CEDEC 2012: 次世代キャラクターAIの構築に必要な理論と知識とは | アニメ!アニメ!

CEDEC 2012: 次世代キャラクターAIの構築に必要な理論と知識とは

日本が後塵を拝しているこの分野で海外へ向けて盛り返すべく、次世代AIの構築に必要な理論や概念について、スクウェア・エニックスのリードAIサーチャーである三宅陽一郎氏が「次世代ゲームと人工知能」と題したセッションを行いました。

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三宅陽一郎氏(スクウェア・エニックス)
  • 三宅陽一郎氏(スクウェア・エニックス)
  • 次世代キャラクターAIとは
  • 設計の進め方
  • 知性の階層構造
  • 知性の階層構造と反射レベル
  • 知能とは
  • 知能の構造の作り方
  • 高度で多様なAIの作り方
日本が後塵を拝しているこの分野で海外へ向けて盛り返すべく、次世代AIの構築に必要な理論や概念について、スクウェア・エニックスのリードAIサーチャーである三宅陽一郎氏が「次世代ゲームと人工知能」と題したセッションを行いました。

本セッションでは具体的な構築方法ではなく、構築に必要な理論や概念の解説、そしてそれをもとにした構築の手順が示されました。

■次世代AIとは

まずはじめに、氏の定義によれば次世代AIとは

・より深くゲームの世界に参加していく
・環境を認識し、かつ自分自身も認識する
・自意識をもち、自身の身体を感じる
・高度から低度の多岐にわたる意思決定を行う

とされています。こうしたAIと接することで、ユーザーに新しい感覚を与えることができるとしています。

■設計の進め方

設計を進める際には、AIに想定されるストーリーリストをメンバーでリストアップしていくことが必要とされます。ストーリーリストとは、AIの動作を具体的に記述したもので、プログラマーやデザイナーなど、職種に関係なく持ち寄ってリストアップしていきます。例えば、

・風の向きを認識して風上から火を放って敵を攻撃する
・翌日が休みなので、金曜日は飲んで帰る
・枝を集めて仲間と一緒に自分自身で巣を作る

といったストーリーリストを100~200程度集めてから、具体的な作業にうつっていくようにするべきだということです。

■知能における情報の流れ(インフォメーションフロー)とは

そもそも知能は、下層から「世界」「身体」「知性」「無意識」「意識」という5つの階層から成り立っています。

「世界」から何らかの刺激を受けることで、3つの階層を通り、「意識」まで到達したところで、意思決定を行い、「世界」に向けて行動が実行されます。しかし、全ての行動が意思決定を基準とするものではなく、「身体」や「知性」で感じた刺激がそのまま「反射」として実行されることもあります。(スライド画像参照)

このように、各階層ごとに環境から得た情報をもとに行動(反射)できると同時に、上位の階層の命令を受け入れることもできるという知能の構造を「サブサンプション構造」といいます。

以上のことから三宅氏は知能の構造の作り方としては

1、「身体」レベルの反射や自動制御を作る
2、「知能」における反射システムを作る
3、意思決定のシステムを作る
4、それらを多層的に組み合わせる

ことで、人間の知能構造に近い構築が可能だとしました。

■知覚と作用

例えばAIがオブジェクトを発見した際、どのようなことを知覚するのでしょうか。スカイを例にした、三宅氏による知覚の分類は以下の4つになります。

・対象の性質・・・物質固有の性質(大きい、緑色、丸い)
・クオリア・・・主観的な感覚(つやつや、いきいき、おいしそう)
・アフォーダンス・・・行為の可能性=「~ができる」(「食べることができる」「転がすことができる」「叩くことができる」)
・行為のヒントとなる情報(「ここを叩けばいい」)

生物は知覚により、身体による行為の創造(叩く、食べる、転がす等)をします。すなわち作用するということです。つまり知覚器官と作用器官の双方によって対象(オブジェクト)を捉えているのです。これは昆虫なども同じで、あらゆる生物にあてはまります。これこそが「現実(主観世界)」の構成要素であり、この世界を「環世界」といいます。

また、生物と対象には「感覚と実行の環」ができています。つまり、生物は最初に知覚し、なにがしかの行為をし、その対象の特性などを感覚として蓄積していきます。その最たる例は赤ちゃんです。触る、叩くといった原始的な行為を組み合わせたり、道具を使用することで高度化していきます。同じく感覚も、原初的な感覚を組み合わせていくことで高度化していきます。この高度化こそが生物の知的高度さを表しています。

高度で多様なAIも、同じように作成することができます。まずは、原初的な感覚から高度な感覚を構成し、同じく原初的な行為から高度な行為を構成します。つまり、認識アルゴリズムは知識ジェネレーターであり、意識決定アルゴリズムは行為ジェネレーターと同義になります。

先ほどの解説どおり、生物は感覚器官と作用器官によって環世界(主観世界)を構成しています。ゲームで例えるなら、オブジェクトも、空間も、状況も環世界を構成する要素であり、多層的な構造になっています。

三宅氏は情報の構造のつくりかたとしては、

1、オブジェクト・状況・環境に対する知識表現を作る
2、知覚表現・作用表現の2種類を作る
3、AIに扱わせたい対象はできるだけ表現する
4、それらがAIの主観世界(環世界)を作成する
5、高度な主観世界を作るには、高度な知性を作る

という順序で構成していけば良いということです。

■AIの思考について

ゲーム分野においてはマシンの持つ意識(Machine Consciousness)についてはあまり研究されてきませんでしたが、最近は盛り上がりつつあるということです。そこで、三宅氏はゲーム分野のAIについてもMCを考えていくべきだと指摘しました。現在発売されているFPSのAAAタイトルには黒板モデル(=ブラックボードアーキテクチャ)が用いられているということですが、どのように、システムを構築すればいいのでしょうか。

三宅氏によって詳しい説明がされた理論は「Global Workspace Theory(GWT)」です。この理論をもとに、まず始めにステージ(ワーキングメモリ)をつくります。この領域に、アテンション(注意の対象≒モンスター、オブジェクト、状況など)が存在します。次に、思考をできるだけ小さな単位に分割した「プロセッサー」(=黒板モデルではKnowledge Source(KS)と呼ばれる)として実装します。そして、センサーから注目するオブジェクトを実際に書き込みます。最後に特定のオブジェクトと特定の「プロセッサー」が結びつくようにして、「プロセッサー」同士が連携できる仕組みを考えていけばよいということです。

しかし、実際には注意物は一つではありません。多くの対象が環世界に存在するので、上記で作り出されたステージを複数用意することで、複数の注意物を相互補完することが可能になります。

■世界と身体の情報の流れ

まず、「世界(環境・オブジェクト)」の知識表現は意識から作用対象として見える世界の像と、世界・無意識から意識に与えられる世界の像、表現の2種類があります。つまり、冒頭でも登場したインフォメーションフローと同じ構造になるということです。

世界の表現は多層的(=マルチレイヤー構造)な表現になります。また、それぞれの階層で、作用としての表現と知覚としての表現があります。意識に近い表現ほど、「抽象・簡単化」され、世界に近い表現ほど、「具体・複雑」になっていきます。そして、この世界の知識表現と、全く同じ構造になっているのが「身体」の知識表現です。

世界と身体の知覚表現・作用表現を同じ階層化表現にし、各階層で身体と世界の表現をくみあわせることで、各階層の思考のために土台ができあがっています。

■記憶の構造とは

最後に解説された記憶の構造ですが、まず、「AIの思考について」の項で説明された「ステージ」に登場した注意の対象についての記憶をワーキングメモリ(記憶の海)にスタック(保存)します。スタックされた記憶は、例えば同じモンスターに出会った際にはその都度スタックされていきます。再び同じモンスターと出会うと、そのモンスターと戦った記憶がワーキングメモリからマッチングされ、記憶がリコール(呼び出し)されます。一つ一つの記憶は、あくまでステージ上でアテンションされた存在なので、ある対象物に対する記憶から得た知識は、専門家が受け持っていると見なすことができるということです。

また、人間の記憶の特徴として、マルチスケールな記憶システムの構造があげられます。一度「ワーキングメモリ」にスタックされた記憶は、「短期記憶」「長期記憶」「固定記憶」とより確実な記憶になっていきます。ワーキングメモリに存在していた記憶が、「短期記憶」になり、リコールを繰り返すことで定着化していきます。

このことから実際にゲームのAIに生かすには、

1、ワーキングメモリ~固定記憶まで複数の記憶領域を用意する
2、ワーキングメモリには知覚した(ステージに乗った)情報を、時刻情報を付けて書き込むみ、必要な情報も付加しておく
3、「ステージでフォーカスされたアテンションの対象」に対応する情報を持つ記憶をリコールし、対象に情報を追加する
4、ステージ上の対象に知識が追加されたら、その知識を再びワーキングメモリに取り込む。この作業を繰り返し、記憶の流れを作る

といった作業が必要になります。

最後に、三宅氏はも言ったように、「今回のセッションはAIを構築するにあたり、必要な概念を伝える」という内容でした。実際の構築作業などについては、11月開催予定のスクウェア・エニックスオープンカンファレンス等でも講演があるということなので、興味のある方は、参加してみてはどうでしょうか。

【CEDEC 2012】次世代キャラクターAIの構築に必要な理論と知識とは

《宮崎》
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