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2008.06.03
展覧会 ]
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saigo.JPG 5月24日から7月6日まで、東京・上野の森美術館で「井上雄彦 最後のマンガ展」が開催されている。『SLAM DUNK』や『バガボンド』で知られた人気マンガ作家井上雄彦の大規模な展覧会である。人気作家一人のために美術館をまるごと使用、そして衝撃的なタイトルと話題性も豊富で、連日多くの人で賑わっている。
 しかし、展覧会の最大の見所は、今回の企画があらゆる点で、これまでのマンガ作家の展覧会の常識を打ち破るものであることだ。展覧会と呼ぶことすら、誤解を招くのでないかと思える。「井上雄彦 最後のマンガ展」は、マンガ表現を全身で感じるイベントだからだ。

 一般的な展覧会の目的は、作家の世界観や作品、歴史、あるいは社会における影響から文化的な側面などの紹介である。そのため様々な説明が与えられる。ところが「井上雄彦 最後のマンガ展」では、この印象的なタイトル以外の情報が会場で一切与えられていない。展覧会で必ず見られる作品タイトルや説明、展覧会の趣旨、主催者や作者の挨拶すら存在しない。
 来場者は、展示場に入っていきなり水墨で描かれた巨大な宮本武蔵の姿に出会う。これさえも『バガボンド』に馴染みのある人にこそ宮本武蔵とわかるだけで、そうでなければ誰であるかすらわからないだろう。

 そこから物語は始まる。そう「井上雄彦 最後のマンガ展」は、まさに物語である。今回の展覧会のために描き起こされた100枚以上の原画は、物語に沿って並べられ進んでいく。
 そして、井上雄彦やその作品を知る人も知らない人も、そのままぐんぐん「井上雄彦 最後のマンガ展」に引き込まれていく。空間のなかに取り上げられた原画は、よく見慣れたマンガ原稿の体裁から、縦横数メートルの巨大なもの、時には美術館の壁に直接描かれたもの、とにかく自由である。

 大きな空間での表現、その場限りのライブ感、この展覧会は、2004年に三浦市の廃校で『SLAM DUNK』の後日談を黒板に描いたイベントの系譜にある。しかし、今回の表現方法は、この『SLAM DUNK』の後日談からさらに大きく発展している。
 その表現への驚きは最初の宮本武蔵の姿に出会った時だけなく、展覧会を通じて続く。そして、後半に行くに連れてさらに加速する。そこにはこれまでの「マンガ」と異なった経験が存在する。全身で体験するマンガだ。説明はいらない、展覧会を見終わった誰しもが、井上雄彦の思いを感じるに違いない。

 もともと、マンガはメディア芸術のなかでも、表現手段の不自由なもののひとつである。(マンガを芸術と呼べることを前提だが)つまり、多くの作品は本のサイズによって大きさを制限されているし、掲載一回分の長さも制限されている場合がほとんどである。さらに、プロの作家であれば、多くの場合は商業マンガとなる。エンタテイメントであること、読者の支持を得ることを常に求められている。
 井上雄彦は、今回、この二次元の書籍という体裁に縛られたマンガ表現を飛び越える挑戦を行っているのだ。こうした挑戦が成功したかどうかは、会場に訪れたそれぞれが判断することになる。

 展覧会終了後に、今回の作品は出版物としてもまとめられる予定だ。しかし、おそらくそれは今回の『井上雄彦 最後のマンガ展』とは異なる別の作品になるのではないか。展覧会の経験と書籍としての経験、それはまた別の作品だろう。
 だからこそ、井上雄彦ファンは勿論、広いマンガファン、そしてマンガファン以外の人達にも、もし少しでも機会があるのなら『井上雄彦 最後のマンガ展』を訪れることを薦める。そこにでは、今後二度と経験できない『井上雄彦 最後のマンガ展』という空間によるマンガ表現が待っている。
 そして、展覧会の最後には、今回与えられた唯一の手がかりである「最後のマンガ展」というタイトルの意味も理解出来るだろう。
[数土直志]

「井上雄彦 最後のマンガ展」
http://www.ueno-mori.org/special/2008_inouetakehiko/index.html

続きを読む "「井上雄彦 最後のマンガ展」は体験するマンガ作品" »
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2008.02.07
展覧会 ]
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 第11回文化庁メディア芸術祭が、東京・六本木の国立新美術館で2月6日から開催されている。アニメーションの分野では『河童のクゥと夏休み』が大賞に選ばれた。このほか、優秀賞には『うっかりペネロペ』や『天元突破グレンラガン』、『電脳コイル』、『カフカ田舎医者』、『ウシニチ』が選ばれている。
 推薦作品も含めて、テレビから映画、ロボットアニメからアートアニメーション、教育アニメ、インディーズ作品まで、メディア芸術祭の特色である既存の境界を越えるは今年も健在である。

 明らかに展覧会の特色は、アートとエンタテインメントを中心としたこの境界線の曖昧さだ。ファインアートからサブカルチャーまで幅広い作品をメディア芸術として同じ枠で並列的に扱う。それにより、これらが本来は等価であることが表れる。
 つまり、文化庁メディア祭の会場では、現代アートもエンタテインメントとして楽しめる。一方で、子供たちの楽しみであるゲーム映像のなかにも視覚的なアートが内在することがわかる。

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 アートとエンタテインメントが個々に取り上げられる時は、その違いは判りやすい。しかし、同時に並べられ同じ文脈で語られる時に、その違いはむしろ判らなくなる。
 文化庁メディア芸術祭は、これを明らかにする。ここではアートとエンタテインメントが同時に存在するだけでなく、ふたつの両極の作品から中間領域にある、例えばアートアニメーションでありながら商業公開される『カフカ 田舎医者』のような作品が不断に続く。その結果、両者の境界の存在は失われ、そもそもふたつに違いがあるのかすら判らなくなる。
 しばしば文化の世界には、ハイカルチャーとポップカルチャーの区別、あるいは差別が存在する。しかし、文化庁メディア芸術祭はそうした区分に挑戦し続けている。

 しかし、こうした攻撃的な正の効果の一方で、今年は同じ試みが負の効果も与えているように感じた。全ての作品が同じファーマットで展示されることで、それぞれの作品が持つ個性が削ぎ落とされてしまっているからだ。それは特にアニメーションやゲーム、マンガといったサブカルチャーと呼ばれる分野の作品に感じられる。
 きれいに区分され過ぎてしまっていると言っていいかもしれない。例えばひとつのマンガに「マンガ・ストーリーマンガ」とラベルが貼られてしまった段階で、その作品から何か重要なものが失われてしまうのでないかと感じるのだ。

 個々の作品がアートとして展示されることで、作品に新しい光があてられ、新しい発見が起こる面白さはある。
 しかし、本来、時代や社会と密接に絡み合う作品が、社会的な環境から切り離されることで、作品の持つ雑多感が失われる。結果として、今回、メディア芸術として作品が評価されたそもそもの理由である、作品の持つ全体的な状況の一部が欠落してしまっている。
 こうした正と負の効果は、トレードオフの関係にあるのかもしれない。しかし、11年目を迎えたメディア芸術祭は、これを乗り越えることが出来ればさらに発展するに違いない。
[数土直志]

第11回文化庁メディア芸術祭 公式サイト http://plaza.bunka.go.jp/

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2008.01.22
展覧会 ]
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 1月22日から東京アニメセンターで開催されている「追悼展示会アニメーター逢坂浩司展」に行ってきた。この展覧会は、昨年9月に逝去されたアニメーター逢坂浩司氏を追悼するため昨年12月杉並アニメーションミュージアムで開催されたものを再構成したものである。
 今回は東京アニメセンター内というスペースの制約があるため、決して規模の大きいものではない。しかし、展示会の内容は充実したもので、生前の逢坂浩司氏の業績を振返る点で見所の多いものであった。

mrosaka1.JPG 展示はふたつのパートに分かれており、ひとつは逢坂浩司氏に生前に縁があったかたがたのメッセージである。
 どのメッセージも氏の突然の不幸を悼むと伴にその人柄を懐かしむもので、逢坂氏の暖かい人柄が伝わってくる。

 そして残りのパートは、同氏の代表作『機巧奇傅ヒヲウ戦記』、『機動戦士Vガンダム』、『獣王星』、『機動武闘伝Gガンダム』、『絢爛舞踏祭 ザ・マーズ・デイブレイク』、『天空のエスカフローネ』、合計で6作品の版権イラストの原画展示になっている。作品ごとに3点から5点ぐらいが展示をされている。
 
 版権イラストは、作品の中ではなく、雑誌の表紙やポスター、DVD・CDジャケットなどのために特別に描き下される絵のことを指す。今回はその版権イラストの原画だけが集められている。
 こうした版権イラストは、画集など以外ではまとまって目にすることがない。また、そうした場合も、彩色され完成したものがほとんどである。今回のように一人のアニメーターの版権イラストが、手描きの線が残る原画のかたちで見られる機会はほとんどない。
 しかも数にして20数点だが、そのどれも驚くほど素晴らしいものばかりで、逢坂浩司氏のアニメーターとしての実力にあらためて驚かされた。
 
mrosaka2.JPG まるで今にも動き出しそうな活き活きとしたキャラクター、微妙な構図ひとつひとつにキャラクターの性格や作品の持ち味が凝縮されている。
 展示された作品は、子供向けの『ヒヲウ戦記』、アクション中心の『Gガンダム』、少女マンガのスタイルを活かした『獣王星』など非常に幅の広い作品群だ。逢坂浩司氏はその全てに相応しい絵を与えながら、「逢坂浩司」という個性が見事に貫かれ表れている。

 アニメーションはその語源がアニマ(魂)=生命の動きから由来するように、海外でも国内でもアニメーターの技量というと専ら動きが重視される。
 しかし、日本式リミテッド・アニメの最大の特徴はストップ・アンド・ムーブなのだから、日本のアニメーターの技量は絵を動かせると同時に、絵が止まった時に魅力的に決まるキャラクターデザインと画面の構成力が重要なのでないかと思う。

 版権イラストは、まさにアニメの絵を止めた時に、キャラクターを魅力的に生き生きと描くものだ。単なるイラストではなく、動かない絵の中に作品世界が凝縮したもの、動きのないアニメそのものなのだ。日本にはこうした版権イラストを魅力的に描く優秀なアニメーターが多いが、逢坂浩司氏は間違いなくそのトップのひとりだった、と展示された原画をみながら感じた。
 そして、日本のアニメ界の失った損失の大きさと同時に、逢坂氏の残された作品の量と内容の素晴らしさに気づかされる。

 今回展示されている原画は、スペースの関係から期間中に入替えを行うという。また、そのなかには、杉並アニメーションミュージアムでは展示されなかったものも含まれる予定である。出来れば何度もでも足を運びたい展覧会だ。
[数土直志]

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『追悼展示会アニメーター逢坂浩司展』
http://www.animecenter.jp/jp/200801/21190423.php
場所:東京アニメセンター http://www.animecenter.jp/jp/
会期: 1月22日(火)~2月17日(日)
[休館日:1月28日(日)、2月7日(木)、8日(金)]
時間 11:00~19:00
入場料: 無料

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2004.12.20
展覧会 ]
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 ジブリ美術館は、宮崎駿監督作品を中心とした作品世界の再現と、アニメーションの歴史や制作といった世界の紹介で知られている。ジブリ美術館の経営母体はやや複雑である。当初、徳間書店と株式会社ムゼオ・ダルテ・ジブリが美術館施設の建設を行った。それを三鷹市に寄付した後に、さらに三鷹市が徳間書店の設立した財団法人徳間記念アニメーション文化財団に運営を委託している。 
 通常、美術館の運営というと美術品の展示ばかりに目が行きがちだが、実際の美術館の重要な役割にはコレクションの収集・収蔵や研究活動が含まれる。そう思って財団法人徳間記念アニメーション文化財団の年報を調べてみると、ジブリ美術館の展示品運営以外の活動が色々と判り面白い。

 研究活動では『日本のアニメーション・スタジオ史』と題した戦前から現在に至るまでの日本のアニメーションスタジオの変遷の調査を行っている。また、2003年度は企画展に合わせてロシアのアニメーションの研究を行っている。さらに、収蔵品の検討のために大正・昭和時代の国内アニメーションの調査を行ったとしている。将来的に、日本のアニメーション創生期の作品フィルムの収集を検討しているようだ。
 
 そのコレクションであるが、主なコレクションはジブリ作品を中心としたアニメ制作に用いたイメージボードや原画、セル画、背景とフィルムコレクション、さらにロシアのアニメーションのフィルムコレクションの充実が目を惹く。このロシアアニメーションについては、平成15年度の新規購入作品にアレクサンドロ・ヴィノクロフの『雪の女王』のイメージボードがありこの分野への力の入り具合が感じられる。
 ジブリの関係のコレクションでは、15年度にスタジオジブリから『千と千尋の神隠し』を中心に大量の原画、背景が寄託されている。しかし、既存の収蔵品を含めても『風の谷ナウシカ』や『天空の城ラピュタ』といった古い作品の収蔵作品は意外なほどに少ない。初期のジブリ作品のセル画や背景は、ファン向けに販売が行わるなどされたこともあり、かなり多くの資料が散逸してしまったのかもしれない。
 こうした研究やコレクションの成果は、美術館を通じてまた公開されるのだろう。これからも、ジブリ美術館の地道な活動を楽しみだ。

ジブリ美術館 

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2004.10.06
展覧会 ]
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 東京:上野の国立科学博物館で開催中の『テレビゲームとデジタル科学展』は、今や世界中の子供たちに馴染み深いTVゲームをコンピュターの誕生から現在までの流れをその当時のPCやゲーム機の展示と伴に追っていくものである。TVゲーム発展の歴史を掴むに相応しい企画であった。

 この展覧会の感想を一言で表現するなら『ゲーム機の墓場』である。これは、展覧会をネガティブに捕らえているわけでない。ゲーム機の歴史を辿るこの企画は、意図されたかどうかは判らないが、歴史の表裏の関係でゲーム機メーカーの興亡史ともなっているためである。
 実際、現在、世界市場にて販売されているゲームコンソール機が、事実上ソニーのプレーステーション2と任天堂のゲームキューブ、マイクロソフトのXボックスだけであることを考えれば、展示場に並べられた何十台ものゲーム機のほとんどが今では使われなくなったゲーム機である。そこにあるインベーダゲーム、パックマンからセガサターン、3DO、ピピンといった数々のゲーム機はどれも一時は世の中を賑わしたものだが、今やその歴史的役割を終えている。それらの機器が暗い展示場にスポットライトを浴びて、かつての栄光を誇示するかのように浮かび上がっている。そして、横に並べられた解説のプレートはまるで墓標のように写っていた。

 展示品は、パソコン勃興期のアップルⅠやLisa、あるいはインテルの4004、あるいはアタリ社の世界初のコンピュターアーケードゲーム、TVゲームなど貴重なパソコンやゲーム機などをよく集めている。しかし、全体の印象としては専門的な解説共に往年のゲーム機が並んでいるだけとの印象が否めない。
 そう考えると、国立科学博物館の主な入館者である小学生や中学生がどれだけこの企画を楽しめたのか多少心配である。むしろ、30代以上のかつての子供たちのほうが昔遊んだゲームを懐かしみながら楽しめたかもしれない。
 ならば、もう少し内容的に掘り下げてゲーム機産業の歴史という面を取り上げたほうが面白い企画が出来たようにも思える。実際、展示を見ていくと産業初期におけるアタリ社の存在感の大きさや、国内のゲーム機の輸入時代、そして、ゲーム機の大競争時代から寡占市場への流れがはっきりと読みとれる。
 すると、アタリ社はその後一体どうなってしまったのだろうとか、エポック、トミー、タカラ、学研、SNKといった初期のTVゲームを作っていたメーカーは今どうしているのだろうという疑問が当然出て来るのだ。
 しかし、そういった解説はされていない。ビジネスの現場を見せてしまうには、ゲーム機の歴史はあまりにも短く生々しいのかもしれない。ゲーム機企業の歴史はいまだ現在進行形である。今この時点で起こっているこの展覧会さえ歴史の一部として刻まれて行くのだろう。

『テレビゲームとデジタル科学展』 2004年7月17日~10月11日 国立科学博物館(東京・上野公園)
主催:国立科学博物館、TBS、読売広告社/特別協賛:PlayStation ®2、NTT東日本
協賛:株式会社バンダイ

国立科学博物館 『テレビゲームとデジタル科学展』プレーステーション.COM 
アタリ社  
アタリミュージアム 

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