「アニメ先進国日本の課題」東京国際アニメフェアレポート  | アニメ!アニメ!

「アニメ先進国日本の課題」東京国際アニメフェアレポート 

■ アメリカとは異なる「アニメ先進国」

 東京国際アニメフェア2008のシンポジウム「アニメ先進国日本の課題」と題された講演が行われた。 登壇したのはマッドハウスの元代表取締役で、2007年8月に『アニメビジネスがわかる』を著した増田弘道さんである。ビジネ

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■ アメリカとは異なる「アニメ先進国」
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 東京国際アニメフェア2008のシンポジウム「アニメ先進国日本の課題」と題された講演が行われた。 登壇したのはマッドハウスの元代表取締役で、2007年8月に『アニメビジネスがわかる』を著した増田弘道さんである。ビジネスデーということもあり、会場には多くの業界関係者が詰め掛けた。

 まず増田さんは「アニメ先進国」日本について、アメリカとの違いを述べ、追いかける存在がなくなってしまったことを指摘する。
 また、少子高齢化という消費構造を直面する問題や制作のデジタル化など、アニメビジネスにおいて世界中で誰も経験していないことが起きていると述べた。このため日本のアニメ業界はキャッチアップ型からフロンティア型へ意識転換が必要であるという。

 増田さんによれば、ずっと右肩上がりで成長し続けたアニメ産業にここ1年間ほどは停滞感があるという。これは新しい局面に入ったことの表れであると考えている。この対比として増田さんはアメリカのアニメーション産業の盛衰を紹介した。
 アメリカにおけるアニメの黄金時代は1930〜40年代、ディズニーやトムとジェリーなどのキャラクタービジネスが隆盛を誇った時代であるという。その後だんだんと下り坂に向かい、1966年にウォルト・ディズニーが亡くなったことが象徴的なこととなった。

 90年代にディズニーの2Dアニメーションが復活し頂点を迎えたが、95年に『トイストーリー』が出現すると、2Dと3Dアニメーションが併存し、2000年代になると多くのメジャースタジオが3Dアニメーションを製作するようになった。
 2006年には、3Dの劇場作品版が13作品も作られるという隆盛ぶりである。このように盛衰を繰り返したアメリカが抱えた課題と解決に、現在の日本のアニメ業界は学ぶ必要があることを述べた。

■ 携帯向けアニメビジネス
 シンポジウムは、続いてデジタル化による流通の変化について話が進んだ。現在、携帯電話向けアニメの配信が急激に伸びているという。
 増田さんは、携帯電話向けアニメ配信サービスを行うフロントメディアの顧問を務め、業界が立ち上がった最初期2006年3月からこの事業に携わっている。当初はパケット放題が浸透していない状況で同業は皆無であったが、現在、25の公式サイトが事業を行っているという。

 売上が大きく伸びたのは2007年中盤からで、『新世紀エヴァンゲリオン』の劇場版のプロモーションをとして配信したところ45日間で100万回以上のアクセスを記録したそうである。
 有料携帯アニメサイトで、現在最もアクセスが大きいのは、東映アニメが運営する「ドラゴンボール☆ANIMO」という単体のチャンネルである。また5位には同じく「スラムダンク」のチャンネルが入っているほか、20位以内に東映アニメの6作品が入っている。この成功要因として、東映がまだまだ認知度が低い携帯アニメに対して、きちんと資本を投じてプロモーションを確実に行った結果であると分析する。

 また、携帯はユーザーの移り変わりが早いため、早くも作品のマルチユースが行われ、一つの作品が様々なチャンネルで見ることが出来る状況にあるようだ。
 最近、ニコニコ動画がiモードの公式メニューに登録されたことで、携帯アニメ業界にも波紋が広がっており、キャリア側の判断が待たれる状況だという。

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■ 著作権ビジネスの課題点と海外市場
 増田さんは表現の可能性を認めたうえで、著作権問題を解決していく必要があると述べた。アメリカでは日本よりも著作権法が細かくない。事業当事者間がそれぞれのケースに応じて細かな契約を結ぶため、自分たちの判断でビジネスを行えるという。
 違法配信で最も怖いのは、コンテンツに対して対価を払う感覚が無くなることであるという。現在のDVDビジネスにおけるボリュームゾーンは30代とされており、これ以降の世代になったときに対価を支払う習慣がないと、ビジネスモデルが崩壊するという。中国が大きな市場を持っているにもかかわらず、ビジネスにならないのはこうした理由によるという。

 また、現在の少子化において、海外ビジネスによって国内市場を補うのは必須であるとする。日本の現場モデルは世界最高レベルにある一方、海外向けのビジネスにはまだまだ改善の余地が大きいという。
 増田さんの試算によると2005年の場合、海外から日本に入ってきた(ライセンス料などの)金額は220億円程度であるという。今後は、こうしたビジネスの交渉力が必要であると述べた。

■ デジタル制作がもたらすもの
 増田さんは現在、アニメのフロンティアをデジタルに求めている。デジタル化により制作スタイルが変化し、従来のように必ずしもスタジオに入って学ばずとも、商業アニメが作れるようになったため、2000年前後から新しいアニメ制作会社が生まれてきている。
 こうした独立系の制作者により、新しい創造性がどのように生まれるか期待が持てるという。しかし、これらの作品がメジャーなものになるには30分作品を1年分作れる程度の生産性が必要であるという課題がある。

 ただ、これらは減りつつあるマンガ原作や、固定化したスタジオの系列化を打ち破るもので、大きな期待を感じると述べた。
 さらにこれに限らず、全く新しい時代に向け、業界全体でイノベーションを行う必要があると述べ、話を締めくくった。
[日詰明嘉]

東京国際アニメフェア2008公式サイト /http://www.tokyoanime.jp/ja/

増田弘道さんのブログ「アニメビジネスがわかる」 /http://anime.typepad.jp/blog/
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