゆる手を駆使して“テニスをする”。その中のいくつかの動きをダンスで表現したんだけど、それが果たして本当に面白いのか?自分では面白いと思ってやったんですけど。この原作に出てくる主人公、越前リョーマは、チビで中学1年生で変なお父さんがいて面白い先輩がいてっていう、この人間関係が面白いと思いまして、これを舞台で3次元的にポンと飛び出してくるみたいに再現したいなと。再現出来たのか・・・僕も出てましたけど(笑)。当時、自分も含めて再現出来ているのかはよくわからなかったですね(笑)」新しい試みをやる時は常に不安がつきまとう。しかし、やらなければ前には進めない。「初演の初日の、あるシーンでお客さんがドッカンドッカン笑ってくれて・・ああこれで受け入れられたのかなって思った。自分はずっとダンスを扱ってきたんですけれども、こういう世界と合うんだな、って思いました。ラケットを使ってダンスをするんですが、ダンスになりすぎないように、いかにもテニスをしているかのように工夫しました。だけど、ラケットを持ってダンスしていること自体が“何、あれ”って言われる恐れもありますから。結果としては、全体として“かっこいい、面白い”っていう評価につながって・・・この瞬間に立ち会ったことが一番の思い出でしょうか」■演出家はテニスを知らなかった、だから縛られない自由な発想が出来た実は演出の上島雪夫はテニスをよく知らない。「テニスもそうですが、スポーツ全般わからないし、テニスのルールも未だによくわからないところがあります。だからスポーツのテニスというものにとらわれないで自由に発想出来たんだと思うんです。アニメも詳しくないし・・・。アニメの世界、現実のスポーツの世界、ルールに縛られないでよくわからないままにやったことが結果としてファンに受け入れられたと。だから“やった~”っていうより“よかった~”って(笑)。“パキーン”とか“カキーン”っていう音は作れる?って音響さんにお願いして、凄くマニアックに作ってくれて、照明さんには“玉(ボール)みたいにライトって回る?”って言って・・・努力が報われない可能性ってある訳ですが、でも全員がむくわれて・・・本当によかったって思いましたよ」先入観があると“テニスはこうでなくちゃ”とか“スポーツなんだからこれはおかしい”という邪念が入りやすい。スポーツの世界をミュージカルの手法で、ダンスで表現すること自体が前人未踏の境地、スタッフ・キャストが一丸となって創り上げた舞台なのである。
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