『真・女立喰師列伝』 神山健治監督インタビュー
          「Dandelion 学食のマブ」 アニメの方法論は実写にも通用する その2
  
 2. 映画は意図的に欠落を獲得していくアートである

アニメアニメ
(以下AA)


監督は高校の頃、食品について学ばれていたそうですが、今回ファミレスを舞台にした時に、ファストフードと現代都市生活の「食」についてどのようなことを考えましたか?

神山監督
(以下神山)

押井さんは食べることに僕らより貪欲に考えていると思います。珍しく今回はないのですが、押井さんの実写では、ものをガツガツ食べている画を撮るんですよね。

僕は食に対するこだわりが世代的にいえばもうちょっと落ちてきて、食べ物自体がインダストリアル製でいいっていうかね、その規格の中で作られたものを食べてきた世代なんです。
立ち食いの場面も立ち食いそばじゃなくて、ファーストフードだったり、ファミレスなんですよね。

AA

確かに、ファミレスは自分の時間を持てる場所ですね。

神山

ファミレスで企画を考えたし、ファミレスで脚本書いたし、ファミレスで絵コンテを切ってきた世代なんで。食べるっていう行為とともに、時間を共有できる場所っていうかね、そういう場所なんですよね。

立ち食いそばって時間を共有する空間ではないけど、僕らの場合は時間を共有する場所のような気がしていて。
待ち合わせだったり、学生の時に仲間と集まってレポートをファミレスで書いていたり、そういう場所なのかなと。
食べること自体がメインでなくなってきている、そんな感覚がありますよね。

そういうわけなので、立喰師っていう当初、押井さんが考えていた、騙してでも食べていかなくちゃいけない、生きるってことに直結している「食」とは多少違う気がしているんですよね。


(c)2007 八八粍・デイズ/ジェネオン エンタテインメント

AA

押井さんは、ずっと以前から実写もアニメも監督されています。神山監督もおられた押井塾ではどんなことを教わったのですか?

神山

押井塾で勉強したのはどちらかというと、企画の通し方だったと思います。演出塾ではなくて、プロデューサー塾に近いんですよ。どうしたら企画というものが通っていくか、企画段階で必要とされているものを教える塾でした。

現場では監督なり演出なりと呼ばれている人間が、一番酷い目にあうわけですよ。
一番酷い目に遭うかわいそうなやつに与えられる、ただ一つの特権っていうのは、映画の中で自己を獲得できるかもしれないという可能性だけです。
その権利だけが与えられるわけです。 そのことは現場でしか体験できないので、押井塾とかで体験できるようなものではないんです。

神山
キップが発行されないのでは意味がないわけで、今思えば、むしろ押井塾の狙いはそれを体験するために、監督でありながらどうやったら企画を通せるのかを教えることだったのではないかと思います。
だから、企画書をずっと書いていたような感じですね。

AA

神山監督はアニメの美術担当出身ですが、一般的に美術担当出身のかたが、こういった演出や脚本を担当するのは珍しいかと思います。
なぜ、監督や演出に足をむけられたのですか?

神山

基本的には最初からやろうとしていて、業界に入ったきっかけが美術だっただけなんですよね。
だからふだんスタジオで美術の仕事をしていて、夜、ほとんど夜なんてないような仕事なんですけど、それでも仕事して帰ってからは、脚本書いたり、企画書を書いたりしていた感じですね。
いわゆる映画青年のアニメ版ですよね。小道具で業界に入ったけど最終的には監督になろうと思って脚本書いたりとかね。

AA

物語の最後のシーンなのですが、普通の映画ならもっと大げさに表すところを、淡々と演出して、抑えられている。
だから逆に伝わる感じがします。そういう効果は意識されたのですか?

神山

どうしてもテレビドラマとかで、感情の爆発というものを役者に依存しすぎているような気がしてね。演出家が過剰に演出を求めているのかもしれないんですけど、日常生活でそんな感情の爆発ってお目にかかったことないよね、っていうのが非常に気になっていました。

むしろ大きなことが起きたとしても、人間ってどちらかというとポカンとしていて、そこで起きたことっていうのは、後で考えるんですよね。
その場で起きている時は意外にその状況に飲まれていて、大きなリアクションをしないんですよね。アニメでも割と抑えているし、実写を撮るにあたってもそういうのは抑えておきたいなと思いました。

AA
実写ならではの撮り方はされましたか?

神山

アニメではやりにくいんだけど、実写って、ただ立っているだけでも情報があるんですよね。だったらむしろ抑えておいて、でも答えを用意しておくっていう形ならば、実写でもすごく画が持つだろうと思いました。

ラストシーンも音楽なしで、最後の僕が去っていくシーンの歩き方について、助監督をやってくれたある若い方が「落ち込んでいる感じがしない歩き方でしたけど、今のテイクでOKですか?」って指摘してくれて、なかなかよく見ているなって思いました。
あれは、整理がついているはずだとか、色々意味合いを込めていて、一応、記号として落ち込んでいない歩き方にしてみたんです。

そこでどういう風に感じてくれるかというのは、なかなかアニメではできないので。その行間みたいなのを読んでもらえればと思います。
僕は映画って、意図的に欠落を獲得していくアートだと思うんですよ。そこはあえて、明確にしないという意味もこめて、ある程度抑えていく。

AA
そういう時に、観る側とのすれ違いは気になりませんか?

神山

アニメで100%伝えようとしていても、行間とか、騙そうとかしないで、純粋に100%言いたいことを伝えたと思っても、必ずそこには齟齬が生まれるんですよね。
100%伝えようとするのも、作り手の一つのカタルシスではあるんだけれども、ある程度欠落を生んでおくということで、作品の強度が増す場合もあるんです。それはアニメよりも実写の方がやりやすいなっていう気がするんですよね。

ただ、そこには自分の明確な答えがなくてはいけない。
明確な答えがあるがゆえに、「落ち込んだ歩き方をしていない」んですけど、一応それを現場で気づいた助監督がいたことについては非常に、僕としてはニヤリという感じですし、それを「変だ」と取っても構わないし、足下に植わっていたタンポポは何を意味していたんだろうかと考えてもらってもいい。

それを、感情をコントロールするみたいに音楽をワーっと流しちゃうと、その感情しか生まれない可能性があるわけですよね。
逆に、音響作業をやってくれたミキサーさんからすると、「むしろ監督が一番大げさな芝居をしていますよ」(笑)って。僕は記号としてやっているので余計、大げさになっているかな。

AA

そういった手法はアニメから生まれてきたものですか?

神山

アニメからというか、作品を世に出した結果だと思います。
隠して演出したつもりはない話数でも、そういう現象は必ず生まれるんですね。見る人にとってはこれだけ分かりやすく伝えたつもりなのに、そういう捉え方をできる幅があったのかという。

僕は、テレビの21分のフィルムを毎回映画だと思って作っているので、なぜそうなっていったんだろうかと考えると、やはり、そこには何か伝えようとすることとは別の何かがあるんだなと思うようになりました。
それは少なくとも80本近い作品を世に問うた結果、感じてきたものなんですよね。それはアニメも実写も大きく変わらないような気がします。

AA
そういった考え方は、作る前から意識していたんですか?それとも作りながら湧いてきたんですか?

神山

習慣づいているなと思いました。実写で未体験なことが多いから、今回は狙ってやれることは少ないだろうなと思っていたんです。
とにかく撮ってみようとしか考えていなかったのですが、やってみたら習慣づいている手ごたえがあった感じですね。

AA

今後、こういった短編のような企画があればやってみたいという意欲はありますか?
また、次に新しい女優を使って撮ることになったら、どんな女優を撮りたいと思いますか?

神山

そうですね。監督はしてみたい気はします。ただ、カメラの向こう側にもう一度立ちたいかというと、それはあまりないですね。
女優については、今の段階では思いつかないなぁ。毎回毎回精一杯やっちゃうので、やれといわれたらまた新たに考え始めるでしょう。

AA

本日はお忙しいなかありがとうございました。

[インタビュー&インタビュー構成:日詰明嘉]
                            

【真・女立喰師列伝】

公式サイト http://www.deiz.com/onna/
11月10日(土)劇場公開

原作・総監修: 押井守
製作: 熊澤芳紀・大枝浩之・林裕之
エグゼクティブ・プロデューサー: 森遊机
プロデューサー: 久保淳
音楽: 川井憲次 (サウンドトラックCD:ジェネオン エンタテインメント)
音響監督: 若林和弘
主題歌「ヒメゴト」&エンディングテーマ「孤城の月」: 樹海(ジェネオン エンタテインメント)
VFXスーパーバイザー: 佐藤敦紀・神谷誠

□オープニング
監督:押井守/撮影:湯浅弘章/編集:佐藤敦紀/スチル撮影:坂?恵一/題字:鈴木敏夫
ケツネコロッケのお銀:兵藤まこ


■ 「Dandelion 学食のマブ」
監督: 神山健治
脚本: 神山健治・檜垣亮
撮影: 村川聡
編集: 植松淳一
学食のマブ: 安藤麻吹
神山店長: 神山健治(声:内田夕夜)
白い粉の男: 渡辺聡

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