映画『おおかみこどもの雨と雪』 細田守(監督・脚本・原作)インタビュー 後編 | アニメ!アニメ!

映画『おおかみこどもの雨と雪』 細田守(監督・脚本・原作)インタビュー 後編

細田守監督には『おおかみこどもの雨と雪』から、さらに映画持つ意味や今後の取り組みについても伺った。今後の細田監督の活躍を期待させる言葉も多く語られた。

インタビュー
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細田守監督
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映画『おおかみこどもの雨と雪』 
細田守(監督・脚本・原作)
インタビュー 後編


細田守監督には『おおかみこどもの雨と雪』から、さらに映画持つ意味や今後の取り組みについても伺った。今後の細田監督の活躍を期待させる言葉も多く語られた。
[インタビュー取材・構成:数土直志] 

『おおかみこどもの雨と雪』
/http://www.ookamikodomo.jp/


■ 映画を通して観る人がなにを感じるか、その多様性を保証したい

―― 雨君の自立は、10歳ですよね。いまの基準ではすごく早い親離れでないですか?

―― 細田守監督(以下細田)
早いですよね。ただそういう子供はいます。社会的に見れば「自立」は、高校を出てひとり暮らしを始めるときとか、大学を出て就職をして独立だとかね、いろんな考え方があります。
けれど、僕はそうじゃなくて「自分はこういう方向で生きていくんだ」と自分で主体的に決めたときが「自立」だと思うんです。それは18や22という年齢でなくても、早く訪れる人には訪れるんじゃないか。

―― それは現在の世の中も反映しているのですか?

細田
少子化非婚化の社会のなかで、結婚をして子供を育てることが表現として挑戦的ですよね。いまの時流と真逆のところを目指して描いていると思いました。
だからもしもベビーブームが日本で巻き起こっていたら、僕は子育ての話は作らないと思います。

―― いま聞いていると映画の中には社会的メッセージ性もあるのかなと思いましたが、監督は映画を通じてなにか訴えたいといったことは考えられますか?

細田 
ないですね。映画はメッセージのための道具ではないですから。映画を通して観る人がなにを感じるか、その多様性を保証したいと思います。
それが映画の面白さであるし、いろいろな人がいろんなことを思うべきだと。今回の映画は男の人や女の人、未婚の人や学生、結婚している人、子育て中だとか、もしくは子供を作らないと選択した人、子育て終わった人たちとか、それぞれの立場で見え方が全然違うとはずです。ひとつのメッセージに縛らなくて、いろんな人がいろんな見方をできるようにしたいですね。
ひょっとしたら子供のときにこの映画を見た人が、大きくなってこの映画を見たらおそらく見え方が違うはずです。それはとっても楽しいじゃないですか。

hosodakantoku―― そうすると長く見てもらえる映画を目指しているわけですね。

細田 
そうですね。これは親が主人公の映画ですが、必ずしも親の気持ちを子供にもわかりやすく解いてる映画ではないんです。子供のときにこの映画を見た人が、大人になったときにまた違った見方ができたらいいわけです。
『サマーウォーズ』はちょっと違いますね。『サマーウォーズ』は誰でもその瞬間楽しめるようにと心がけたんです。

けれど『おおかみこども』は「親とはなにか?」ですからね。最後のラストシーンも、あれを「充実」と見るか「寂しい」と見るかは人によりけりだと思います。
つまり子育てをして、子供が独立して、それが寂しいという人もいるかもしれない。でもひょっとしたら十分子供が元気に育ったことを喜びと見る人もいるかもしれない。それはその人によるわけです。見た人がそれぞれに思うことに意味があります。

――それは監督のなかでもどちらと決めているわけではないということですね。

細田 
そうそう。同じように雪と雨で生き方が全然違いますが、どちらが正しくてどちらが正しくないということは言ってない。その葛藤はある。
例えば姉弟同士の葛藤があったりとか、花と子供たちの葛藤があったりするかもしれないけど、どちらが正しいという話じゃない。親が正しいとか子が正しいという話ではない。
いままでの子供の映画は、子供が自立する映画で子供が正しいという視点で描かれていると思うんです。つまり親は乗り越えるべき壁で、なにか子供が親とか社会の束縛からどう主張するべきかみたいな子供側からの視点が多かった。
この映画は親視点で描いてるわけで、どちらが正しいと言い切れないわけです。それは親が主人公だからです。


■ 映画の価値はいままで見たことのないことにある

―― 今回親と子の話、前回は家族の話、その前は恋愛の話と思っています。普遍的なテーマが次々と来たのですが、次回作はどうされますか?

細田 
どうしましょうか?(笑) それをいま考えているところです。
毎回チャレンジしていることがあります。『おおかみこども』を作りながら、子供から親を見た映画と子供から社会を見た映画はいっぱいあるけども、親から子供を見たり、親から子育てを俯瞰した映画は本当に少ないと思いました。
誰も描いてない率が高いわけだから描ける可能性があるわけでしょ。その分新しい映画ができる可能性がある。
『サマーウォーズ』も親戚が主人公という映画は本当に少ないと思うんです。よもやアクション映画の主人公が親戚だというのはほとんど唯一じゃないかと。
でもそれが新しいエンターテインメントの可能性を拓く。僕は世の中にはまだまだ描かれてない面白いことがたくさんあると思っている。とくにアニメーションで描かれていないことはいっぱいあるのですごく可能性を感じられるんです。
だから次の作品も新しい表現の可能性、いままで描かれなかったことについて描いていきたい。観てくれる人たちと一緒に、世界の広がりみたいなものを共有したいなと思ってます。

―― 新しいものに挑戦するという気持ちはかなり大きい?

細田 
映画って、とくに、僕らのようなオリジナル映画、ノンブランドで誰も知らない映画は、なにか映画のアイデアに面白さ、挑戦がないと誰も振り向きもしないと思います。

―― 監督がつらいなと思うのは、ターゲットを広くすればするほど多くの人に受け入れて貰わなければいけない、普遍性を求めるとなると取り上げられるものがどんどん限られてくるのでないかと思いました。

細田 
むしろ逆ですよね。映画の価値は有名な原作とか、有名な監督、クリエイターがやっているからじゃない。その映画がいままで見たことがないから価値があるから、でしょう。見たことのない面白さを提供することに価値があると思っている。
そういう価値がみんなと共有できたときに成功するんじゃないか。常に挑戦しないと映画を作る意味がないんですよね。じゃないと誰も振り向いてくれないですよ。
という意気込みがあるんですけど、映画が常に挑戦であることはイコールバクチなので、毎回毎回どうなるかわからないです。
『おおかみこどもの雨と雪』がたくさんの人に観てもらえたので、次の作品を作るチャンスを得ました。期待される方がいれば期待に応えるようにがんばりたいなと思います。

―― 最後にひとつだけいいですか。それがいつ頃ぐらいに出てくるか目算はありますか?

細田 
まったくわからないです。現場のなかでちゃんとした作品にするのには時間はかかると思います。かと言って予算的な問題があるのであまり長くも作っていられない。
しかるべきときにまたみなさんに観てもらえるようになったらいいなと思います。

―― 本日はどうもありがとうございました。

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『おおかみこどもの雨と雪』
/http://www.ookamikodomo.jp/
[キャスト]
宮﨑あおい 大沢たかお / 菅原文太



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2013年2月20日リリース
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