日本初 モーニングの国際新人漫画賞は何を目指す? その2
                   モーニングツー 島田英二郎編集長に聞く

 ■ 海外でマンガはまだ本当に受け入れられていない

アニメアニメ
(以下AA)


今回は国際新人漫画賞ということなんですが、こうした募集をするなかで日本のマンガの海外での広がりについてはどう考えておられますか
。

島田英二郎氏
(以下敬称略島田)

この間、一度アメリカに行ったのですが、日本での報道とギャップがありますよね。日本ではアメリカでも日本のマンガはメジャーなものだと聞いていたけれど実際はそうじゃない。

確かに本屋行って大きなマンガの棚のまわりに子どもたちが群がっているのを見ると、日本のマンガがアメリカで受け入れられているように思ってしまいます。
でも、冷静に考えると、日本のマンガはサブカルチャーの一角で存在感を示しているに過ぎないことがわかってくる。少なくとも「メジャー」ではまったくない。「マイナーカルチャーのなかでメジャーな地位を占めた」というのが正しいでしょう。メジャーというのは、ハードユーザー(大ファン)以外の人たちまでがそれを読むということです。

AA

海外ではマンガはまだまだと言うことでしょうか。

島田
morning2.jpg

お断りしておきますが、私はメジャーであることがマイナーであることより上だとは思っていません。メジャーとマイナーは今や種類の違う概念です。ですからマンガはマイナーカルチャーでいいとはっきり意識している方たちには、その人たちの戦略があることでしょう。

それはさておき、私は基本的にマンガは海外でもメジャーカルチャーになれると思っているので、その立場からいえば確かに現在の海外のマンガ状況はまだまだといえますね。
たとえばアメリカで、10歳前後の子どもがマンガを読み始めるとして、最初は楽しんで読んでいたとしてもハイスクールに上がる頃には読むのを止めてしまうわけです。
日本の場合は、何割かは止めても、大人になっても読み続ける人は大勢いるし、中には大学生や社会人になってから、読み始める人もいる。海外では依然マンガは基本的には子供のものなんですよ。モーニングで連載されているような大人の作品は読まれていない。日本のように広く受け入れられているわけでない。

大賞『影の祭』が表紙になった「モーニングツー」▲
AA

ではなぜ日本では、広い世代でマンガが読まれるのでしょうか。青年マンガが成立する条件というのが日本だけ特別なのでしょうか?

島田

すごく様々な要因があるでしょう。「鶏が先か卵が先か」という議論になってしまうかもしれません。しかし、大人が読むに足りる作品を描ける作家がいて、それを読む読者が存在することが最大の理由です。
ただ、確実に言えるのは、例えばアメリカなら、アメリカ人が描いたマンガがアメリカ人に受け入れられてアメリカでヒットするようにならないと日本と同じ状況は生まれないと思います。これはフランスでもアジアの国々でも同じです。

AA

「マンガ=日本」のイメージが打破されなければ、いま以上の状況にはなりえないということですか?

島田

私がアメリカに行って驚いたのは、彼らは日本人が描いたものだけがマンガだと思っている。アメリカ人が描いたものはマンガとして受け入れられ難い。つまり、マンガは日本の文化的なイメージと非常に密接に結びついて評価されているのです。

AA

日本では、「“日本のマンガ”が海外で売れている」という状況に対して積極的な評価がされています。でも逆に言うと日本とマンガが結びつくことが、マンガが世界に広まるうえでの限界になっているということでしょか。

島田

日本のマンガに関係している人たちの多くが考えているのは、「“日本のマンガ”を世界中でメジャーにしたい」ということです。ところがこれは「“マンガという文化”が世界的にメジャーになる」ということとは矛盾していると思います。

ある特定の国が生んだ“文化”が世界文化になるには、その“文化”がそれを生んだ国から離れて、ある意味では他国に「奪われる」状態になってはじめて成立することなわけです。
マンガが、それを生んだ日本とだけ結びついているうちは、マンガは世界文化にならないし、世界におけるマンガの売れかたは今のままで終わるでしょう。

■ マンガのポテンシャルは過小評価されている

AA

それではマンガが日本と切り離されれば、マンガは今よりもずっと世界中に広がっていくことが可能になりますか?

島田

アメリカには日本の2倍の人口がいるので、アメリカで30万部の大ヒットといったら、それは日本で15万部しか売れていないマンガということになる。15万部では日本では大ヒットとは言えません。
先ほどもいったとおり、もしマンガの関係者が、アメリカにおけるマンガの売上の上限は50万部ぐらいだと思っているならば、それはそれでいいでしょう。でも私は日本でマンガが100万部売れるものなら、アメリカでは200万部売れてもおかしくないと思っています。

AA
それは日本のマンガがですか?

島田

日本マンガというだけでなく、マンガという表現形式が、です。マンガはそれだけのポテンシャルを持っています。
日本のマンガが今世界で売れていると言う人達は、マンガの持つポテンシャルを無意識のうちに甘く見ているのだと思います。

AA

世界でのマンガの存在感が高まるためには、日本からマンガが離れていく覚悟をする必要があるということですか。

島田

覚悟というというよりも、日本からマンガが離れることに何かの不都合があるとは思えない。
日本のマンガ関係者にとって、自分の国が生み出した文化が、世界中の人を喜ばしている状況をうれしいと思う気持ちはわかります。私だってもちろんそうは思います。でも、その状況が続いている限りは世界におけるマンガ状況はいまのままでしょう。

分かりやすい例で言うとサッカーみたいなものです。サッカーはイギリス発祥のスポーツだと、多くの人は知識としては知っていますが、サッカーはイギリスだけのものだなんて誰も思っていません。南米のものだったり、ヨーロッパ全体のものだったりするわけです。

■ 世界的に見ればマンガは黎明期


AA


そうすると今回の国際新人漫画賞で海外からマンガを応募してもらったことで、マンガのバリエーションが広がったと考えてもいいですか。

島田

いや、いまはまだ広がっていない。マンガを描く人が増えるほど優れたマンガ家が現われる確立が増える。理屈はそうです。
でも最初の話に戻りますが、今回日本の新人賞より多くの応募があったのにもかかわらず、現状では日本のほうがバリエーションは広い。

たぶんマンガは、いまやっと黎明期の終わりにさしかかっているのだと思います。おそらくここから始まるのでないか、わたしたちはいま歴史の転換点にいるわけです。

AA

今後は大きく変わっていく可能性があるということでしょうか?

島田

本質的には何も変わらず、いまの状況のまま歴史が進むことも考えられますが、このタイミングで何かがひとつ変わると、爆発的に違うところに行けるかもしれないという期待感があります。

AA

その大きな変化が起きるのにどのくらいの時間が必要ですか?

島田

うーん難しいですね。日本はいまマンガでは先を行っていて、おそらくワールドチャンピオンなのですが、その座を他国に奪われるということは、現状だとかなり難しいように思います。

ただ大きな変化をもたらすのはたった一人でいいんですよ。たった一人、本当にずば抜けた作家が出ること、それで一気に変わります。だから考えようによってはそれほど難しいわけはありません。
本当にものすごい作家が出れば、3年ぐらいで全部変わってしまうわけです。

AA

それは日本の手塚治虫のような存在でしょうか。

島田

日本のマンガ界は規模の大小はあれ、こうした変化を何度か体験しているのでは。手塚治虫がそうであることには誰も異論はないでしょう。

AA

最後に今後の国際新人漫画賞の方向性について教えて下さい。

島田

やることは、今後も賞を続けていくことです。出来ればこういう賞の意義をもっと多くの人に理解して欲しいですね。
マンガの発展がイコール日本文化の発展という考え方から視野を広げると、もっと面白いことが起きることをどこか頭の片隅に置いて欲しいと思います。

ある人から、たとえば「モーニングツー」のラインナップが全員外国人になってもいいのかと聞かれたことがあるのですが、作品が面白ければ一向に構わないと答えました。実際、少なくとも日本では、その作品が面白ければ、それを描いているのが何人かなんて誰も気にしないでしょ?
マンガという表現形式には、そういう一種の“融通無碍”というか“実質主義”みたいなエネルギーが本来的に備わっていると思う。

AA

批判もありましたか?

島田

はい。あったらしいです。でも批判も関心のうちですよね。国内メディアからも取材は受けましたが、正直海外からの注目のほうが大きかったんですよ。批判、反論、誹謗中傷、冷笑、なんでもいいから国内からももっと関心を持ってもらえればいいですね。

私が目指しているのは10年後か数十年後に、旅行先でマンガを読んでいる海外の子どもを見かけた時に、「マンガっていうのはもともと日本のものなんだよ」と言った時に、「初めてそんなことを聞いたよ。おじさん物知りだね」と返事が返ってくるようなことが起こることですね。

AA

本日はありがとうございました。第2回の募集も既に始まっていますが、今後のさらなる発展を期待しております。

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