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映画評 『REDLINE』

映画評 『REDLINE』。文;氷川竜介(アニメ評論家) ときめきながら待ち続ける観客たちの前で、四輪マシンの激しいデッドヒートが始まる。限界までスピードを極めようとする

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文;氷川竜介(アニメ評論家)

 ときめきながら待ち続ける観客たちの前で、四輪マシンの激しいデッドヒートが始まる。限界までスピードを極めようとするレーサーたちの心意気に充ちた走り。さまざまな異星から集結した特徴ある車の動きは、空間を切り裂いて歪ませ、鋭く荒々しい軌跡は視覚を引っかき回して、脳内にある堅い拘束を解放する。重低音の音楽の響きが観客の全身を震わせ、車体の振動や舞い散るリズムと溶けあったとき、思わず笑い泣きしたくなるような共鳴の感動が身を包み、脳内が何か怪しい「汁」で充たされる心地よさを覚える。
 そんなワクワクする快楽と解放感を同時に与えてくれるのが、石井克人原作・脚本、小池健監督の『REDLINE』というアニメ映画である。10万枚という非常識な作画枚数を、使うだけ使いきって、まさに純粋な「アニメーションだけが可能とする刺激と快楽」だけをエキスとして絞りとったような作品だ。
 必ずどこかが黒ベタで塗りつぶされたコントラストの濃い画風。背景も美術ではなく、パキッと彩度の高い作画を主体に描かれている。これに日本のアクション&エフェクト作画を変えた金田伊功流の直系にあたる作画が加わって、一気にテンションが高まる。強調された遠近パース、1コマ単位で激しいアクセントを刻む緩急のタイミング、生き物のように軌道を変えるビームや膨れあがってうねる爆発と煙などなど、全体の大きなパートを占めるレースシーンは、まさに乱痴気無軌道な「お祭り騒ぎ」のパーティーである。

 木村拓哉、蒼井優、浅野忠信と、キャストは話題性豊富。ストーリー展開も実にシンプルでストレートだ。格好いい男が可愛い女のため、四輪レースで勝とうと疾走する。すべてはこれに奉仕するためだけに構築されたデコレーションではある。しかし、バカだ、中身がないというのは、この作品の場合、ぐるっと回って褒め言葉に逆転する。そこまでのバカを高純度で極めたアニメ映画が、過去どれくらいあったというのだろうか?
 たとえばありがちな感想として、「格好いい『チキチキマシン猛レース』だね」と、常套句のように言われる。だが、スピード感を限界まで極めて、まるでその速度を体感したかのように魂で感じられる『チキチキ~』が、どこの世の中にあるというのだろうかと、逆に問いたいくらいだ。常識の尺度からはバカげてあり得ないことにこそ、徹底して生命を賭ける価値がある。その純粋さこそが美しく輝くはずだ。このことは、作中で描かれる内容と響き合ってシンクロしている。小賢しく整ったアニメは他にあるから、別にいいじゃないか……とさえ思えてくる。

 本来、アニメーションとは、現実の不可能性を突破する奇跡を描く芸術であった。その限界を突破するエネルギーの源泉となる驚きは、フィルムのコマとコマの間の見えない世界にこそに潜んでいる。この映画は、何もかもが規格外でバカげている。それ積み重ねることで、そうした「アニメの本質」に迫っている。「これがアニメなんだ」という原点を、動きの快楽で触発しつつ、思い出させてくれるという点で、実に貴重な作品なのである。

『REDLINE』 公式サイト ht/tp://red-line.jp/
《animeanime》
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