(インタビュー:2008年3月) ■安藤真裕(あんどう・まさひろ) (アニメーター、演出家)『ストレンヂア 無皇刃譚』監督。アニメーター、演出家。アクション描写には定評がある。作画の代表作は『GHOST IN THE SHELL』、『新世紀エヴァンゲリオン』、『COWBOY BEBOP 天国の扉』、映画『クレヨンしんちゃん』シリーズなど。演出の代表作は、『ラーゼフォン』、『WOLF'S RAIN』、『鋼の錬金術師』など。■『ストレンヂア 無皇刃譚』 公式サイト http://www.stranja.jp/2007年9月に劇場公開した『ストレンヂア 無皇刃譚』は、完全オリジナル時代劇アニメとして注目を浴びた。『鋼の錬金術師』、『交響詩篇エウレカセブン』等、ハイクオリティな作品で定評のあるアニメスタジオBONESが制作を手掛けている。実写を超えるアニメならではの躍動感溢れるアクション、そして繊細な物語、怒濤の勢いで突き進むラストまでの迫力ある世界が描かれている。1. 戦国時代に刀に封をした男の物語 アニメアニメ(以下AA) まず、映画のタイトルから伺っていいですか。『ストレンヂア』というタイトルは非常に印象深いのですが、どこから出てきたのですか?題名に対する思い入れの様なものがあるのでしょうか。安藤監督(以下安藤)『ストレンヂア』は、かなり最後のほうで決まったタイトルです。『無皇刃譚』だと音で聞くと分かりづらいというので、幾つかあった候補から選びました。『ストレンヂア』は、ストレンジャーのことですが、それを少し変えてチに濁音という引っ掛かりが凄く面白いなと思ったのが選んだ理由です。AA それは主人公の名無しを指すのでしょうか。監督 直訳したら異邦人のことで、名無しのことであり、羅狼であり、仔太郎です。この3人の話です。それと異邦人の「ストレンジャー」と奇妙なという「ストレンジ」を少しかけています。戦国時代に刀に封をした奇妙な男・名無しのことを指しています。AA 今の話ですと『無皇刃譚』は最初からあったわけですが、この企画の最初の立ち上がりはどういったものだったのでしょうか。監督 企画は5年ぐらい前に、「何かない?」「一週間やるから出せ」と言われて、僕がその時出した時代劇です。男と少年の話で、ふたりが何かに巻き込まれて物語が膨らんでいく話だけです。時代劇、アクションをやりたいというのがありました。タイトルは大切と思いましたが、『無皇刃譚』は読んで字のごとくです。戦国時代に朝廷の力が弱くなり、群雄割拠した時代の刀の話です。それと羅狼と名無し、どちらも王になろうとしない、どこの王にもつこうとしない二人の男の刀の話です。あの時代の少しはずれたストレンヂアというのがあります。2. いまのアニメの表現と技術で時代劇を創る AA 5年前に言われた時に、すぐに時代劇が出てきたのはどうしてですか。監督 前々からやってみたいというのがありました。時代劇をアニメーションの表現でやってみる、今までの時代劇とは違うものをアニメーションの技術でやってみる、新しい感じで作れないかというのがありました。AA 多くの人が、時代劇をアニメでと言うと驚くと思います。でも、映画を観た時に、こういう大きな殺陣というのはアニメ向きなのだと判りました。時代劇の企画を出した時の周りの反応はどうでしたか。監督 「何でアニメで時代劇?」というのが大多数でした。僕はいままでアニメーターとしてやってきた中で、今のアニメの技術で実写と違うリアリティが表現出来ると思っていました。昔の『カムイ伝』や『サスケ』の様なものを今の技術でやると面白いものが出来る、そうしたノウハウやリアリティを今のアニメは持っている。それは僕が思っているだけで、「アニメで時代劇、なのに怪物も出て来ないの」という反応は結構ありました。監督 企画が実現したのは、プロデューサーの南(雅彦)さんが直感で面白いと思ってくれたのが大きかったですね。出来てみれば分かるのだけれど、かなり最後までそうした見方はありました。AA お伺いしようと思っていてちょうど話がでたのですが、『カムイ伝』とか『サスケ』、あるいは『カムイの剣』とか、今までの時代劇アニメは意識されたのですか。監督昭和40年代にやっていた『カムイ伝』や『サスケ』は観ていました。中学生とか高校生の時に観た『カムイの剣』は、凄く意識はしていました。あれから20年近く経ちますが、『カムイの剣』は妖怪も魔術も出てこない最後の時代劇だったと思います。そこから何本か時代劇アニメは出て来ているのですけれど、純粋な時代活劇としてのアニメは『カムイの剣』が最後ですね。僕は妖怪が出なくてもあれだけのものが出来るのだというのが学生の頃あって、それをどこかでもう一度表現したいなというのがあったんです。アニメ作品に思い入れがあるとすれば、時代物では『カムイの剣』ですね。3. 作画、アクション、カメラワーク AA 映画を観ていていると人の吐く息や、それと雪や雨など自然の表現が非常に緻密ですが、あれはかなり意識されているのですか。監督 それはあります。吐く息は作画で描いて、撮影でしてもらっています。雪は撮影で行っています。寒さですとか、季節感の表現はかなり気をつけてやった部分です。雪の表現も、結構こだわってやっています。雪の中でのチャンバラをやってみたかったのです。実写映画でもあまり表現がありませんから。AA 実写の時代劇が好きであるとか、念頭にありましたか。監督 好きで観ていました。ただ映画を作る時は、好きだけでない部分もあります。実写の時代劇だけにこだわるとそれを超えられない部分もあります。アクションの作りでは洋画のアクションも参考にしました。AA 非常にアクションが早くて次々に展開していきます。普通の時代劇の動きとも違うように感じるのですが。あれはどうやって考え出したのですか。監督 スピードというのは、今回かなり意識した部分です。あえて誇張した感じで、目に見えないスピードを描き、お客さんに緊張してもらいたい。見えないスピードで動いて、ポイントごとで重さや、すっと目の前に刃物が来る様な、そういう演出をするためのスピードは意識しています。監督 ハリウッド映画の『マトリックス』に代表されるように、ブレッドタイムと呼ばれる3Dのスローモーションで、映像をいいポーズの時にスローモーションで回り込んで見せるというのが7、8年前から流行っているのですけれど、あれは嫌だなというのがあったんです。アクションの快感性が、動きが止まると殺がれているなと。本当のアクションの快感ってそういうものでないとアニメーターをやった時に考えていたので、それをやってみたいなというのがあったんです。AA カメラワークで気になったのは、引きとは違った遠くからのぞき見たようなものが多かったように感じるのですが。監督 観ているお客さんがその中に入っていける感じでカメラを置いています。人目線は、意識はしていますね。どうしても映画の構造なので引き気味にはなるのですけれど、カメラが実写と同じで置かれてやっているというのは意識しています。そこで嘘をつくとリアリティが失われてしまいます。
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